2018/8/4

Goodbye Christopher Robin  ドーナル・グリーソン



こちらは2017年の「Winnie-the-Pooh/クマのプーさん」の著者A.A.ミルンとクリストファー・ロビンのモデルとなった息子の実話に基づいたお話です。

ところがややこしいことに、2018年には初のプーさん実写映画と題して「プーと大人になった僕」が公開されています。アメリカでは8/3、日本は9/14で、こちらの方は英語タイトルはもっと紛らわしく「Christopher Robin」です。内容は、実在したクリストファー・ロビンが中年になって・・・という事実に基づいているのかは不明な原作プーさんの後日談ファンタジーとなっています。

「大人に・・・」の方は大手ディズニーということもあり映画館に行くたびに予告編を見られて喜んだのもつかの間、「Goodbye・・・」の方はまだかなと楽しみに待っているのになんのニュースもなし。

「Goodbye・・・」はA.A.ミルンをドーナル・グリーソン、子供のクリストファーは無論子役ですが、成長した彼はなんとアレックス・ロウザーという見逃せないキャスティングですので、英国アマゾンから英語版DVDを買いました。そしたら日本版DVD発売が決定・・・?!

しかも、そのプロモーションなのかユーロライブのイベントで9/25に上映もされるとわかりました。町山智浩さんの解説付きで2500yenです。良かった、この映画を評価している人は日本にもいたのだな、と安心かつ盛り上がりました!


前置きが長くなりましたが、DVDの感想です。

「クマのプーさん」というハッピーな絵本の作者と登場人物のモデルとなった息子の話だというのに、何やらメランコリックなスチール写真です。

それはつまり、ハッピーなベストセラー本のおかげで一躍有名になってしまった本物のクリストファー・ロビンは、本人の意思にお構いなくセレブに祭り上げあられてしまったせいで不幸な少年〜青年時代を過ごしてしまった、というお話だからなのです。

プーさん著者のA.A.ミルン(ドーナル・グリーソン)は美しいが自己中なところがある妻ダフネ(マーゴット・ロビー)と結婚し、息子も生まれます。この一家がちょっと変わっていて、ミルンはアランという名前なのですがブルーと家族には呼ばれ(恐竜かw)、ダフネも本名じゃなく、息子クリストファー・ロビンはビリーと呼ばれています。

ミルンはもともとウエスト・エンドの劇作家だったのですが、第一次世界大戦へ行き、ソンムの戦い(もっとも悲惨なヨーロッパの戦いとして有名;ダニクレとベン・ウィショー出演の「ザ・トレンチ」はこの戦いの話)から帰還して、悲惨な塹壕戦による心の傷を負い、戦争より平和を求める新作を執筆しようとしましたが筆進まずロンドンからサセックスの田舎に引越しします。

田舎を嫌った奥さんは一人ロンドンに帰ってしまい、息子がとてもなついていたナニーのオリーブがいたのですが、彼女も実家の病人が悪化したため休みを取ってしまいます。そして残されたミルンと息子。

ふたりは遊んだり大きなテーブルを囲んで空いてる椅子にぬいぐるみ達を座らせ、あたかもふたりきりではないような賑やかな世界を作りました。ダフネは夫と息子を置き去りにしたけれど逆にその寂しさを紛らわすためにプーやイーヨ、ピグレットたちに活躍の場ができたわけです。ミルンは詩人でもあるので、遊びながら韻をふむ詩を作ります。これが作家の新作と発展したわけですね。息子との濃密な時間がなければ、机での作家活動からだけでは生まれなかったプーとクリストファー・ロビンの物語だったというわけです。

イギリスのそこそこの家(中流以上)のしつけは厳しく、子供は徹底的に大人に従わされます。でもそれが母親とナニーの不在で一瞬ふたりの男の子の世界となり、いつもパパがお仕事中には静かにしないと怒られていたのにパパがずっと一緒にいてくれたこの時期は、クリストファー・ロビンにとって初めての純粋な幸福の時だったはず。

それが、プーとクリストファー・ロビンの本が世界的に売れて、プレスやプロモーションに「本物のクリストファー・ロビン」として駆り出されるようになると、彼の幸福が他人に売られ、大好きなパパとママとの時間もなくなり、いつも大好きだったナニーも結婚して家を去り、パブリック・スクールに入学すると「本物のクリストファー・ロビン」といじめられてしまいます。テレビもない時代でも、ラジオや雑誌に「お茶会イベント」などメディアの影響力は今と同じだったのですね。SNSがないから、逆に情報はマスの一方通行、そこに個人としてのロビンは潰されてしまった。

「父に自分と自分の幸せをネタに搾取された」という思いは、成長してもいじめられる限りなくなることはない・・・

あのほのぼのとした、イギリスの田舎の生活のいいところが全部詰まったようなプーさんのお話の影に、こんな話があったとは、ショッキングなことです。

映画は後味が悪くなるようには作られておりませんし、プーとロビンの幸せはちゃんと見た人の心に残ります。

が、傷ついた心があったことも事実として知っておくことは、後世の人間として、大勢の幸せのためになぜか幸せを取られてしまったクリストファー・ロビンの魂のために大切なことだと思います。

映画には出てこないことですが、著者の死後、版権は妻から数人の手を渡ってウォルト・ディズニー社へ売却されました。プーのアニメ作品やキャラクターグッズが数多く世に出回ったのはそういうことでした。

そのおかげで絵本を読んでない人でもプーさんを知らない人はいないほど有名になったわけですから、回り回ってこの映画により葬られたクリストファー・ロビンのことが今また多くの人に知られるチャンスとなったと思えばロビンは少しは救われるでしょうか。

ところで、ミルンはクリケットが大好きで、ホームズ探偵の著者アーサー・コナン・ドイルと同じチームに入っていました。映画でも息子に遊びながら教えていました。映画の中で年をとったミルンが赤いモンスターボールのようなものを手の中にずっと持っていて、それを空高く放り投げるシーンがありますが、あれがクリケットのボールです。実は私あれが何なのかわからなかったのですが、DVDに入っている監督コメンタリーでそう言っていました。(*コメンタリーまだ最初しか聞いてないので、残りを聞いたら後日またアップしますね!)


俳優の話も少し。

ドーナルくん、なんか老けた?と冒頭で思ったらそれは老け後のミルンでした(笑)。そこから回想へといつものキレイなドーナルくんの軍服姿や正装姿が!1920年代は美男子がさらに輝く時代!

クリストファー・ロビン役の子は、マッシュルームヘアだとちょっとファニー・フェイスなんですが、前髪をあげると小さいハンサムくん。

成長したロビンのアレックス・ロウザーは鬱な静かな役で、「英国幽霊奇談」の時のような鬼気迫る演技ではありませんでしたが、そうなったら逆にタイヘンですね。

マーゴット・ロビーは下々の人を人とも思わないわがままなお金持ち女の役がとても美味かったです。息子のことは彼女なりに愛していたのもわかったし、だけど一番可愛いのは自分とロンドンの社交界なんだな、というのも伝わってきていた。美人だから仕方ないと納得させるものが(笑)。

そしてナニー役の女優さん、どこかで見た、どこかで見たと思ったら「トレインスポッティング」のダイアン、ベネディクト・カンバーバッチのBBCドラマ「Child In Time」でのベネさんの奥さん役のケリー・マクドナルドでした。彼女が、綺麗なのだけど大輪の花背負った奥さんとは正反対の、素朴でロビンを愛する素敵な女性を演じてました。彼女なら、自分が小さい男の子だったら大好きになっただろうなと思わせる。



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