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2021/2/9  23:57

ジョージア先生の長い長い夜4  小説

「起床!!これより点検を行う。全員、今いる場所を一歩も動くな」

深夜零時きっかり、教官の号令で少年たちはベッドから飛び起きた。言うまでもなく、全員が寝間着姿に素足である。

彼、アーサー=ウィルキンスは颯爽と身体を起こし、誰よりも早くベッド脇に起立した。どの引き出しを開けられようと何ら問題ない。彼は余裕の表情で、カツカツと近付いてくる長靴の音を聞いていた。

「毛布を退かせ」

「え?」

ランタンの灯りをもろに見返し、目が眩んだ。

「早くしろ」

教官が苛立った声を発してもなお、アーサーはその場を動くことが出来ない。業を煮やした教官が、勢い良く毛布を剥ぐのを呆然と見ているだけだった。

「これは何だ」

ベッドの足側のほうから布の塊のようなものが床へ落ちる。

「き、着替えです。洗濯に出すのを失念してしまいました」

「そんなものは予科生にでもやらせれば良かっただろう」

アーサーは、教官が意地悪く囁くのを背筋が凍るおもいで聞いていた。

「随分と汚れているな。ウィルキンス、お前自身も」

教官は薄汚れた寝間着に明かりを近付け、続いて少年自身を照らした。彼の足は泥に汚れ、床にも黒い足跡がいくつも付いていた。

「首筋に火傷があることと何か関係が?」

「っ!」

アーサーが咄嗟に首もとに手をやる。だが、すぐにハッとしてその手を離した。

「自分は何も…」

「ドーンが吐いた」

反射的に否定しかけるも、続く言葉に声を失う。身体がさっと冷たくなるのがわかった。アーサーは両目をつぶり、それから吐息した。

「観念して教官室に来い」

ふんと小さく笑い、彼は裸足のまま教官に従った。

そうして一歩部屋から出ると、少年は教官を追い抜き、そのまま全速力で廊下を直進した。

「待て!!」

タリウスが叫ぶ。彼の目には、廊下の行き止まりに嵌め込まれた大きな窓ガラスが映っていた。

「やめろ!ウィルキンス!!」

このまま突っ込まれたら間に合わない。心臓が音を立てた。

「うわあぁあ!」

そのとき、アーサーが何かに躓き、勢い良く床に転倒した。瞬時に起き上がり先へ進もうとするも、何者かに行く手を阻まれる。無我夢中で体当たりを繰り返すが相手は一向に怯まなかった。

「老いぼれと思うて侮ったか」

「ノーウッド先生?!」

タリウスが声を上げる。老教官には、本科生の点検の間、教官室で留守を預かってもらう手筈になっていた。

「確かにだいぶガタはきているかもしれん。それでも、お前のような奴には倒されんよ」

「いっ!!」

老教官はアーサーの腕を掴み、後ろ手に捻り上げた。少年はもはや完全に戦意を喪失していた。

「ジョージア教官」

「は!」

「この馬鹿者を下に連れていけ」

唖然とする若き教官に、老教官は乱暴に馬鹿者を引き渡した。

「何を見ておる。点検は終いだ。全員直ちにベッドに入れ!就寝!!」

老教官が吠え、それまでことの成り行きを見守っていた少年たちが、蜘蛛の子を散らすよう一斉に毛布に潜り込んだ。

「ぬかったな」

すれ違い様、老教官の囁き声が耳元に届く。他でもない。かつての師を侮ったのは彼自身だ。

「申し訳ございません」

「ま、儂が止めんでもそいつには飛び降りる勇気なんぞなかったと思うが、一応な」

そう言って、老教官は些か強めにかつての教え子の尻をはたいた。


教官室には先客がいた。元は壁に向かって起立していたのだろう。無遠慮に開かれた扉に、クリフ=ドーンは顔だけを向けた。

ひどく泣き腫らした瞳が見たのは、諸悪の根元とも言える先輩の情けない姿だった。先輩は裸足に寝間着姿で、なおかつ教官によって自由を奪われていた。

「今回の一件は、明日の朝、統括とミルズ先生に報告する。お前にはそれ相応の処分が下されるだろう」

「退校になるんじゃ…」

「そんなことは俺の一存では決められない」

話が違うとばかりにクリフが反論し掛けるが、教官がばっさりと切り捨てる。呆然とするクリフをそのままに、教官は更に続けた。

「それよりもだ。貴様よくも予科生に手を出してくれたな。ドーンだけではない。大方、軽々しく父上の名前を口にして、あることないこと言って脅してきたのだろう」

アーサーは答えない。

「お前のように性根の腐りきった奴には、たっぷり償いをしてもらうぞ」

「や、やめ…何を?!」

教官は執務机の椅子を引き、どっかりと腰を下ろした。そして、暴れるアーサーを膝の上に横たえ、おもむろに寝間着の裾をまくった。

「父上に言いたければ言えば良い。下級生を苛めたお仕置きに、ジョージア先生に死ぬほど尻を叩かれたと、言えるものなら言ってみろ」

「いっ…!」

いつの間にか下着まで下ろされ、剥き出しになった尻に容赦ない平手が弾けた。

教官は、その後もバチンバチンと続けざまに平手を落とした。彼はこの仕置きに関して、余計な手心を加えるつもりはなかった。

本科生への正式な罰は、明朝以降、主任教官が自らの手で下すことになる。それを見越して自分は鞭の使用を控えた。配慮は充分過ぎるほどした。

「うぅ!うあぁっ!!」

続けて同じところを狙い撃ちにすると、アーサーが耐え切れずに、身をよじって暴れた。もはやプライドをかなぐり捨ててでもこの痛みから逃れたいのだろう。

「暴れるな!見苦しい。自分が何をしたのか、よく考えろ」

タリウスは少年を叱りつけ、なおもきつく尻を叩いた。

アーサーを個別に指導するのはこれが初めてだった。彼の成績は常に首位で、ことにその身体的な能力の高さにおいては、目を見張るものがあった。

故に、つい先程、三階の窓から壁伝いに、制服を捨てに下りたと聞いても、彼ならば可能だとあっさり納得できたほどだ。

また、素行は決して良いとは言えないまでも、表向きに問題を起こすことはまれだった。

タリウスとしても、優等生の仮面の下に隠された狡猾な裏の顔に、気付きつつあったが、なかなか尻尾を出さないため、今日まで叱るチャンスがなかった。

「暴れるなと言っただろう!」

アーサーは、懲りずに膝から下りようとなおも足掻いていた。タリウスは、このやや大柄の少年をもう一度しっかり抱え直すと、暴れる足を自分の足で挟み、その動きを封じた。

「ドーン!」

「は、はい?!」

クリフは突然名を呼ばれ、飛び上がらんばかりに姿勢を正した。

「よく見ていろ。これがいじめっこの末路だ」

「ハイ…」

つい数時間前まで恐怖の対象でしかなかった先輩が、今は子供のように尻を叩かれている。自分が真に恐れるべきは、教官をおいて他にない。クリフは今更ながらそう思い知るのだった。


とりあえず大筋はおしまい。あとは、エピローグとオマケをいくつか書く予定です。クリフについてもそっちで回収します。

相変わらず詰めが甘いのがジョージアせんせ。
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