2010/12/9
前回( http://angel.ap.teacup.com/veryape/109.html )の記事
取り合えず、河口湖駅前から宿の方に向かって歩き出す僕たち三人。
「あ、ここさっきバスの中から見たねー」とか「いい天気ですねー」とか「あ、富士山だぁ」とか「ここ何県なの?」とか、そんな至って日常的な会話を楽しんでいた我々だが、歩き始めてから五分ほど経ったころに、僕のバンドVery Apeでギター&兄を担当するTが「つーか、景色が侘しすぎて、食事できそうな店なんて全然ないんですけど」的なことを言い出した。
いやいやいやいや、分かってるよ。実は僕だってさっきからそう思ってるよ。でもさぁ、自分がこっちに歩いてれば何とかなるとか言い出した張本人だしさぁ、ここまで歩いて引き返すのも馬鹿馬鹿しいしさぁ。で、次の発言に繋がる訳です。
「馬鹿かっつーの!こういう田舎風景に突如として現れる一軒家風のほうとう屋が最高にまいうーなんだっつーの!いいから黙って歩けやこの頓痴気が!!」
しかし、この発言が大きな間違いであった……。
ここで大人しく引き返せばよかった……。
その後、僕らは食事のできるお店を探しつつ、ただ黙々と真っ直ぐ伸びる田舎道を歩き続けた。寒空の下、宿泊用の重い荷物を抱えながら…。
道中、ポツリポツリと飲食店があるにはあったのだが、そのどれもが「準備中」の看板を出しており、ランチタイムでもディナータイムでもないこんな中途半端な時間に営業している店舗などひとつもないのだ。24時間営業のコンビニエンスストアやファミリーレストラン、ファストフード店などが乱立するコンクリートジャングル、冷凍都市「東京」の感覚でいた僕が間違っていたよ。それにもうすでに15分以上歩き続けているというのに、タクシーなんて一台も通らないじゃないか。東京ではあんなに自慢げに「空車」サインを掲げたタクシーが何台も連なって走り回っているというのに…。
僕らは、もうタクシーが通ったら食事はよしてそのまま宿に行く構えだったのだが、それも叶わず、テンションはダダ下がり。んで、どうしようかなぁっつっても、もう結構歩いたし、今更引き返すのもさぁ、それにもう少し歩けばいい加減美味しい食事処が出てくるかも知れんし、そこで温かいものをしこたまお腹に入れたら元気出るかも知れんから、うん、僕たち頑張る!
しかし、現実はいつだって優しくないんだな。
すでに無言となった僕らが歩き始めてから30分ほど経過した頃、片側三車線の大きな国道にぶつかったのだが、そこで地図を見たグッチョが一言「僕らまだ1/3ぐらいしか歩いてないですよ…。」
……そうかそうか、まだこれまでの道のりの倍程度歩かなければ宿には辿り着けないのか。純情な感情も空回りだな。いや、でもさすがにこの大通りならタクシーぐらい通るっしょ!
いや、だから現実はそんなに甘くないのよね。ここもタクシーなんて全く通らなかったのよ。
バスを降りた時点では、ニコニコ笑顔であんなにテンションの高かったマラソンマンたちは、歩き続けるうちにすっかり感情を無くし、顔面蒼白の状態でその後何分歩いたのかももう思い出せないのだが、ふと我に返ると我々は、冷凍都市東京で日頃から見慣れているコンビニエンスストアや焼肉チェーン店や郊外型家電店などが眩いばかりに光輝き建ち並んでいる交差店に差し掛かろうとしていた。
これまでの、あまりにも何もなかった道程は一体なんだったのか。しかし、そんなことは最早どうでも良かった。我々にとってそこはオアシス以外の何物でもなかった。
いつもライヴの打ち上げなどで、Very Apeの楽曲「アイアイサー」を歌っている際のTの声が異常に甲高いということがネタにされているが、この時のTはアイアイサーどころの騒ぎじゃないほどのハイトーンヴォイスで喚き散らし、手足を無茶苦茶にバタつかせて、異常な速度のスキップでそこら中を跳ね回っていたほどだ。
僕たちは選択を迫られている。
そこには有名チェーンの焼き肉店が2つ(何故似たような店を2つ並べて作ったのか謎)、なんかキモいサーフな雰囲気のカフェがひとつ、ちょっと行ったところにコンビニがひとつ、そして郊外型で店舗内にちょっとしたフードコート的なエリアを設けた巨大なスーパーマーケットがひとつ、いずれも非常に魅力的な看板やのぼりなどを誇らしげに掲げて、僕らを迎え入れんとアピールしてきやがるのだ。
人間が三人集まれば、食べたいものも三者三様。僕らは悩みあぐねた挙句、選択肢の一番豊富そうなスーパーマーケットをチョイスした。
店内は、これまでの道程の人気のなさが嘘かのような異常な賑わいっぷりを見せており、フードコート内にも、ラーメン屋、うどん屋、ピザ屋、ハンバーガー屋、ドーナツ屋と、豊富な種類の店舗が軒を連ねていた。
我々は寒空の下一時間以上も歩いてきて体が芯まで冷え切っていたので、ほかほか湯気を立てて見るからに温かそうなうどん屋に吸い込まれ、うどんを買い、食った。
食い終わった後の僕ら、温まって呆けて手元の割りばしとか携帯とかをいじったりしていたのだが、これだけたくさんの店舗があると、今自分が空腹かとか、満腹かとか、そんなことは関係無くて、なんかもっと色々なものを食べたいなという欲求が異様に高まっており、僕らはハンバーガーやらドーナツやら思い思いのものを追加で購入し、また食った。
一通り食べつくして満足した僕らは、チェックイン予定時間の16時をとっくに過ぎていることもあったので、一度宿に連絡を入れることにした。連絡して、ここまでメッチャ歩いたことを伝えて、上手いこと同情を買うことができれば、もしかしたら宿のオーナーが車で迎えに来てくれるかもしれないし、と、その線もかなり本気で期待しながら、電話した。ジャンケンで負けたグッチョが。
まぁ、結果としては宿の人間が迎えに来てくれることは無かったっす。むしろ、17:30には皆帰っちゃうからそれまでには来てねと冷たく言い放たれたんだ。んで、ここから更に歩いて30分ぐらいかかることを教えてもらった。うげぇ。
そこから宿までの道のりの記憶はあんまり無い。
黙々と歩き続ける僕たち。ヒッチハイクをするというアイデアも出たけど、疲れた僕は「誰か頑張ってー」とか心の中で思いながら、何もせずに、ただ歩く。そんな中、車道に向かってひたすら親指を上げつ歩き続ける偉い子グッチョ。その時Tはどうしてたか?知らね。
その後、国道沿いから小道に入って、自分の姿すら見えないような真っ暗闇を歩いて、宿の看板が見えた時は本当に感動したなぁ…。
今にして思えば、宿の中で男三人、あの妙なハイテンションであんな奇行やこんな奇行に及んでしまったのは、この辛かった宿までの道のりから解放された安堵感というのも要因のひとつとしてあったのかもしれない…………。
ああ疲れた。取りあえず今回はここまで。続きはまた今度。
(ところで、このシリーズ一体いつ終わるの?なんか自分で勝手にドツボってダラダラ書いてしまってて、ちょっと泣きそうなんですが…)

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