国連子どもの権利条約の精神が生きる地域社会をめざす「江戸川子どもおんぶず」では、十五周年を記念して、絵本や児童書に登場する大人にスポットを当て、毎週一冊、一年間で五十三冊の絵本を紹介し、「絵本の中の素敵なおとなたち」という冊子にまとめました。そして、選ぶ過程で、あるいはそれらの絵本を題材にワークショップを行う中で、子どもに関わる大人のありかたについて考えています。
私たちが選んだ「素敵なおとな」は、必ずしも、暖かく見守ったり、手本になるようなおとなだけではありません。中には荒唐無稽でハチャメチャな大人がいます。例えば、住職さんたちのワークショップで『パパがサーカスと行っちゃった』というイスラエルの絵本を取り上げたときは、参加者から「とんでもない親だ。どこが素敵なのだ」という疑問とお叱りの声も聞かれました。
でも私がこのパパが素敵だと思うのは、本人が人生を目一杯楽しんでいることです。そして私が思い起こしたのは、パレスチナの人々です。イスラエルの軍事占領下で生活の手段を奪われ、子どもたちの目の前で、兵士に暴力を受け、理不尽に連行されることも日常茶飯事。そんな過酷な境遇にあっても、家族や仲間と共に本来の日常を生きようとする彼らとの出会いに、諦めない勇気を分け与えられた思いでした。
パレスチナ社会に住み、人々の目線で現実を伝え続けているイスラエル人ジャーナリストのアミラ・ハスさんは、昨年来日したときのインタビュー番組で、「パレスチナ人とともに生活していて感じるのは、彼らが、占領下で生きる政治的困難と、自分自身の人生をわけて考えられることの素晴らしさです。近所に住む西岸地区の子どもたちを見ていると、『生きることは神聖なのだ』という彼らの生に対する宗教的な態度の方が、私たちのようにあれこれ疑うことより健康的かもしれません。私はパレスチナ人から、困難にもかかわらず人生を愛するということを学んでいるのです。」と語っています。
過酷な境遇と神への信仰がそうさせているのかもしれませんが、私も彼らは人生を楽しむ天才だと思います。すぐ隣でイスラエルの近代的な社会を見せつけられながらも、誇り高くしなやかに生き抜く姿に、子どもたちもいのちの価値を感じているのでしょう。お金に縛られながら発展や成長を第一の目標にして、閉塞感を抱えている現代の日本の大人も、本当の自分にとっての幸せを見極めて生きることが、子どもへの責任でもあると思います。
最後に、子どもの権利条例をいち早く制定した川崎市の母子手帳にも掲載されている、子どもからおとなへのメッセージを紹介します。
まず、おとなが幸せでいてください。おとなが幸せじゃないのに、子どもだけ幸せになれません。おとなが幸せでないと、子どもに虐待とか体罰とかがおきます。条例に『子どもは愛情と理解をもって育まれる』とありますが、まず、家庭や学校、地域の中で、おとな同士が幸せでいてほしいのです。子どもはそういうなかで安心して生きることができます。
(公益財団法人 全国青少年教化協議会『ぴっぱら』2018年1-2月号に寄稿)

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