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2021/5/28  6:35

鬼面仏心1  小説

「カンニング?シェールがですか」

予想外の言葉に、タリウスは思わず聞き返した。机を挟んだ向かいには、年配の教師が苦い顔で腰掛けている。これまでに手紙のやりとりをしたことはあるが、実際に顔を会わすのは今日が初めてである。

「信じられないお気持ちでしょうが、それはこちらとしても同じです。しかし、残念ながら先程本人が認めました」

「本人の自白だけですか。先生はカンニングの現場をご覧になったわけでは」

「見ました」

教師は食い気味に答えた。

「私が見たとき、シェールくんは隣の生徒の机を身を乗り出して覗き込んでいました。その生徒もシェールくんに見られたと言っています」

「答案を見せていただけますか」

「はい?」

「二人の答案を見れば、本当に不正行為をしたかどうかわかる筈です」

仕事柄、この手のトラブルに遭遇することは稀にある。極めて有用な手立てだと思ったが、教師はそうは受け取らなかったようである。

「お気持ちはわかりますが、これは事実です」

彼女は苛立った声を返し、それから些か憐れみのこもった顔を見せた。

「確かにシェールくんの成績は悪いほうではありません。でも、新聞の仕事をするようになってからというもの、時折疲れた様子を見せることがありましたし、疲労から勉強出来ずにいたところに、魔が差したとしても、不思議はない筈です」

新聞配達のことを言われると、立つ瀬がない。これまで本人の意思を尊重してやらせてきたが、こんなことになるなら、無理にでもやめさせるべきだったか。腹の中で後悔が降り積もる。

「今回のことは重大な案件だと思いましたので、お忙しいとは存じましたが、ご足労願った次第です」

教師の説明だけでは到底納得できない。だが、これ以上ごねたところで、話のわからない親だと思われるだけだ。タリウスが諦めて頭を下げようとしたとき、俄に部屋の外が騒がしくなった。

「先生!」

見れば、庭に面したガラスを子供たちが叩いていた。 授業はとうにひけている時間である。教師は驚いて席を立った。

「先生!さっきのことですけど、どう考えても納得出来なくて…」

「来客中です。静かにしなさい」

彼女は窓を開け、顔をしかめた。

「でも、シェールのこと、やっぱりおかしいと思います。それにオレ、思い出したんです」

「何がです」

「試験中、後ろの方から言い争う声が聞こえて、シェールが言ってたんです。ちょっとやめてって。それって、カンニングしたんじゃなくて、されたほうが言うことじゃないですか」

「それは、答案を盗み見るのを阻止されそうになって、そう言ったのかもしれないでしょう」

「そうかもしれないけれど、でもでも!!それだけじゃなくて、なあ」

少年は隣にいる少女を窺った。少女がコクンとうなずく。

「昨日、私、シェールくんに算数を教えてもらいました。これです」

少女は手にしていた教科書を繰ると、教師に見せた。

「この問題をどうやって解いたらいいかわからなくて困ってたら、シェールくんが一緒にやってくれたんです。こんな複雑な問題がわかるのに、何でカンニングなんてするんですか?おかしくないですか?」

「それはまあ、そうねぇ」

教師は教科書を覗き込み、首をひねった。

「でも、そうは言っても、本人が認めているのよ」

「先生は知らないかもしれないけど、シェールは困ってる人がいたらほっとけないんだ。だから」

「だから、シェールくんが嘘をついて、自分がやったと言っていると言うの?まさか」

「もし本当に試験が出来なかったとしても、シェールなら潔く悪い点とると思います」

「人のを見たりなんて絶対しません」

先程から彼らの言っていることは、親の自分から見ても筋が通っている。少なくとも教師の話よりはよほど共感できる。

「ねえ、おじさんもそう思うでしょ」

そんなことを思っていると、唐突に話を振られた。よくよく思い返すと知った顔である。窓越しに窮状を訴える子供にタリウスは苦笑した。

「息子がご迷惑をお掛けしました」

そう言って椅子から立ち上がると、子供たちが顔を見合わせた。

「お騒がせして大変申し訳ありませんが、何か行き違いがあるのかもしれません。今一度調べてはいただくわけにはいきませんか」

「そうですね。その必要がありそうです」

教師がいかにもきまりの悪そうな顔を見せたのとは対照的に、子供たちはほっとして胸を撫で下ろした。


ひさびさに父子で本編スタートです☆気長にお付き合いください。

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