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2021/3/14  14:28

【覚醒】3  小説

その日の夕刻、階段を上がる軽い足音にタリウスは隣人の帰宅を知った。ノックの音に、すぐさま戸を開けると、突然正面から抱きつかれた。

「ユ…!?こら!」

咄嗟にたしなめるも、ユリアは一向に意に返さず、自分に取り付いたままこちらを見上げてきた。

「ただいま戻りました」

「もし、シェールがいたら…」

「確か今日はお稽古の日ですよね」

「そうですが」

「それに、シェールくんがいたら、きっと率先してドアを開けてくれている筈です」

だてに何年も隣に住んでいません、そう言って笑うユリアに、応酬する言葉が出て来ない。タリウスは吐息し、ひとまず彼女を部屋へ招き入れた。

「それはそうと、今朝はありがとうございました。確かに鞄に入れたと思ったのですが、見当たらなくて、焦りました。まさか届けてくださるなんて」

「お役に立てたのなら何よりです。今朝は考え事でも?」

「いえいえ、今朝はそんな余裕とてもありませんでした」

「何故です?」

「それは、ですね…」

ユリアがそっと身を引こうとするのをタリウスが阻んだ。

「まさか、また?」

「でも、間に合いましたよ?」

無邪気に言い放つユリアを前に、今朝のことがまるで嘘のように思えた。

「間に合ったは良いが、それで忘れ物をしていては世話ないでしょう。あなたの生徒たちがどう思うか」

「え?」

「そうでなくとも、二度目の失態には随分厳しいようにお見受けしましたが?」

「嫌だわ。嘘でしょう」

途端にユリアが血相を変えた。

「授業を見ていらしたの?」

「院長に些か強引に誘われて」

「院長と?一体どこから見ていらしたんですか」

「見ていたと言うと語弊がありますが、花壇のところから聞いていました」

「ああ、そういうことでしたか」

そこで、ユリアは大いに合点がいったようで、しきりに頷いていた。

「他の先生たちがおっしゃっていたんです。院長は滅多に授業を見にいらっしゃらないのに、ようでもないことをよくご存知だって。まさか外にいらしたとは。驚きました」

「それはこちらの台詞です」

「はい?」

彼女はさも不思議そうにタリウスを見上げた。

「ミス・シンフォリスティでなくなった途端、ああも豹変するとは…」

「豹変、ですか」

ユリアは困ったような表情を見せ、それからとうとうと語り始めた。

「あの子達と彼らとでは立場が違います。私は、予科生も含め士官候補生を尊敬していました」

「尊敬?」

「ええ。彼らはあの若さで、自らの意志で個を捨て、陛下に忠誠を。彼らは学生ではありませんし、当然、すべては自己責任です。ですから、授業中に居眠りをしようが、課題を怠けようが、彼らの勝手です。手を抜いた代償はどこかで彼ら自身が支払うしかありませんから」

「しかし、それでは」

タリウスが反論し掛けるが、ユリアはかまわず先を続けた。

「もっとも、初めの頃はもう少しシビアでしたけれど、主任先生は教養で不可を付けることを許してくださいませんでした。つまり、是が非でも可以上を取らせるような授業をしろということだと、理解しました」

「はあ」

初めて耳にする話だった。毎年ひとりの落第者も出さないのは、てっきり彼女のやさしさ故だと思っていた。

「そう考えたら、彼らのために授業することが楽しくなりました。ただ知識を詰め込むより、あの時間を目一杯楽しんで欲しいと思いました。そして、いつか何かのときに役立ててくれたらいいなって。教養は人生を豊かにするものですから」

そうして、とびきりの笑みを見せられ、最終的に黙らざるを得なくなる。彼とて思うところはあったにしてもだ。

「方や、今の生徒たちは、自分の意志とはほぼ無関係にあの場にいます。彼女たちの殆どが、ご両親の愛、この場合はお金と言うことになりますが、そのお陰で教室に。こちらとしては、学費をいただいている以上、ある程度は無理にでも成果をあげさせる必要があります。良いやり方ではないかもしれませんが、そうでもしないと、あの子達勉強しないんですもの」

子供の頃から好奇心旺盛で、学ぶことに貪欲であった彼女には、理解しがたいことなのだろう。ユリアは深いため息を吐いた。

「私が子供なら、是非とも遠慮願いたい、胃の痛くなるような授業でしたが」

そう言ってからかうと、ユリアは負けじと挑発的な笑みを浮かべた。

「心臓に悪い授業よりマシでは?」

「私のは訓練だ」

「その二つの違いは何ですか」

「わかりませんか」

「ええ、ぼんやりとしか」

あどけない瞳が間近に迫る。

「正解を身体に教え込むのが訓練です。叩き込むと言っても良い。丁度こんな具合です」

「タ、タリウス?!」

反射的に後ずさるユリアを捕まえ、すぐさま膝の上へ引き倒す。

「嫌っ!!」

こうなったら最後、次に何をされるか、考えるまでもない。ユリアはイヤイヤと身体をくねらせた。

「大人しくしなさい」

そんなことをしても無駄だとわかっていても、自然とお尻が逃げた。しかし、屈強な平手は、左右に揺れるお尻を的確にとらえた。

「いやあ!」

「教師が、言うに事欠いて寝過ごすとは何事ですか。その上忘れ物では、全く示しがつきませんね」

「ごめんなさい!もうしないわ」

「あなたのもうしないはいい加減聞き厭きました。一体これで何度目ですか」

痛くて辛いお仕置きを受けながら、ユリアの意識がふいに記憶の彼方へと飛んでいく。


『一体これで何度目なの』

幼い自分のお尻を叩くのは、若い頃の継母だ。

『いい加減、あなたのごめんなさいは聞きあきたわ』

泣きながら謝罪を繰り返す自分を、継母はなおも執拗に打ち据えた。ほんの一瞬でもこの苦しみから逃れたくて、懸命に手足をバタつかせては、はしたないと更なる叱責を受けた。

『ユリア!』

そうして強く名前を呼ばれる度、胸がきゅっと苦しくなった。


「…か?」

ふいに、何事かを問う声が耳を掠めた。

「聞いていますか?ユリア!」

「は、はい?」

あの頃と同じようにきつく名を呼ばれ、ユリアははっとして我に返る。

「ごめんなさい、少々考え事をしていたものですから…」

「私のお仕置きの最中に上の空とは、良い度胸をしていますね」

彼女の背中を冷たいものが伝った。

「いえ、そんなつもりは…」

「立ちなさい」

鋭く命じられ、ユリアは恐る恐る立ち上がった。タリウスはそんな彼女には目もくれず、反対側のベッドへ向かった。部屋の中央から向こうは、この部屋のもうひとりの住人のものだ。

彼はおもむろに引き出しに手を掛け、目当てのものを探り当てると、こちらへ取って返した。

「どうやら、あなたを甘やかし過ぎたようだ」

タリウスは息子のところから拝借してきた折檻道具で、自分の手の平をピシャリと打った。

「い、嫌です…」

「平手では効かないのでしょう?ならば致し方ない」

恐怖から棒立ちになっているユリアの腕を取り、再び膝へ押さえ込もうとする。彼女はどうにかして逃れようと、床を蹴って暴れた。

「そんなもので叩かれたら、どうかなってしまうわ!無理です!」

「あいにくあなたに選ぶ権利はありません。痛い目にあって反省しなさい」

冷酷無比な囁き声に、一瞬で身動きが取れなくなる。

「痛っ!!」

パシンという大きな音が鳴り、すぐさまお尻が熱くなった。ユリアは思わず身体を仰け反らせるが、構うことなくお仕置きは続行される。

「嫌っ!ごめんなさい!!」

先程とは違い、タリウスは終始無言だった。そのせいか、今度は継母の幻像に惑わされることもなかった。

「いやあ!ああ、ごめんなさい!」

それどころか、厳しい仕打ちに、むしろ現実から逃れようがない。堅いパドルでひとつ打たれる度に、お尻がビリビリと焼けるように痛んだ。

「ごめんなさい!!」

回を追う毎に重く積もっていく痛みに、これ以上は到底耐えられない。

「もう許してください。もう、もう、本当に!良い子にしますから!!」

ユリアは絶叫した。その後は言葉にならず、声をつまらせて泣きじゃくった。

「大丈夫ですか」

お仕置きする手を止めた後も、子供のように泣きべそをかくユリアを前に、やりすぎたかとタリウスは苦笑した。ともあれ、やさしく抱き起こし、背中を擦ると、涙に濡れた瞳が恨みがましくこちらを見た。

「子供の頃のことを思い出していました。母の膝の上で、同じようにお仕置きを。痛くて、恥ずかしくて、怖くて。嫌で嫌でたまりませんでした。大人になって、ようやく解放されたと思ったのに…」

「ならば、これが最後にしますか?」

「そんなことっ!そんなことは、今考えられません」

ユリアが興奮気味に喚いた。そうして大粒の涙をこぼしながらこちらに身を預けてくる。タリウスは、まるで壊れ物を扱うかのように彼女を抱き止めた。

しばらくそのままなだめていると、ふいにユリアが顔を上げた。ばつの悪そうな表情を見せる彼女に、もう大丈夫だと思った。

「本当に嫌なときはすぐに言ってください」

「嫌だったわけでは、ありません。ただ…」

「ただ?」

「確かに寝坊しましたけど、でも間に合いました。教科書だって、届けていただいたお陰で事なきを得ました。結果的に大惨事にはならなかったのに、あんなに叩かなくたって」

「大惨事にならなかったからです。失敗して、この世の終わりのように落ち込むあなたを見たくはない」

ユリアがはっと息を呑んだ。身に覚えがあるのだろう。それも幾度となく。

「でも!」

「パドルを使ったのは、全然反省が見られなかったからです。お仕置きの途中で物思いにふけるなんて、怒られて然りです」

「それにしても、物凄く痛かったわ」

「それは良かった。しっかり反省出来たでしょう」

ユリアは口を尖らせるが、ふわりと髪を撫でてやると、心なしか機嫌を直したようだった。

「これで生徒の忘れ物に対しても、遠慮なく叱れますね」

「ええ、お陰さまで!」

だが、すぐに憤懣やる方ないといった様子で、キッとこちらを見やった。それでこそユリアである。




上の空でスパられるって、スパンキーあるあるかなと思うのです。「え?なに?」みたいなw
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