『人生の特等席』Trouble with the Curve 2012アメリカ
監督:ロバート・ロレンツ
脚本:ランディ・ブラウン
クリント・イーストウッド
エイミー・アダムス
ジャスティン・ティンバーレイク
マシュー・リラード
ジョン・グッドマン
82歳のイーストウッドが、相変わらずの頑固おやじぶりでほっとする。
ここんとこでは珍しく彼の監督作品じゃなく、俳優としてのイーストウッドである。
安心して見れる、一つのスタイルにはまった作品で、はっぴぃな終わり方で久しぶりにほっとさせるのだ。こんなのもいい、と思った。
プロ野球を舞台にしたもので、ぼくはかつての『私を野球に連れてって』という醜悪な作品と、『フィールドオブドリームス』という過去の追想だけの映画で、野球映画にはとにかく印象が悪かった。それでこの映画もすっかり見る気はなかったのだが、もひとつ、人生の特等席、というタイトルにどこか見え透いたストーリーが浮かぶ、ということもあって、まさか見ようとは思わなかったのだ。
ひとえにこれは今のコロナ状況が原因していて、ヒマに加えてはっぴぃな映画を求めていたことによる。そいでつい見てしまったのだ。だから採点は否応もなく甘いのである。
娘をほとんど一人で育てたという設定の頑固おやじとちっとも家にいてくれなかった父という反発心だけで生きてきた娘の葛藤をテーマにしている、いわばおざなりな話なのだが、それをおざなりだけにとどめないイーストウッドの演技が良い。彼のキャラは、もうすでにいくら冷たいおやじを演じても決して冷たい人とはだれも思うまい、という自信に裏打ちされて映画を見れる、あるいは作れるという安全パイなのだった。
願ってもない相手(映画)である。
それでやっぱりそれを裏切らない、善き人映画になっているのだ。いや、だから、なーんだということになるかといえば、ならないんですねこれが。やはり上手いのだ。
実は娘を自分から遠ざけたという過去には、一つの理由があったのだ、というどんでん返しになっている。ま、それも、ある意味では最後に取って付けたような展開ではあるんだけれど、なぜか許せる。
それはコメディ仕立てにしているせいもある。
スカウトマンだったおやじの、カンが頼りの選別法が今や古臭いと言われていても決してめげない頑固さが、最後には勝つ、といった有り体な結末ではある。だが実は知らないうちに娘のほうが選手を見る眼をこつこつと養っていたという、つまり最後にオヤジをぎゃふんと言わせる一方で、反発していた娘が自分のフィールドに戻ってきたという誇らしさで、ニヤケる年老いた父像、というシチュエイションを描いて小気味が良いのである。
それにしてもまたまたこの邦題!困ったな。
しかし一応、娘が弁護士の職を得ようとしていたが、社会は女性に冷たく外された、が、身近なオヤジのスカウトマンというところに収まって、さて人生の特等の席はどちら?という落ちにはなっている。
しかし原題は、「あいつはカーブが打てない」というオヤジの発するキーワードに掛けて、人生の曲がりくねった道をあらわしているとしか思えない。
どちらにせよ、この映画は楽しくて教訓的である。

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