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2021/6/22  7:12

鬼面仏心7  小説

一方、タリウスはと言うと、しばらく夜風に当たっているうちに、混乱した頭が徐々に冷えていった。

帰宅後、初めに見たシェールは明らかに元気がなかった。だが、元気がないだけで、決して生気がないわけではない。その証拠に、息子の身体からは有り余るエネルギーが溢れ出していた。

元来、シェールは腕白だが、気性はそう荒くない。そんな彼があれほどまでに怒ることは珍しかった。そうまでして働きたいということか、ただ単に意地になっているだけか、どうにも解せなかった。

視線を上げると、自室の窓から薄明かりが漏れ出しているのが見えた。今頃、ユリアがうまいこと取り成してくれているだろうか。

彼女は、子供の扱いがわからず苦悩する自分に、いつも穏やかに寄り添ってくれる稀有な存在である。

かたや、自分は己の感情ばかりを優先し、全くと言って良いほど、息子に寄り添っていない。息子のことがわからないことより、わかろうとしなかったことが問題なのだろう。

思考が明瞭になると共に、今度は自責の念に苛まれた。


「とうさん、どこ行ったのかな」

「そうね、その辺りを一回りしてくるだけじゃないかしら」

その後、落ち着きを取り戻したシェールは、ユリアに促され、階下へ向かった。だが、食堂に父の姿はなく、念のために確認した玄関の閂(かんぬき)は外れたままだった。

「そうかな。ひょっとしたら、今夜は帰らない気かも」

「まさか」

「ちょっと捜してくる」

「待って、シェールくん」

言うが早い、シェールは勢い良く玄関から飛び出していく。その後を慌ててユリアが追い掛けた。

「こんな時間にどこへ行くつもりだ」

「とうさん?!」

宿から数歩踏み出したところで、まさかの父に遭遇した。

「質問に答えろ」

「えーと、その、とうさんを捜しに」

険のある声に、シェールの背中を冷たいものが伝う。門限後の無断外出は、門限破り以上の罪に問われることを思い出したのだ。

「夜中にひとりで出掛けるなとあれほど…」

「ひとりじゃないわ」

「おねえちゃん?」

場違いなほど涼やかな声に、シェールは驚いて後ろを振り返った。

「僭越ながら、私も一緒です」

シェールは、恐る恐る再び父親を窺った。

「今夜のところはユリアに免じて目をつぶる。だが、二度とするな」

「はい」

従順な返事が返されたことを確認すると、タリウスは二人の横をすり抜け、宿へと入っていった。呆然とするシェールの背を押し、ユリアもまた玄関へと引き返した。

「いろいろおありでしょうが、ひとまず食事にしませんか」

彼女はそう提案すると、食堂に向かい先に立って歩いた。すぐさまシェールが後を追い、タリウスもまたそれに倣った。

「シェールくんはここで待っていて」

「で、でも」

「お料理を温めたらすぐに戻るわ」

ユリアはにっこりと微笑むと、有無を言わさず炊事場に下がった。

シェールはそっと父の様子を窺った。父はいつもの席にいつもどおり腰を下ろしている。

シェールは観念して、父の向かいの席に着いた。勿論他にいくらでも席はあるが、何年もの間、習慣的に座っている席から他所へ移るのは、なんとなくおさまりが悪い気がした。


「さっきは悪かった。お前の気持ちも考えずに、無神経なことを言ったな」

意外なことに、先に口火を切ったのは父だった。

「いらないなら、最初からそう言ってくれたら…」

「いらなかったわけではない。ただ何だか申し訳なくて、使ってしまうのが惜しくて、手をつけられなかった」

「ああ、そう。そうなんだ」

シェールはきょとんとして、父親を仰ぎ見た。

「お前の気持ちは嬉しい。嬉しいが、そのために負担を掛けたくないし、そもそもお前を働きにやらなければならないほど、うちは困窮していない」

「わかってるって、そんなこと。ただ自分に出来ることをしたいって思っただけだよ。返せるわけないってわかってるけど、でもちょっとでも返したかった」

「返す?」

一体何の話かと、タリウスは真顔で聞き返した。

「とうさんから受けた、その…恩って言うか」

「子供はそんなことを考えなくて良い」

予想外の台詞に、驚いてつい声が大きくなった。

「仕方ないじゃん、僕はそう思ったんだから。それに、認めて、欲しかったんだよね。僕を拾って良かったって、ほんのちょっとでも思って欲しくて」

「そんなことを考えていたのか」

続く言葉に、タリウスはいよいよもって落ち着かなくなる。

「うん。でも、しないほうが良かったんだよね。そんなに、とうさんが嫌なら…」

「嫌なわけがあるか」

ようやく現実を受け入れ始めたところで、今度はじわじわと歓喜が上がってきた。

「でも」

「お前の親になれて良かった。だが、それは何も今初めて思ったわけではない。いちいち口にしないだけで、日々そう感じている」

「うっそ」

「本当だ。シェール、お前はとうさんの自慢の息子だ」

タリウスは臆面もなく言い放った。シェールは驚いて、本当は嬉しい筈なのに、何故だかドギマギして返答に窮した。

「全っ然そんなことないって。昨日だって、考えなしに変なことしちゃったし」

「昨日のことはもう良い。今はまだ辛いかもしれないが、きちんと反省出来たのなら、そこから先はもう前を見るしかない。いずれ、どうにかなる」

「どうにかって、ママみたいなこと言うんだね」

成せばなる、どうにかなるは、旧友の口癖である。

「確かに、そうだな」

普段の自分ならまず言うことのない、不確定で無責任な発言である。だが、どうしたことか、今の息子にはそれが最適だと思った。

そしてその勢いで、タリウスは自分でも信じがたい発言をした。

「シェール、お前が本気で仕事を続けたいと言うのなら、もう反対はしない」

「ホントに?」

シェールは信じられないと言ったきり、固まった。

「この際だから、お前の善意に甘えることにした。だが、勉強だけはきちんとしろ」

「わかってる。初めの頃は、覚えることが多くて、時間ばっかり掛かったけど、今はもう慣れたし、そんなに大変じゃない。そりゃ仕事を始める前よりかは忙しくなったけど、その分早く寝るようになったし、宿題だって先に済ませてる。悪いことばっかじゃないよ」

「そうか」

知らぬまに、息子は随分と進化を遂げたようである。

「でも、とうさん。ホントに良いの?」

「仕方ないだろう。言い出したら聞きやしないんだ」

「そ、そんなことないよ」

「だったら、何故お前は今でも出窓に座っている?」

「は?何の話?」

こちらにとってそれは、初めて自分が折れた苦い経験だが、息子のほうは記憶にすら残っていないらしかった。

「何でもない。そんなことより、シェール。友達のことを大事にするように、自分自身のことも大事にしてあげなさい。これは命令ではない。とうさんからのお願いだ」

「うん、わかった」

言い付けは平気で破る息子も、お願いには滅法弱い筈だ。些か卑怯な気もするが、親子喧嘩なんてものは、元来ルール無用だ。そう思うことにする。




な、長かった。そして、何故かシェールに軍配が…?
いただきましたありがたいコメントには、順次お返事いたします。今しばらくお待ちください。

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2021/6/23  14:39

投稿者:そら

Rさま
カーラさんはぼっちゃん至上主義ですからね。当初、シェールの話を聞いてやるのは彼女だったのですが(ぼっちゃんとおばちゃんのやりとりもひととおり書いている)、途中でおねーちゃんが帰ってきたので、お蔵入りさせた経緯がありますw
お付き合いいただき、ありがとうございました!

2021/6/23  13:13

投稿者:そら

2021/6/22 12:09の方
ありがとうございます!オニ教官をしている隙のないタリウスも好きですが、発展途上のタリパパも、彼らしくて好きなのです。

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