「仏名会にあたり〜頻発するヘイトクライムを許さない社会を」
ピースアクション
浄土宗の法要次第でも、本題の経典に入る前に「懺悔文(さんげもん)」を唱えます。
よいことをする以前に、私たちは無意識にも罪を犯していることを認め、反省する必要があるからです。そして過ちを犯す原因は、我々が生来的(あるいは前世から)に持っている3つの弱点、つまり「貪」(貪り)、「瞋」(怒り・憎しみ)、「痴」(無知)の「三毒」(さんどく)に起因しており、さらにその過剰な欲望に駆り立てる原因は何か、憎しみの感情がどこから来るのか、真実を見えにくくしているものは何か、と掘り下げます。自らに内在する「機」を見つめるのと同時に、三毒を煽るメカニズムを見極めることも必要です。
人間が引き起こす戦争やジェノサイドは、これら三毒が支配されることで引き起こされてきました。それに抗うため、仏の慈悲と智慧を学び、実践するのです。そのテキストが私にとって浄土経典であり、日本国憲法であり、世界人権宣言をはじめとした国際条約でり、そして何より虐げられ、踏みつけられていう人々の声なき声なのです。
そんな思いで、1年間の懴悔総決算である年末の「仏名会」(ぶつみょうえ)に当たり、この声明を受け止めています。
声明 頻発するヘイトクライムを許さない社会を
2021年12月19日、大阪府東大阪市にある「在日本大韓民国民団(民団)枚岡支部」の事務所にハンマーのようなものが投げ込まれ出入り口の窓ガラスが壊される事件がおこりました。いまだ詳細は不明のため動機などは明らかになっていませんが、これまで日本各地で在日コリアン施設へのヘイトクライムが頻発している状況を考えればこれも同様の動機を背景にしていると考えざるを得ません。
2020年1月には川崎市で在日コリアンが館長を務める多文化共生のための施設に脅迫郵便物が送られており、今年に入っても7月24日、民団愛知県本部と隣接する韓国学校の一部が放火被害、8月30日には在日コリアン集住地域であるウトロで放火事件がおこり、倉庫・建物あわせて7棟が焼失するという大きな被害が発生しています。そして放火を犯した22歳の男性は自らの動機に関連して「注目を集めたくて火をつけた」という趣旨の供述をしていると報道されています。日本国内のマイノリティである韓国人・朝鮮人を攻撃すれば世間の注目を集められるという発想は、まるでネオナチのようです。一連の犯罪行為の犯人は別であったとしても、上記の事件は全て在日コリアンに対する憎悪・差別を背景とした犯罪行為である可能性が極めて高いと思われます。
ヘイトクライムはそれ自体が深刻な被害を与える犯罪行為です。川崎での脅迫郵便物は受け取った施設関係者に極度の不安と恐怖を与え、日常生活に長期にわたった深刻な影響を与えました。また、ウトロでは建物の焼失だけでなく、倉庫に保管してあった住民たちの生活と権利を守る努力を伝える史料、立て看板などが失われるという取り返しのつかない被害が生まれました。幸いにして人的被害はなかったものの現住住宅にも被害がおよんでいることから、場合によっては人命が失われていた可能性も否定できません。
こうした直接的な被害のみならずヘイトクライムはより深刻な社会的影響を与えます。ヘイトクライムは単なる個人による偶発的犯罪ではなく、社会的につくられた差別構造に起因しておこります。根強い在日コリアンに対する偏見や見下し、蔑視などがヘイトスピーチによって増幅、拡散するとともに敵愾心をあおり、「目立ちたい」「憎かった」などの「軽々な」理由で犯罪行為を引き起こすのです。つまりヘイトクライムは誰が加害者になるかもわからず、そしていつ、どこで在日コリアンが犯罪の被害を受けるかもわからない状況を生み出すのです。そればかりかヘイトクライムが起こった時点で、直接被害を受けていない在日コリアンも、いつ自分たちが被害者になるかもわからない恐怖心を感じる被害者となるのです。こうした一連の動きが、ジェノサイド(大量虐殺)を招いた過去の経験もあります。
ヘイトクライム被害の深刻さから、国連人種差別撤廃委員会は2001年以降の4回の審査において毎回日本にヘイトクライム対策を勧告しています。これに対して日本政府は「刑事裁判において差別的動機がある場合、量刑事情として適切に考慮されているから特別な対策は必要ない」と主張しています。しかしながら、これまで在日コリアンはじめマイノリティがターゲットになった刑事事件で、差別、憎悪が犯罪の動機である疑いがあるにもかかわらず、警察及び検察や裁判所は、差別、憎悪という人種主義的動機の有無について、捜査及び立証の対象として取り扱うことに積極的な姿勢を示したことはなく、表面的な被害のみを処罰の対象にしてきています。こうした捜査、司法の在り方は、日本政府の上記主張と矛盾するうえ、ヘイトクライムへの対応としては大きな問題であると言えます。
また司法のみならず、行政機関である日本政府、地方自治体もヘイトクライムに対する毅然とした姿勢を示す必要があると考えます。特に、マイノリティがターゲットになる犯罪は模倣犯が継続する可能性があるため、ヘイトクライムの可能性がある場合にはそれを許さないという姿勢を明確に示すべきだと考えます。残念ながら一連の事件の報道に対するネット記事のコメントでは「自作自演」「原因は在日にある」「危険だから早く帰国しろ」などのヘイトスピーチが数多く流され、二次被害を生み出し、第二の犯罪を誘発しかねない状況でもあります。
大阪市は最も早くヘイトスピーチ対策のための条例を制定し、「ヘイトスピーチは許さない」という姿勢を明確にしてきました。大阪府も2019年に条例を制定して対策を進めているところです。日本でもっとも在日コリアンが生活する大阪が早急に毅然とした姿勢を示すことは、日本全国に対しても大きなメッセージを発することになるでしょう。
ヘイトスピーチ解消法が前文で示しているように、ヘイトスピーチは当該マイノリティに深刻な被害を与え、平穏な生活を奪うとともに、当該地域社会に深刻な亀裂をもたらします。ましてやそれが犯罪行為にいたるとすれば社会にとって大きな脅威となっていくでしょう。私たちはヘイトスピーチ、ヘイトクライムの根絶と多文化共生社会の実現を心より願いつつ、以下のことを求めます。
1. 差別・憎悪による犯罪が強く疑われる事件が頻発している状況をふまえ、内閣総理大臣、法務大臣、事件が発生している地方自治体の知事がヘイトクライムを許さないという明確なメッセージを発信してくださることを求めます。
2. 捜査にあたっては、事実関係とともにその動機の解明をおこない、ヘイトクライムの危険性を十分に考慮した対応を司法機関に求めます。また捜査段階で被害者の被害状況とりわけヘイトによる被害感情にも十分配慮した対応を検察及び警察に求めます。
3. メディアに対し、報道するにあたっては事実関係と同時にヘイトクライムが疑われる場合にはその危険性を明確に伝え、批判する報道姿勢を堅持してくださるよう求めます。
2021年12月27日
特定非営利活動法人 コリアNGOセンター
在日コリアン弁護士協会(LAZAK)

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