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2021/4/29  17:42

先見之明1  小説

早朝の中央士官学校の正門をやたらと図体の大きな男が通り抜けた。

男は儀礼用の礼装をしているものの、その頬や額には無数の裂傷があり、もとよりそう良くはない目つきと相まって、まるで凶悪犯と見まごうばかりの様相である。

「おはようございます、レグラス様」

「ひよっこ?お前、そこで何をしている」

レグラス=フォードは、正門脇に控えていた女性士官、ミゼットを信じられないといった様子で凝視した。

「ひよっこではございません」

「ああ?」

レグラスはおもむろにミゼットの顔に手を伸ばすと、顎をつかんで自分のほうへ向けた。

そうしてかつての部下の瞳を覗き込むと、部下もまた視線を逸らすことなく真っ向から自分を捉えた。

確固たる意志を持ち、ともすれば好戦的にも見えるその瞳に、なつかしさとともに感慨深いものを感じた。

「確かに、我が軍きってのアイスドールも些か董が立ったようだ」

「生憎、化け物ではございません故、当然のことかと」

「ばっ?!」

ミゼットの台詞にレグラスは目を剥いた。北の狂戦士(バーサーカー)、それが彼の二つ名であるが、その容貌、殊に傷だらけの顔面から、化け物と揶揄する者も少なくない。

「相変わらず口の減らない女だな。この綺麗な顔が今も綺麗なままなのは誰のお陰だ。幾度背中を貸してやった」

「感謝しております」

レグラスが興奮気味に捲し立てるも、ミゼットはいたって冷静に言葉を返すだけだ。

「一体どの口が言うんだ。この口か?この口か?ああ?」

いよいよ自制できなくなったレグラスは、再びミゼットの顔に手を掛けた。すると、そんな彼の耳に、わざとらしい咳払いが聞こえた。

「フォード卿」

親指と人差し指で部下の口を挟んだまま、レグラスは背後を振り返った。

「ようこそお越しくださいました」

振り返った先で、教官が最敬礼していた。

「これではまるでわたくしが襲われているようですね」

「だ、誰がお前なんか…」

レグラスは乱暴にミゼットから手を離し、教官、タリウスを一瞥した。

「出迎えが遅いぞ」

「大変失礼いたしました。ただいま統括のところへご案内いたします」

「結構だ」

先方は、開校以来一二を争う厄介な賓客と言って良い。端からすんなり案内させてもらえるとは思っていなかったが、まさかこんなに早く暗礁に乗り上げるともまた予想していなかった。タリウスは絶句した。

「なに、たまたま朝早く起きたついでに、散歩がてら早めに来ただけだ。統括との約束の時間までは、こちらの好きにさせてもらう」

「そういうわけには…」

「それとも、何か見られたら困るものでもあるのか」

「いいえ、ございません。ですが、兵舎の中は要塞ほどの広さです。道案内は必要かと存じます」

教官は、表向きはあくまで柔和な態度を保ちつつ、それでいて少しも譲る気配がない。途端に空気が変化した。

「でしたら、わたくしをお連れください」

「お前を?」

「勿論、お邪魔でなければの話ですが」

穏和な声に再び空気が緩んだ。

「…しろ」

「はい?」

「とっととしろと言ったんだ。どうせ端からそのつもりで来たんだろう。行くぞ、ひよっこ」

言うが早い、レグラスは教官の横をすり抜け、ずんずんと進んだ。

「御意」

すかさずミゼットが後を追う。そして、教官とすれ違いざま、それまで彼が腰に下げていた鍵の束をそっと受け取った。

ふいに教官が目にした彼女の首筋には、片側だけ鳥肌が立っていた。
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