東京国際マラソンでお定まりの失速をした渋井陽子は、今回まったく注目されていなかった。
さもありなん。もう解説者たちは彼女の走りにはうんざりしているのだ。しかもあの大失速の東京国際マラソンから二ヶ月という短期間に再び大阪マラソンに挑戦とは!
また35キロ過ぎで「ジョギング」になってしまうんだろう、と大方の人が思っても仕方のない状況だった。もっぱら注目は初マラソンの赤羽やシモンに集まり、期待はその他の若手の登場にかけられていた。
おいおい、渋井は無視かよと突っ込みを入れたくなるほど、彼女は期待されていなかった。
ところがである、30キロでスパートしたのは渋井だった。しかしまだ疑いがあった。35キロを過ぎないと彼女の真価は分からない。このままいけるのだろうか。
ところが彼女はいつもと違っていた。ストライドが衰えずピッチもいい。あの重そうな足の運びはない。どこかがいつもと違う。もちろんいい意味で違うのだ。赤羽の苦しそうな顔とは裏腹に飄々とした顔をしている。35キロで独走状態に。それからも涼しい顔は変わらない。今回はやるぞと思った。
おかしなものだ。いったい何が彼女をこうさせたのだろう。強い身体に不具合な精神的弱点をどうやって克服したのだろう。やっと持っている力と気持ちのありようが握手したという感じだった。
ぼくは11月17日のこの場での報告で「あと二回ほど走ればいい結果が出るかも」と言ったが、一回でクリアしてしまった。しかもこの短期間で。
なんだか嬉しい。
復活の優勝だ。無駄にしたとも思えるこの8年間を取り戻し、より高みへと飛翔することができるだろうか。
期待しちゃうな。

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