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2021/9/5  3:07

【指環】  小説(再掲)

「そんなところで何をしている」

兵舎からの帰り道、角を曲がれば宿屋というところで、タリウスの視界に見知った影が飛び込んできた。

「とうさん?!」

シェールは驚いて、勢い良く立ち上がった。そんな息子のすぐ近くには、もうひとつ、地面にしゃがみこむ影があった。

「お疲れさまです。今日は随分と早いお帰りですね」

「そんなこともないと思いますが…」

退っ引きならない事情があれば話は別だが、繁忙期ではない普段の日は、夕食前には帰宅するのが常である。

「それより、こんなところで二人して何を?」

「べ、別に何も」

シェールが慌てた様子で答える。その見るからに不自然な様に、タリウスは何かあったと直感する。

「ええ、お散歩をしていただけです。そろそろ帰るところでした」

「え?でもまだ…」

「良いのよ。さあ、もう帰りましょう」

何事かを言い掛けるシェールを制し、ユリアはそそくさと宿へと向かった。シェールもまたそれに続いた。

二人して何か良からぬことをしていたに違いない。そう思い気にはなったが、ユリアがいる限りそうそう滅多なことにはならない筈だ。ふいに思い直し、タリウスはひとまず見なかったふりをした。


その夜、ユリアは気分が優れないと言って夕食に降りてこなかった。そんな彼女のことを心配しつつ、タリウスはそれとなく息子の様子を観察した。だが、特にこれといっていつもと変わったところはない。

「シェール。もし何か困ったことがあったら、いつでも力になる。遠慮しないで言いなさい」

「わかった。でもとりあえず、僕は大丈夫」

シェールは一瞬きょとんとしてこちらを見たが、すぐに口角を上げた。

「そうか。なら良い」

恐らく、息子の言葉に嘘はない。タリウスは安堵のため息を吐いた。

「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

そのとき、窓の外に一瞬灯りが揺れるのが見えた。何となく気になって下を覗くと、灯りはみるみるうちに遠ざかっていった。

タリウスはハッとして、部屋を後にした。

「ユリア」

思い立って隣室の扉を叩くが応答がない。

「失礼」

しびれを切らせ、中に押し入ると部屋はもぬけの殻だった。やはり思った通りだ。タリウスは階下へと向かい、それから閂の外れた扉を開けた。


宿から少し行ったところで、ぼんやりとした灯りが浮かび上がっていた。先程、妻子と行き逢った場所である。

灯りのすぐそばでうごめく影に、タリウスは無造作に手を伸ばした。

「きゃあぁぁあ!!」

ユリアが絶叫する。いつぞやの待ち伏せ事件の反省から、いざというときのために声を上げる特訓をしたとミゼット=ミルズから伝え聞いたが、それが早速功を成したようである。

「落ち着いてください。私です」

「タリウス?!どうして」

「それはこちらが聞きたい。一体何がどうしたんですか」

ユリアは答えない。それどころか、しゃがみこんだままその場を動こうとしなかった。

「シェールが何かご迷惑を?」

「違います。シェールくんは関係ありません」

「だが…」

「ごめんなさい!」

「ユリア?」

「本当に、本当に、ごめんなさい」

闇の中、彼女は声を震わせて泣いていた。

9



2021/9/7  12:39

投稿者:そら

Tさま
ココロが癒しを欲しています。
楽しんでいただけたら!

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