2021/11/7 0:44
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡 小説
「ねえ、今ちょっと良い?話したいことが…」
見る見るうちに遠ざかる背中を、イサベルは懸命に追いかけた。
「急いでるんだ。悪いけど後にしてくれないか」
「後って、いつぐらい後のこと?」
けんもほろろに突き放され、イサベルは即座に食い下がった。
元より人望のあるノアのことだ。紅白戦の準備もいよいよ大詰めを迎えるとあって、彼の両側は常に誰かで埋まっていた。そのこと自体は致し方がない。
しかし、いつなんどき話し掛けようが、ろくに目も合わせないというのはいかがなものだろうか。少なくとも、これまでの友好的な態度からはとても考えられなかった。
「作戦会議のことなら、これから最終段階に入るから、食堂では出来ない。後で要点だけまとめて話すけど、異論はないよね」
「それはまあ仕方のないことだけど。それより、ねえ何かあった?」
「何かって?」
「だから、その…もしかして、耳に入ったのかなって。誰かが私を…指揮官に…推したこと」
そこで、ノアの歩みがぴたりと止まった。
「やっぱり。でも、私は全然そのつもりないから。誰がそんな変なこと言ったんだろう」
「変なこと?」
「だって、そうでしょ。あなた以外が指揮官をやるなんて考えられないもの」
「どうして?」
ノアは真っ向からイサベルを見返した。イサベルは久しぶりに彼の視線をとらえたことに、内心ドギマギした。
「最適だからよ。私、初めてあの作戦を見たとき、本当にびっくりした。完璧な作戦だったもの。地形のこともみんなのことも知り尽くしているから書けたんだなって。それなのに、アグネスを警戒して、余所者の私なんかの案まで取り入れてくれて…」
「良いものを取り入れるのは、当たり前だろう」
「でも、もし私が逆の立場だったとして、昨日今日現れた人間の案を使うとか、出来るかなって思って。それが仮に素晴らしいものだったとして、反対に嫉妬しちゃうかもしれないし。 どっちにしても、自信があるからなせる技なんだなって」
「別に、そんなことない」
「そう?昨日だって、揉めそうになったのに、ちゃんとおさまるところにおさまったし」
「あれは俺の力じゃない。コナーが取り成してくれたからだ」
「力があるから、ああやって見方してくれる人がいるのよ。私にあんなこと言ってくれる人、いやしないもの。それなのに、何で私なんかに。もはや、嫌がらせとしか思えない」
言いながら、イサベルは自嘲気味に笑った。
「嫌がらせなんかじゃない」
「え?」
イサベルはきょとんとして、ノアを見返した。
「確かに、ちょっと考えなしだったかもしれないけど、それでも作戦の柱になる部分を考えたのはオーデンだから、作戦を書いた人が指揮したほうが良いって純粋に思っただけだ」
「ひょっとして、あなたは誰があんなこと言い出したか知ってるの?」
「え?それは…」
「い、良いの良いの。言わなくて大丈夫。立場があるもんね」
イサベルは慌てて手を振って、それからニッコリ笑った。
「忙しいのに、時間取ってくれてありがとう」
「あ、いや…」
「じゃあね」
言うだけ言うと、イサベルは踵を返した。そうして軽い足取りで元来た道を帰っていった。
残されたノアは、たちどころに全身が上気してくるのがわかった。
見る見るうちに遠ざかる背中を、イサベルは懸命に追いかけた。
「急いでるんだ。悪いけど後にしてくれないか」
「後って、いつぐらい後のこと?」
けんもほろろに突き放され、イサベルは即座に食い下がった。
元より人望のあるノアのことだ。紅白戦の準備もいよいよ大詰めを迎えるとあって、彼の両側は常に誰かで埋まっていた。そのこと自体は致し方がない。
しかし、いつなんどき話し掛けようが、ろくに目も合わせないというのはいかがなものだろうか。少なくとも、これまでの友好的な態度からはとても考えられなかった。
「作戦会議のことなら、これから最終段階に入るから、食堂では出来ない。後で要点だけまとめて話すけど、異論はないよね」
「それはまあ仕方のないことだけど。それより、ねえ何かあった?」
「何かって?」
「だから、その…もしかして、耳に入ったのかなって。誰かが私を…指揮官に…推したこと」
そこで、ノアの歩みがぴたりと止まった。
「やっぱり。でも、私は全然そのつもりないから。誰がそんな変なこと言ったんだろう」
「変なこと?」
「だって、そうでしょ。あなた以外が指揮官をやるなんて考えられないもの」
「どうして?」
ノアは真っ向からイサベルを見返した。イサベルは久しぶりに彼の視線をとらえたことに、内心ドギマギした。
「最適だからよ。私、初めてあの作戦を見たとき、本当にびっくりした。完璧な作戦だったもの。地形のこともみんなのことも知り尽くしているから書けたんだなって。それなのに、アグネスを警戒して、余所者の私なんかの案まで取り入れてくれて…」
「良いものを取り入れるのは、当たり前だろう」
「でも、もし私が逆の立場だったとして、昨日今日現れた人間の案を使うとか、出来るかなって思って。それが仮に素晴らしいものだったとして、反対に嫉妬しちゃうかもしれないし。 どっちにしても、自信があるからなせる技なんだなって」
「別に、そんなことない」
「そう?昨日だって、揉めそうになったのに、ちゃんとおさまるところにおさまったし」
「あれは俺の力じゃない。コナーが取り成してくれたからだ」
「力があるから、ああやって見方してくれる人がいるのよ。私にあんなこと言ってくれる人、いやしないもの。それなのに、何で私なんかに。もはや、嫌がらせとしか思えない」
言いながら、イサベルは自嘲気味に笑った。
「嫌がらせなんかじゃない」
「え?」
イサベルはきょとんとして、ノアを見返した。
「確かに、ちょっと考えなしだったかもしれないけど、それでも作戦の柱になる部分を考えたのはオーデンだから、作戦を書いた人が指揮したほうが良いって純粋に思っただけだ」
「ひょっとして、あなたは誰があんなこと言い出したか知ってるの?」
「え?それは…」
「い、良いの良いの。言わなくて大丈夫。立場があるもんね」
イサベルは慌てて手を振って、それからニッコリ笑った。
「忙しいのに、時間取ってくれてありがとう」
「あ、いや…」
「じゃあね」
言うだけ言うと、イサベルは踵を返した。そうして軽い足取りで元来た道を帰っていった。
残されたノアは、たちどころに全身が上気してくるのがわかった。