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2020/12/26  21:23

続石の記憶9  小説

二三時間ほど進んだところで、俄に馬の歩みが鈍くなった。どうやら先頭を行くラケシュが速度を落としたようだった。

しばらくすると、遠くに黒い点のようなものがいくつも見えた。

「ヒツジ?違う、ヤギだ!」

久方ぶりに見る砂以外の景色に、シェールは些か興奮気味である。

「放牧をしているんじゃないのか」

「あんなにたくさん?!」

シェールは目を丸くした。山羊たちはおもいおもいの場所に散らばり、砂地に生えた草を食べているが、見たところ人間らしき姿はない。 いるにしても一人ないし、ごく僅かな人数だろう。よくそれでああも大量の山羊を管理出来ると思った。

「ほら、そろそろ着きそうだ」

その言葉通り、一行はほどなくして小さな集落に到着した。

砂漠の真ん中に突如として現れたその空間は、まるで現実世界から隔絶され、人知れず息づいているようだった。

風の音が殊更大きく聞こえた。

建物はすべて干乾しレンガで出来ており、砂色の壁が真っ青な空や所々に生い茂った草木によく映えた。どの家にも装飾や着色がないため、少し前まで滞在していた都市と比べ、随分と質素な印象を受ける。

ラケシュはラクダを繋ぎ、おもむろに荷物を下ろし始めた。すると、周囲の家々から子供たちが出てきては、荷のまわりを取り囲んだ。

しばらくそんなやりとりをぼんやり眺めていたシェールだったが、タリウスに促され、おっかなびっくり馬から下りた。

そこで、子供のひとりと目が合った。だが、シェールが近付こうとすると、子供はくるりと方向を変え、あっという間に走り去ってしまう。他の子供にしても、遠巻きにこちらを見てはいるものの、決して近寄っては来なかった。

「族長のところへ案内する。ただし族長は高齢だから、会えるかはわからないが」

一通り荷下ろしが済んだところで、再びラケシュがこちらへやってきた。シェールはゴクンと唾を飲み込んだ。

「族長さんは、シェールくんのお母さんをご存知かしら」

「ど、どうかな…」

ユリアはあまりにあっけらかんと今の心を代弁してくれた。その柔和な声に、するすると緊張が解けていくようだった。

「ともかく行ってみましょう」

言うが早い、ユリアはシェールの手をとった。彼女の手はあたたかく、またやわらかかった。

ラケシュは後ろにいる自分達には構うことなくずんずん進み、ひときわ大きな建物の前で止まった。

「ここで待て」

そして、入口から何かを叫ぶとひとり奥へと消えていった。扉は開いているが、暗くて中の様子はわからなかった。

ラケシュを待つ間、シェールは建物の様子を観察した。他の家とは違い、族長の家の壁には何やら模様らしきものが彫られていた。もしかしてと思い、石の袋と同じ模様を探したが見付からなかった。隣を伺うと、ユリアもまた熱心に壁を見ていた。

「族長は寝ている」

「へ?」

いくら暮れが近いと言っても、未だ日没前である。

「今は会えない。また後で出直す」

「そんな…」

ラケシュの台詞にシェールは大いに落胆した。流石に日付を越えて滞在できないことは、シェールにもわかった。

「それまでその辺りを一回りするか」

しかし、続く台詞に今度は拍子抜けした。まさかそんなに短いスパンの話とは思わなかった。ユリアと手をつないだまま、シェールは父親を伺った。タリウスが無言で頷く。

「はい」

シェールはラケシュに返事を返し、改めて周囲へ目を向けた。方々から痛いくらいに視線を感じた。だが、先程と同じくこちらが視線を返すと、皆一様に目を逸らし、後ずさったり家に入ったりした。

「私たちは少し離れますか」

ユリアは父に向かって言った。

「しばらくラケシュ殿にお任せしてはどうでしょう」

「それは構わないが、シェール、ひとりで建物の中には入るな」

「え?あ、うん。わかった」

行ってらっしゃい、そう言って、ユリアは自分から手を離した。どうやら大人たちは、自分達の存在が周囲の人々を遠ざけていると考えたようである。

実際に彼らの推測は当たりだった。二人が去ると、子供たちはまず初めにラケシュに近付き、それから口々に何かを言った。対してラケシュが何事かを答えると、今度はシェールのまわりを取り囲んだ。

「えーと」

子供たちは矢継ぎ早に話し掛けてくるが、シェールには何が何だかさっぱりわからない。だが、子供のひとりが腰のあたりに革の袋を下げているのを見て、ひらめいた。

「それ、僕も持ってるよ」

シェールは自分の荷物から石の袋を取り出し、ほらと掲げた。ラケシュが訳すのを聞くまでもなく、子供たちは袋に向かってわーと手を伸ばした。

「え?ちょっと待って!ちょっと、やめてってば。返して!!」

そして、あっという間にシェールから袋を奪い取り、我先にと中の石を掴み取った。

「やめてやめて!!」

シェールは叫んだ。だが、子供たちはさも当然のごとく、奪った石を自分の袋にしまった。シェールは呆然とした。

「ウソでしょ…」

「石は天下の回りものだ。独り占めは出来ない」

「でも!」

ラケシュの無情な一言が追い討ちを掛ける。シェールが反論し掛けると、子供のひとりが自分の袋から石を取り出し、こちらに差し出した。

「え?何?!」

それを皮切りに、子供たちが一斉に自分の石を差し出してくる。

「気に入った石があれば自分のと交換出来る」

「そうなの?でも、あれは…」

「もちろん譲りたくないなら譲らなくても良い。あとは交渉して決める」

ラケシュは子供たちに向かって何かを言った。ややあって、子供たちは自分の袋から石を全て出し、シェールに見せた。ようやくシェールにもルールが理解出来た。

「えーと、僕の石はみんなママにもらったもので、大事なんだ。特にこの白い石は気に入っているから、これだけはダメ。交換できない」

ラケシュがシェールの言葉を訳し、それを聞いた子供はあっさりと石を手放してくれた。シェールはほっとして、それから改めて他の子供の石を見た。

「これ、すごくキレイ」

そうして色とりどりの石を見ているうちに、シェールはその中のひとつに心を奪われた。

「交換するか」

「え?どうしよう…」

その石は淡い紫色で、太陽の光を受けキラキラと輝いていた。母から譲り受けた袋には入っていない種類だ。

シェールは悩んだ。見れば見るほど紫の石が欲しくなるが、そのために母の形見とも言える石を手放して良いものか。

だが、考えみれば、この石の交換システムが昔からあるとしたら、母の石も元は誰かから譲り受けたものということになる。

「交換したいです。この子に聞いてもらえますか」

シェールはラケシュを介して初めての取引をした。相手の子供が承諾し、交渉が成立した。

同じ要領で交渉を繰り返し、結果的にはもとの石の半分ほどが手元に返った。皆それぞれに大切な石はあるらしく、相手の子供のほうから交換を断られることもあった。

不思議なことに、途中からラケシュの通訳は不要になった。言葉そのものは理解出来なくとも、相手の表情や声から、交換出来るかどうかは予測出来た上に、こちらの言いたいことは身振り手振りである程度は伝わるとわかった。


「シェールくん、楽しそうですね」

「ああ。あいつのああいうところは、時々羨ましくなる」

「誰とでもたちどころに仲良くなってしまいますものね」

タリウスは思わず苦笑いを漏らした。人付き合いが苦手な自分にとって、社交的な息子が眩しく映る反面、その警戒心のなさは時として心配の種にもなった。

「大袈裟に聞こえるかもしれませんが、あいつを引き取った日から今日まで、とにかく死なせないよういつも気を配ってきました」

言いながら、てっきりまたユリアに呆れられると思った。

「存じていますよ」

ところが、予想に反して彼女は真顔で労いの言葉を掛けてくれた。

「それはもう、いろいろありましたもの。屋根から落っこちたり、事件に巻き込まれたり、はたまた家出をしてみたり。気の休まるときがありませんでしたよね」

思えば、シェールと行動を共にするようになったのと、ユリアと知り合ったのはほぼ同時期である。毎日のように騒ぎを起こす自分たち父子を、彼女は常に隣から見守ってくれていたのだ。

「これまで、一方的に自分が守るほかないと思っていました。シェールのことも、それからユリア、あなたのことも」

ユリアの瞳が大きく瞬く。

「それが今回の旅で、随分とおこがましい話だったとわかりました。勿論、今後も保護が必要な場面はあるでしょうが、だからといっていつもというわけではなくて。三人で支え合っていっても良いのかもしれないと思いました」

今度は瞬きを忘れ、タリウスを凝視した。


次でラストです!

6



2020/12/29  1:20

投稿者:そら

2020/12/27 15:17の方
嬉しいお言葉をどうもありがとうございます。
お休みしている間、やるべきことがあったものの、思うように結果が出ず、何度も心が折れそうになりました。ありがたいことに最終的にはどうにかうまくいき、幸いここにもまた戻ってくることが出来ましたが、それはひとえにおもちゃ箱を愛してくださった方々のお陰です。
ひょっとして、休止中にも拍手コメントをお寄せいただいた方ですか?もしそうでしたら、折角勇気を出して(たぶん)書き込んでいただいたのに、お返事出来ずにごめんなさい。コメントを確認したのが書き込みから一年以上経過してからだったので、どうにも心苦しく、同時に、時間が経っても楽しんでいただけることをとても嬉しく思いました。
人違いでしたら、これまたすみません。

2020/12/29  1:17

投稿者:そら

2020/12/27 3:46の方
はい、一応そのつもりで書きました。←プロポーズ
が、結局ぐたぐたになるのが、彼らのクオリティー。せっかく胸熱の展開を期待していただいたのに、申し訳ない限りです…

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