ダラダラ中につきカメ更新 感想など、ちょろっとでも書き込んでいただけましたら泣いて喜びます🎵

2021/7/16  2:35

続ジョージア先生の長い長い夜2  小説

「失礼します」

消灯後の兵舎は普段と変わらず静まり返っていた。だが、上官の許可を得て教官室に入室した瞬間、タリウスは現状が紛れもなく非常事態であると認識した。

「君は今年の本科生をどう教育してきた」

開口一番、ゼイン=ミルズは、そう言って鋭くこちらを威嚇してきた。部屋全体を張り詰めた空気が包んでいる。

「申し訳ございません。直ちに捜索に…」

「闇雲に捜したところで見付かるわけがなかろう。だいたい訓練生の行きそうな所は、既に一通りノーウッド教官が当たっている」

「では、直前まで行動を共にしていた者から話を聞きます」

「それももう済んだ。そもそも彼は今日の昼以降、単独行動をしている」

「そう、ですか」

規則で外出時の単独行動を禁じているわけではないが、それでも出来る限り複数で行動するよう訓練生には言い付けてある。

「そうですかじゃない!」

迂闊にも他人事のような返事を返すのをゼインが許す筈がない。机の上で指導記録が跳ねた。背表紙に刻まれた文字は、ポーター=カヴァナーである。

「家に逃げ帰ったということは考えられないのか」

「そういったことは、ないように思います。少なくとも昨日の夕方までは、目立ったトラブルはありませんし、カヴァナーは責任感も正義感も人並み以上にあります。志半ばで逃げ出すようなことは…」

「身の丈に合わない正義感は、時として身を滅ぼす。在りし日の君のようにね」

かつての師の意地悪に、タリウスはほんの一瞬、顔をしかめた。

「同室の者から話を聞いてきます」

だが、すぐに何事もなかったかのように受け流した。タリウスは上官が無言で頷くのを確認すると、一礼して部屋から辞した。

そうして廊下を歩きながら、自然とため息が漏れた。

ひとまず昔の自分のことは捨ておいて、くだんの教え子に想いを馳せた。確かにゼインの言うとおり、カヴァナーの正義感は時として行き過ぎるきらいがある。

本人の人柄が幸いし、周囲から疎まれることこそないが、ともすればトラブルに発展することも大いに見込まれる。最終的にカヴァナーを監督生にしなかった理由がそれだ。

目当ての居室を開けると、全員が即座に起立した。自分たちの意志で起きているのか、当直の指示なのかは定かではないが、彼らは非常に協力的であった。しかし、特にこれと言って有用な情報は得られなかった。

諦めて居室から引き上げようとしたときだ。廊下に何者かの気配を感じた。

「誰だ」

手燭の灯りをかざすと、暗がりに制服姿の少年が映し出された。

「チェイス?そこで何をしている。消灯時間はとうに過ぎている筈だ」

「ジョージア先生。カヴァナーはまだ…」

「お前に話す必要はない。それとも、行き先に心当たりでもあるのか」

「心当たりと言うか、その、少し気になることがありまして」

「ここでは声が響く。ついて来い」

いつもなら教官室を使うところだが、今夜はあいにく先客がいる。タリウスは考えた末、教室の片隅に灯りを点し、チェイスと向かい合って腰を下ろした。

「それで、気になることとは何だ」

「先週、街へ出掛けたとき、カヴァナーが懸賞を見ていました」

「懸賞?」

「賞金首って言うんですか。公安が貼った人相書きを熱心に見ていました。もしかしたら、どこかで遭遇するかもしれないから、そのために覚えているんだと言っていました」

いかにもカヴァナーらしい発想だと思うと同時に、もの凄く嫌な予感がしてきた。

「それで?」

「話の流れで、人相書きの男たちを捜すことになって」

「何故そんな真似をした」

「軽い気持ちでした。そんなに簡単に見付かるわけがないし、まさかその辺りにいるなんて思いませんでした。でも、カヴァナーが人相書きの男のひとりを見たと言い出して、それで…」

チェイスは言いよどんだ。

「どうしたんだ」

「尾行しました。すぐに巻かれてしまいましたが」

「馬鹿かお前たちは!!遊び半分でするようなことではないだろう」

夜更けであることも忘れ、タリウスは声を荒らげた。小さな子供ならともかく、彼らはつい先日本科生に上がったところだ。そのくらいの分別はもうあって然りだ。

「申し訳ありません。軽率でした」

チェイスが項垂れた。

「あのとき、カヴァナーは諦めきれない様子だったので、もしかしたら今日もまた賞金首を追っていたんじゃないかと思いまして」

「そのことをミルズ先生に話したか」

「いいえ」

「何故黙っていた」

「自分は今日、外禁だったので、事情を聞かれませんでした」

「事情を聞かれようが聞かれまいが、必要なことは報告しろ」

「言おうと思ったんですけど、すいません。ミルズ先生が怖すぎて近付けませんでした」

「そんなものは理由になるか!」

タリウスは再び語気を強めた。内心、気持ちはわかるが、と思いながら。

「それで、どのあたりだ」

「はい?」

「すぐに巻かれたと言っても、二三歩で逃げられたわけではないだろう。どのあたりで見失った」

「それは…」

チェイスが目を伏せた。

「お前には事の重大さがわからないようだな」

タリウスはおもむろに立ち上がると、壁に掛けられた教鞭を取った。教鞭は一般的には黒板を指し示すものだが、しばしばそれ以外の用途にも使われる。

教官は教鞭の先をチェイスの顎先にぴたりと押し当てた。チェイスの背中をじっとりとした汗が伝う。

「ひ、貧民街…です」

「立て」

かすれた声が絞り出されるや否や、教官が低く命じた。チェイスは弾かれたように立ち上がった。

「いっ!」

ピシリと尻に衝撃が加わる。

「すいませ…」

「すいませんで済ませられる話ではない。当然、このくらいは覚悟の上だろう」

訓練生の外出には制限があり、中でも貧民街と呼ばれる退廃地区への出入りは、固く禁じられていた。住民の大半が貧困に窮しており、犯罪の温床になっているからだ。

「うっ…あぁ…」

続けざまに一ダース打って、タリウスは鞭を下ろした。

「続きはカヴァナーが帰ってからだ。当面、身分証は戻ってこないと思え」

教官は元あったところに鞭を戻し、足早に立ち去った。チェイスはと言えば、両手で机の端を掴んだまま、ガクガクと足を震わせていた。
6



2021/7/17  22:51

投稿者:そら

Tさま
こちらこそありがとうございます!
あとでまたどっかに書きますが、今回の話はTさまのコメントからヒントというか、着想を得て書きました。

2021/7/16  19:16

投稿者:そら

Rさま
昨夜は続きを書きながら寝落ちてしまい、お返事出来ず失礼しました。
そうなんですよ。ドーン、チェイス、カヴァナー(トンチンカントリオ)は前作に出てきた同じ部屋仲間です。気付いていただけて嬉しいです!
これからどうなるか、私もよくわかっていないのですが、お楽しみいただけたらと思います。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ