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2021/2/7  22:22

ジョージア先生の長い長い夜3  小説

「整列!」

一通り聴取が済むと、タリウスは再び予科生をホールに集めた。疑わしい者はいるが、決定的な証拠がない。これ以上予科生を詰めたところで、恐らく成果は上がらないだろう。

「深夜零時、総点検を行う。そこで何らかの物証が出れば、問答無用で退校処分とする。手を貸した者、嘘の証言をして庇い立てをした者も同様だ」

退校、その言葉のもつ重みに予科生たちは動揺を隠せない。それでなくとも、いつもならとうに休んでいる時間である。どの顔にも疲労と眠気が見てとれた。

「ただし、これより零時までに、過ちを犯した者が自ら名乗り出れば、温情を掛ける。監督生二人はこの場に残れ。他の者は一旦解散とする」

「ジョージア先生」

そのとき、入口から遠慮がちに名前を呼ばれた。

「ラサーク、どうした」

「お忙しいところすみません。ですが、イサベルが…」

タリウスは監督生を一旦待たせ、アグネスを呼び寄せた。

「オーデンがどうかしたのか」

「ひどく寒がっていて、もし出来たらお湯をいただきたいのですが…」

「炊事場を使え。しばらくは教官室にいるから何かあったら来い」

それからアグネスを下がらせ、今度は監督生二人に向き直った。

本科生に上がると週番がなくなり、代わりに監督生が一二名選ばれる。監督生には成績優秀で品行方正な者がなることが多く、普段から教官を補佐することが求められていた。

「消灯点呼の前、本科生に何か変わった動きはなかったか」

「特にありませんが、そう言えば…。大したことではないかもしれませんが」

「何だ」

「点呼の前に、上で予科生を見ました」

「予科生?誰だ」

本科生の居室は、予科生の居室の上に位置する。先程の聴取では、誰もそんなことは言っていなかった。

「すみません、名前までは。ですが、ウィルキンスが呼びつけていました」

ウィルキンスはいわゆる二世である。

「あいつの人使いが荒いのはいつものことですが、まさか洗濯までさせているとは思いませんでした」

「洗濯?」

上級生が下級生を使役すること自体は、特段禁じられていない。下級生は先輩から言いつかった雑用をこなす見返りとして、後ろ楯を得ると共に、時として個人指導をしてもらえることもある。両者の利害が一致している限り、教官が口を挟むことはなかった。

「はい。制服を届けさせていました。ウィルキンスに聞いてみますか」

「いや、良い。それよりこんなことが明るみに出たら、中央の名は地に落ちる。この件は一切他言無用だ。騒ぎについて誰かに聞かれても何も答えるな。だが、もししつこく食い下がる者がいたら、そのときはこう答えろ」

そこで、教官は声を極限まで殺した。


タリウスが雑多な仕事を片付け、教官室で待機しているときだった。軽い靴音が駆け足でこちらに近付いて来る。今度は何事かと訝しんでいると、勢い良く扉が開かれた。

「せんせい!!」

少女がひとり息急き切って飛び込んで来た。彼女はまるでお化けでも見たような顔をしていた。

「許可も得ずに入ってくるな。一体どうした」

「せんせい!せんせい!せんせい!」

アグネスが荒い息で駆け寄ってくる。目には涙を浮かべ、身体をひどく震わせていた。

「どうした」

「せんせい!!」

アグネスは教官に飛び付き、両手で胸の辺りを掴んだ。

「こら!離せ」

予想外の事態に、タリウスは驚いて振り払おうとするが、強くかじりつかれてすぐには離れない。半狂乱になって泣いているアグネスを見るに、余程怖い目に遭ったのだろう。これが年齢相応の娘の反応なのかもしれないが、ここは士官学校であり、彼女は士官候補生である。

「しっかりしろ!!」

腹の底から怒鳴ると、アグネスがビクっと身を縮め、顔だけをこちらに向けた。

「アグネス=ラサーク、お前は士官になるんだろう。一度任務に着けば、危険なことも恐ろしい目に遭うこともごまんとある。その度に取り乱してどうする。わかっていて自分で選んだ道だろう。違うか!」

「す、みません。失礼…しました!」

アグネスは教官から手を離し、指の腹で目頭を押さえた。

「そうだ。それで良い」

タリウスは教え子の背に手を回し、トントンと軽く叩いた。アグネスが驚いて目を上げると、教官は一瞬口許を緩めた。そして、咳払いをひとつし、襟を正した。少女の顔に赤みが戻る。

「それで、何があった?」

「炊事場に、泥棒が、いました」

アグネスがこちらを見上げてくる。その目は真剣そのものである。

「泥棒だと?」

「炊事場にお湯を取りに行ったら、窓ガラスに人影のようなものが映っていて、もうその時点で怖くて。そうしたら、その影が勝手口から入って来て、入口でぶつかられて…」

アグネスが肩で息をした。

「それで?ラサーク、お前はどうしたんだ」

「持っていたお湯で反撃しました」

教官の目が瞬く。どうやら彼女は、いたずらに賊に恐怖していたわけではなかったようだ。

「多分、そこそこお湯が掛かったと思います。結構熱がって逃げて行ったので」

「声を聞いたのか。どんな奴だ」

「若い男だと思いますが、知らない声でした。ですから、多分泥棒だと…」

「確かに泥棒には違いない。ラサーク、よくやった」

何だかんだで彼女は賊を撃退したのだ。着替え泥棒に関しても、お陰で疑惑が確証に変りつつあった。

「先生、あの、それでですね…」

「何だ」

「今のでお湯を使ってしまって、もう一度お湯を取りに行きたいのですが、ひとりでは怖くて。すみませんが一緒に来ていただけませんか」

「馬鹿を言うな。誰にものを頼んでいる」

「で、でも!本当に怖くて…」

ひとりでそれだけ立ち回れて、一体何を怖がると言うのか。タリウスは呆れたが、ここはひとつ彼女の頑張りを労うことにする。

「わかった。お前はオーデンのところにいろ。代わりに俺が取りに行く。ついでに下で確認したいことがある」

タリウスは道すがら、怖がるアグネスを医務室まで送った。


拍手&拍手コメントありがとうございます!ネタバレを回避するため、今回に限りお返事は完結してからまとめて差し上げます。

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