『真実一路』 昭和29年松竹
川島雄三監督 (山本有三原作)
淡島千景、山村聡、桂木洋子、多々良純、水村国臣
このころ「母もの」といわれた映画がけっこう作られたと思う。ぼくもよく見たという記憶がある。ほとんどが涙を誘うものとしてつくられたが、この映画はその多くの母もの映画とは一風違ったようすを見せている。泣けてそのあとにホッとするなんていう「俗」を排しているのだ。
どことなく凄味があるのだ。それは主役の淡島千景や山村聡をあっけなく死なせてしまう脚本にも現れている。
登場人物はみな自分の生き方を頑として曲げない人間として描かれている。それはあるときには我がままとも意固地ともとれるのだが、作者はどんな生き方であろうとその人間が自分の生き方を全うすることこそが、真実一路だといわんばかりである。
かなり複雑な事情を持った母親とその子供が軸になっている。母は子供の気持ちがどうにもわからない女で、ただ愛情とはその人を甘やかすことだとしか思うことのできない人間である。恋人と子供に対しても自分の愛を示すのに甘やかすことしかできない結果、事態は悪い方にしか進まない。それに気付かず彼女はついに生を終えてしまうのだ。
子供は求めるものがそういう愛情ではないとわかっているが、それをどう表現していいかわからずまわりの人間とのあいだに誤解と軋轢をつくってしまうのである。そしてこの子供の心情はついに誰にも明かされることなく、だれも理解することなく終わってしまう。
彼独特の「子供の世界」を描いている。さらには子どもの心は本人が言うべきものではなく大人が判断すべきものという作者の思想が現れているようだ。しかしこの映画の中でそれを正しく判断できた大人はいない。つまりこれは大人の映画なのである。
常套的な多くの映画は苦労して子供につくす女を母親として描くのだが、この映画は自分に忠実に生きた結果ついには子供を二度にわたって捨ててしまう母親を描くのである。まったく世界のどこにもないようなシチュエイションではないか。
淡島千景が見事な演技を見せる。

0