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2021/6/14  18:31

鬼面仏心6  小説

「ぼっちゃん、大丈夫かい?」

階段を降りたところで、心配そうに二階を伺う女将と遭遇した。食事も摂らずに、大声で諍いをしていたのだ。無理もない。

「お騒がせして申し訳ない」

「どうせあんたたちしかいないから、それは良いけど。それよりか、心配なのはぼっちゃんだよ。昨日からずっと元気がないみたいで、今日なんておやつにも来なかったんだよ」

「はあ」

察するに、一連の騒ぎで頭が一杯になり、それどころではなかったのだろう。そう思い、気のない返事を返すと、たちまち女将が目の色を変えた。

「はあってあんた。大した問題じゃないと思ってるかもしれないけど。私はね、ぼっちゃんがこんな小さい頃から毎日一緒にお茶してるんだ。それなのに、こんなことは虫歯になったとき以来、初めてだよ」

女将は声のトーンを落としつつ、それでいて鋭くこちらを威圧した。

「そう、ですか」

「そうだよ。何があったのか知らないけど、あの落ち込み方は相当なものだよ。ぼっちゃんは、そこいらの子よりよっぽど賢いし、身体も大きくなったけど、それにしたってまだ子供じゃないか」

確かに今日のシェールは、見るからにひどくうちひしがれていた。もう済んだこととして勝手に片付けてきたが、本人にしてみれば、それほど簡単に流せることではなかったのかもしれない。

タリウスはため息を吐き、それから宣言どおり、戸口へと向かった。頭を冷やしたかった。

「ただいま戻りました」

玄関の戸に手を掛けたそのとき、向かいからなんとも涼やかな声が聞こえた。ユリアの帰還である。

「お取り込み中、ですか?」

「いや…」

「ぼっちゃんが拗らせててね。それなのに、おとうさん、からきし空気読めないから」

なかなかの言われようであるが、事実なだけに何の反論も出来ない。クスリとユリアが笑った。

「私でよろしければ、ひとまず様子を見に行ってきましょうか」

いつもながら、彼女の笑顔には大いに救われるおもいがした。


「ただいま、シェールくん。もう寝てしまった?」

幾度かのノックの後、ユリアはドア越しに帰宅を告げた。

「おねえちゃん?とうさんに何か言われた?」

シェールは、背中をドアにつけたまま、小声で返事を返した。彼はあのままドアのすぐ前に座り込んでいた。

「いいえ。タリウスなら、頭を抱えて出ていったけれど」

「へ?何で?」

「さあ、女将さんと言い合いと言うか、一方的に責められている感じがしたけれど、よくはわからないわ。気になる?」

「うん。とうさんが僕のことで怒られてるんなら、やっぱりちょっと気になる」

「シェールくんは本当にやさしいのね。でも、そんなふうにいつもみんなに気を遣ってばかりで、疲れない?」

「別にいつもじゃないし、みんなにでもないよ。特にとうさんには言いたいこと言ってる」

「ふふふ。それでタリウスと喧嘩に?」

「だって、とうさんひどいんだ」

思い出したらまた腹が立ってきた。シェールは立ち上がって、扉を開けた。

「聞いてくれる?」

「ええ、もちろんよ」

シェールはユリアを招き入れ、それから先程あったことを話して聞かせた。

「信じられなくない?僕があげたお金、全然使わずに返すって言ってきたんだ」

「それはいくらなんでも、あんまりよね」

「でしょう?!」

「でも、使えなかった気持ちも、なんとなくだけど、わかるような気がするわ」

「なんで?お金って、使うためにあるんでしょ?」

「もちろんそうだけど、でも、勿体なくて使えなかったんじゃないかしら」

しきりにひどいと繰り返すシェールにユリアは苦笑した。

「ねえ、シェールくん。シェールくんが稼いだ硬貨一枚と、大人が稼いだ硬貨一枚とでは、どっちが価値があると思う?」

「そんなの、どっちも同じだよね。店屋に行ったって、同じものしか買えないし」

「でも、タリウスにとってはやっぱり違ったんだと思う。シェールくんが朝早くから起きて、やりたいことも我慢して、頑張って働いたお金だと思ったら、おいそれと使えなかったんじゃないかしら」

「それはまあ、なんとなくわかるけど。だからって、返さなくても」

「もう働かなくて良いって、突き返されたの?」

「さすがにそんなことは、されてないけど」

ユリアは知らないが、そもそも先に返せと言ったのはシェールだ。それきり二人は沈黙した。

「気を悪くしないで欲しいんだけど、カンニングのこと聞いたわ」

「ああ、あれ。結局全部ばれちゃったんだ」

「そう。色々と辛いおもいをしたわね」

「ううん、全部自分のせいだから」

「自分に責任があろうとなかろうと、辛いものは辛いし、苦しいものは苦しいわ。そうでしょう?」

やわらかな手が頬に触れた瞬間、折角乾き掛けた目頭がうっかりまた熱くなった。

「だって、私、自分が夜更かししたせいで寝坊したとわかっていたって、毎回落ち込むもの」

「それは、おねえちゃんが寝るの遅すぎなんだよ」

「そうかしら?」

軽やかな笑い声に、途端に涙が引っ込んだ。何故だかふいに、亡き母のことが思い出された。思わず彼女を凝視すると、今度はそっと手を握ってくれた。

「私ね、カンニングのことを初めて聞いたとき、それが良いかどうかは別として、すごいなって思った。お友だちのことを一番に考えて、自分が代わりに叱られようなんて、とても勇気のいることだもの」

「今考えたら、何であんなことしたのか、もうわかんないんだ。迷ってる時間もなかったし」

「そう。なら、タリウスのことまで考えている余裕はなかった?」

「一応考えたよ。とうさんにうそついて悪いって思ったし、それに、忙しいのに学校に呼び出されたことだって…」

「そういうことじゃなくて。タリウスの気持ち、考えた?」

「とうさんの気持ち?」

罪悪感に駆られたのも、お仕置きに恐怖したのも、それらはみんなシェール自身の感情である。

「シェールくんが無実の罪で責められたり、評判を落としたりするの、すごく嫌だった筈よ。当たり前よね。シェールくんのこと、大好きなんだから」

思ってもみなかった台詞に、シェールは言葉を失った。何でそんな簡単なことに今まで気付かなかったのだろう。父の胸中を考えたら、どうにもいたたまれなくなって、ほろりと涙がこぼれた。

「あのね、先生が言ってたんだ。カンニングしたって聞いても、とうさんは全然信じなかったって。僕のこと、信じてくれてたんだ。やっぱり、やっちゃいけないことだったんだね」

ユリアは黙って頷くと、震える背中をやさしくさすってくれた。シェールはしばらくの間、涙がこぼれ落ちるままに任せた。


スイマセン。決着つかず。延長戦に入りまーす。

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2021/6/22  20:29

投稿者:そら

Rさま
「シェール君としては大好きなパパに使ってほしかった」この一文がヒットで、何度も読み返してしまいました。
ユリアさん、今回は結構でばってましたね。

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