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2021/5/15  1:59

先見之明4  小説

「座学はもうたくさんだ。訓練を見せろ」

続いて訪れた屋外演習場では、弓術訓練の真っ只中だった。予科生たちはいくつかの班に分かれ、的に向かい順番に矢を放っていた。

弓術は士官候補生採用試験でも技量が試されるが、その専門性の高さから、入校の時点で弓の扱いに精通している者は殆どいない。実質的に、士官学校に入校し、初めて弓術のいろはを習うと言って良い。

「お前もここで弓を?」

「はい。鍛練いたしました」

そんな予科生たちの合間を縫うようにして、彼らは歩みを進めた。周囲を独特の緊張感が包んだ。

「おい、ひよっこ。勝負しろ」

「お断りいたします」

「何だと?」

まさかこうも易々と断られるとは思っていなかったのだろう。レグラスはさも不愉快そうにこちらを見やった。

「ですから、お断りしますと申し上げました。どうせわたくしが勝つに決まっています」

かつて、ミゼットは長いこと弓兵部隊に身を置いていた。それ故、弓術の腕前には自信がある。かたや、彼女はレグラスが剣以外の武器を手にしたところを見たことがない。

「ふん、言ったな。ひよっこ、この中から一人選べ」

「はい?」

「誰がお前と直接やると言った。勝負は人を見る目だ。俺とお前で一人ずつ士官候補生を選ぶ。どちらが選んだ奴が勝つか、勝負だ」

「そんな、勝手に…」

「教官殿、よろしいか」

言うが早いレグラスは老教官に向かって手を上げた。

「こいつらを二人ばかり借りたい」

「は!」

「ちょっと!ダメですって」

「何取って喰いはしない。技量のある者を近くで見たいだけだ」

「はっ!それでしたら…」

「いや、こちらで適当に見繕う。俺とこいつと、ひとりずつな」

何故よりによって、老教官のほうに声を掛けたのか。ミゼットはかつての師に向かって恨みがましい視線を送った。

「案ずるな、モリスン。統括からはお客人を最大限もてなすよう言われておる」

「ですが…」

「それにこいつらにとっても、またとない機会だ。何故反対する?」

「何故って、負けた者が責任を感じます。不適切です」

「相変わらずお嬢はあまっちょろいことをぬかす。こいつらが二年後、どこで何をしていると思う。フォード卿、申し訳ない。どうもこの娘は昔からやさしすぎるきらいがありましてな」

「そのやさしさとやらで不戦敗か」

「ち…!ああもう、わかりました」

この勢いで昔話でもされた日には目も当てられない。こうなれば自棄(やけ)である。ミゼットは、少年たちに向けて値踏みするような視線を送った。

入校して半年、未だどんぐりの背比べかと思いきや、早くも力の差は歴然と出始めている。出来れば他を寄せ付けないほど、際立った才をもつ者が良い。

少年たちの中には、そこそこ弓の扱いに長けている者はいるものの、そう言った意味ではどの子も決め手に欠けた。

そんなことを考えていると、背後から小気味の良い音が聞こえた。

振り返ると、的の中心部を一本の矢が狂いなく射貫いていた。そこから一直線に軌道を辿ると、少年が弓を引き終え、たった今自らが撃ち抜いた的を見据えていた。

この子だ。ミゼットは直感的にそう思った。

「ねえ…」

「そこのお前!一緒に来い」

だが、一歩遅かった。いや、正確には自分のほうが早かったように思うが、ともかく先を越された。ミゼットは唇を噛んだ。

「おい、早くお前も選べ」

そんな彼女をレグラスは嘲笑った。逃した魚は大きいが、こうなった以上は諦めざるを得ない。ミゼットは気を取り直して、改めて周囲を見回した。

少年たちの多くが、次第に状況を理解し始めたのだろう。彼らは見られていることを意識し、なかなか矢をつがえようとしない。教官にせっつかれ、おっかなびっくり弓を引いたところで、的には遠く及ばない。瞬く間に士気が下がった。

「どいつもこいつも何なのよ、もう」

「申し訳ありません」

腹の中で毒づいたつもりがうっかり声に出ていたようである。すれ違いざま、若き教官が口の中で呟いた。

「見てたんなら止めてよ」

「自分には不可能です」

もはやただの八つ当たりである。

「おい、そこ!インチキするんじゃない」

「してません!!」

狂戦士に吠えられ、ミゼットは反射的に言い返した。何事かと少年たちの動きが止まる。だが次の瞬間、勢い良く的を射る音にミゼットははっとした。

矢は的に命中しているものの、中心部からはやや外れていた。

そして、間を置かずにもう一投、矢が放たれた。今度はほぼ真ん中を射貫いていた。

「ねえ」

その少年は周囲の状況などまるでお構いなしに、黙々と矢をつがえた。

「ねえ、聞いて」

「自分…ですか?」

肩を叩かれて初めて、少年は自分を呼ぶ存在に気付いたようである。

「そう。あなたよ」

彼は正体不明の女性士官に返事を返しつつ、きょろきょろと周囲を伺った。自分が耳目を集めていることを今更ながら自覚したのだろう。

「私と一緒に来て」

少年の瞳はミゼットを通り越し、不安げに教官を見た。

「言われたとおりにしろ」

「あの、すいません。自分は何をすれば…」

「今と同じよ。一本でも多く的に当てて。簡単なことでしょう」

いかにもやさしげな声音とは裏腹に、その瞳は鋭く標的を見据えていた。


超中途半端ですが、長くなりそうなので一回切ります。
5



2021/5/17  20:44

投稿者:そら

Rさま
応援コメントありがとうございます!以下、めっちゃネタバレなので、読了後にお読みください。

完全タナボタ展開のようですが、ねえさん的にはヘクターの過集中と言うか、鈍感力を評価しての人選でした。勝てば良いのよ、的な。

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