『NANDA-I看護診断:定義と分類2012-2014』では、これまでの「第1軸・診断概念 Diagnostic Concept」が「診断焦点 Diagnostic Focus」に変わっています。しかも、何の説明もなしに。唐突な変更には、多くの方が驚いていることと思います。
私は現在、NANDA-Iの次期理事長であり、診断開発委員会委員長もしています。なかなか国内では情報発信する公式の場がないので、ここから皆様に情報提供させていただこうと考えました。
まず、今回の変更は、執筆担当者の個人的な考えと判断によるもので、NANDA-I会員の総意によるものではありません。NANDA-Iの中心的活動を行っている診断開発委員会でも、この変更については改訂版を手にしてから知ることになり、非常に困惑し、委員は皆反対しています。私は次版『NANDA-I2015-2017』(英語版2014年秋出版予定)の編集委員でもありますので、「診断概念」に変更し直すように努力したいと考えています。
そこで、「診断焦点」は「診断概念」と同じ、と考えておくことをお勧めします。
「焦点・Focus」は、そもそも、「ISO看護診断参照モデル」で使われていた表現です。執筆担当者は、個々の看護診断をこそ「診断概念」と呼ぶべき、という強い信念を持っています。「用語/term」と「言葉/word」と「概念/concept」をどのように定義するかによっても、このあたりの考え方は微妙に違ってくるのですが、確認したところ、「用語には意味がない、概念には意味がある」と、執筆担当者は考えていました。(私はそうは考えません。セミナーの中で解説しているとおりです。)その上で執筆担当者は、第1軸は意味のない用語、とみなしています。
NANDA-Iでは従来、第1軸を臨床判断の土台となる“診断概念”とみなし、開発を重視してきました。診断開発委員会でも、新たな看護診断を審査する際に注目するのは“診断概念”です。人間の反応を表す“診断概念”が特定できれば、論理的に、実在型・リスク型・ヘルスプロモーション型の看護診断の開発を検討することも可能になるからです。
個々の看護診断も確かに「概念」ではあるのですが、あえて呼ぶ必要があれば「看護診断概念」と呼ぶことになると思います。医学診断は「医学診断概念」とは決して呼びませんので、「看護診断概念」という表現は非常にまどろっこしいと思います。
今回の「診断概念→診断焦点」の唐突な変更は、NANDA-Iの組織としての未熟さによるものと理解して、3年間、我慢していただければ幸いです。もちろん、今後、二度と同じようなことが起こらないように、私もできる範囲で努力してゆきたいと思います。
第1の問題は、NANDA-I委員会活動のあり方です。診断開発委員会も以前は年に2回の対面式会議を開催し、関連する委員会との合同会議も開催していました。しかしこれは委員のほとんどが米国人であったから出来たことでした。現在NANDA-I会員の7割以上が米国外にいます。世界中から委員を委員会に召集するにはそれなりに経費がかかりますが、限られた予算で運営しているボランティア団体にはなかなか難しいことでもあります。この2年間は特に、対面式会議が見送られ、他の委員会との連携も希薄になっていました。今後は、支出面を切り詰めつつ、著作権違反を許さないといった収入確保につとめ、対面式会議を実現し、合同委員会も開催して、会員間の対話を重視する必要があります。幸いなことに、今年度は対面式会議が実現します。
第2は、編集や出版に関わる問題です。NANDA-Iの書籍は英国の出版社から発売されていますが、実際のデザインや編集や校正は全てNANDA-I理事や委員、つまり素人の仕事です。日本国内での本の制作過程と比べ、恐ろしく原始的な方法で本が作られています。前版の2009-2011年版との違いを確実にキャッチできる人がレビューすれば良かったのですが、分担執筆箇所のレビュー体制が非常に甘かったと思います。次版では、もっと出版の専門家の助けを借りることもそうですが、個人ではなく複数によるレビュー、関連委員会によるレビュー体制を確立しなくてはいけないと考えています。
最後に繰り返しますが、2012-2014年版の「診断焦点」は「診断概念」と同じ、と考えておくことをお勧めします。