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2020/12/20  1:52

続石の記憶8  小説(再掲)

翌日の午前中は休息と買い出しにあてた。残りの滞在日数を考えると、些か勿体ない気もしたが、無理は禁物と割り切ることにした。

刺青の男、ラケシュと名乗った、が彼らの元を訪ねたのは、丁度昼をまわった頃だ。ユリアは開口一番、過日の非礼を詫びた。

「学者は嫌いだ。調査と言っては、我らの土地を踏み荒らす。これ以上、何を奪うつもりだ」

「私は学者ではありませんし、簒奪(さんだつ)するつもりももちろんありません。ですが、私の無遠慮な好奇心がそのように思わせてしまったのでしたら、お詫びいたします」

「ここで見聞きしたことをむやみに言いふらすな。特に一族の宿営地については絶対に漏らすな。それがガイドの条件だ」

ユリアはしばしの沈黙の後、荷物の中から地図を取り出しラケシュに差し出した。

「わかりました。では、これを」

「何だ」

「この辺り一帯の地図です。これがなければ私たちは現在地を知ることが出来ません」

ラケシュは無言でユリアの手から地図を持ち去った。

「何もそこまでする必要が」

それまで二人のやりとりを見守っていたタリウスが眉を寄せた。

「彼の信頼を得るには、こちらの誠意を目に見える形で示したほうが良いと思いまして。万が一のときに、地の利がわからないのは些か不安ですが、どのみち砂漠の真ん中に放り出されれば、地図など無用の長物ですから」

想定外の台詞にタリウスが絶句する。

「ごめんなさい、脅かすつもりでは。シェールくんがいる限り、その可能性は限りなく低いと思いますよ」

ユリアが慌てて手を振った。その妙に必死な様子から、あながちないとも言いきれないのだとタリウスは悟った。用心するに越したことはないということだ。

「違います。そういうことが言いたかったわけではなくて」

「はい?」

「良いんですか。あの地図には今日までたくさんのことを書き留めていましたよね」

「かまいません。記録には残せなくても記憶には残せますもの」

ユリアはこめかみの辺りを指差し、不敵に笑った。まるで小悪魔のようだとタリウスは思った。

「そろそろ出発する」

ラケシュがしびれを切らせ、彼らは揃って宿を後にした。

まず初めに、案内所の近くで旅の足となる馬を借りる手はずになっていたが、ここでまたもや一悶着あった。

「絶対ラクダが良い!とうさん、ラクダにしようよ」

「無理だ。ラクダになんぞ乗ったことがない」

「でも、タリウス。こんなチャンスは滅多にないですよ?」

「ユリアまで何を言い出すんだ」

女こどもの勢いに押され、タリウスはたじたじのていである。

「砂漠の移動にはラクダのほうが向いているのではありませんか?」

「それは長距離移動のときの話だ。目的地はここからそう遠くない。馬でも問題なく行ける」

「聞いただろう。借りるのは馬だ」

ラケシュの言葉にタリウスは内心救われる思いだった。

「でも…あ、わかった!多数決にすれば良いじゃん」

「名案ね」

「ダメだ。多数決なんてものは数の暴力だ」

安心したのも束の間、タリウスはまたもや頭を抱えた。

「ああ見えてラクダは気性が荒い。もし振り落とされたら、背が高い分なかなか騎乗出来ない。ラクダを貸しても良いが、乗りこなせるようになるまで出発はしない」

「そんな暇はない。二人とも悪いが諦めてくれ」

タリウスはピシャリと言い放った。流石にこれ以上は反論しようがない。シェールは不承不承口をつぐんだ。

「わかった。俺がラクダで行く。それで良いか」

それでも未だ不満そうな態度を見せるシェールに、見かねたラケシュが言った。ともかく早く出発したいとのことだが、恐らくはそれだけではないのだろう。

「うん!」

シェールが目を輝かせ、ユリアが微笑み、タリウスが吐息した。


街を出てすぐにシェールは目を見張った。空の青と砂以外の景色が視界から消えたのだ。恐る恐る後ろを振り返ると、先程まで自分達のいた街もまた、砂色で出来ていたことに気付かされた。

「砂ばかりだな」

どうやらすぐ後ろで馬を御している父もまた、同じことを思ったらしい。目の前には、地平線の彼方まで続く砂の山がそびえ立ち、視線を落とすと、ラケシュのラクダとユリアの馬の蹄の跡が続いている。シェールは何とも言えない不思議な感覚に陥った。

「何て言うか、すごいね。何もないけど、それがかえってすごいって思う」

「昔から、それこそエレインがこどもの頃から何一つ変わっていないんだろうな」

「そっか。そうだよね」

母のことを想うと、心がじんと熱くなり、自然と涙が頬を伝った。決して悲しいわけではない。シェールは手の甲でそっと涙を拭った。

「大丈夫か」

「砂が入っただけ」

「そうか。擦るなよ」

それきり父子は言葉を交わすことなく、思い思いに旅を楽しんだ。
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2020/12/26  22:27

投稿者:そら

2020/12/21 3:47の方
タリウスと二人だと強引に押しきられることが多いですが、ユリアが入ってパワーバランスが変わった感じです。←ラクダのくだり
いえいえ、情景は本当にうまくなりたいと思っているところなので、汗顔のいたりです。あたたかいお言葉に感謝です。

2020/12/26  22:23

投稿者:そら

2020/12/20 23:47の方
ありがとうございます!スパのすの字もないネタなのに、お付き合いいただいて本当に嬉しいです。

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