2020/12/4 22:08
続石の記憶5 小説
慣れない暑さの中、連日歩き通しである。この日は日暮れを待たずして宿へ引き上げた。
シェールは昼寝、ユリアは書物に目を落とし、タリウスは何をするでもなく窓から入る風に吹かれていた。
結局、あの後は近隣を歩き回ることに終始した。これといった収穫はなかったが、それでもシェールが目一杯楽しんでいたことを考えれば、これはこれで正解なのだろう。
「シェールくん!!」
そこへ突如上がった鋭い声に、タリウスは現実へと返される。見れば、ベッドに投げ出された息子の足の上を虫のようなものが這い、それをユリアが今まさにつまみ上げるところだった。
「サソリ?!」
「痛っ!」
シェールが飛び起き、続いてユリアが悲鳴を上げた。
タリウスは慌てて二人に駆け寄ると、すぐさまユリアの腕を掴んだ。蠍はポトリと下に落ち、彼女のほっそりとした指先からは真っ赤な血が滲み出した。一気に心拍数が上がった。
「見せてください」
そうは言ったものの、自分が見てどうにかなるものでもない。そもそも蠍について漠然とした知識しか持ち合わせていないのだ。知っていることと言えば、蠍が毒をもち、それは時として人の命を奪うということくらいである。
タリウスはほんの一瞬躊躇した後、傷口を口に含もうとした。だが、ユリアはそれを拒み、反対の手で負傷した指を強く押さえた。
「何を?!」
「それは、こちらのセリフだわ」
驚くタリウスをユリアが見据えた。彼女は肩で息をしていた。
「タリウス、あなたに何かあったら、シェールくんをどうするおつもりですか」
「だが…」
確かにこの方法は自らも危険が伴う。しかし、他に方法がない、そう言おうとしたときだ。
「シェール!!」
あろうことか、シェールが蠍に手を伸ばしていた。
「触るな!!」
「でも、とうさん。逃げちゃう」
「放っておけ」
「でも」
「今はそんなことを言っている場合か!!」
なおも食い下がる息子にタリウスは声を荒げた。
「でも!サソリはいっぱい種類があるから、何に刺されたかわかんないと助けられないってママが…」
思ってもない台詞に、タリウスはハッとしてユリアと顔を見合わせた。ユリアが無言で頷く。
蠍に目を向けると、息子の言うとおり、壁を伝い窓の隙間目掛けて移動している。タリウスは腰に手を掛け、護身用のナイフを抜いた。だが、焦っているせいでナイフは蠍を掠め、下に落ちた。
「おねえちゃん!!」
そのとき、ユリアが膝から崩れ落ちた。
「シェール、手伝え。鞄の中に投げナイフがある」
「わかった!」
シェールは言われたとおり鞄に駆け寄り、逆さにして豪快に振った。
「どれ?!」
「革の包みだ。お前も見たことがあるだろう、エレインのだ」
その間、タリウスは力を失くしたユリアを抱き上げ、ベッドへ寝かせた。
「あった!」
「よく狙え。お前なら当たる」
それから少し考えた後で、水筒の水でユリアの傷口を洗った。
「当たった!」
どうやら一投目のナイフで息子は無事蠍を仕留めたようだ。
「よくやった。シェール、おねえちゃんの傍に」
「とうさんは?」
「医者を呼んでくる」
言いながら戸口に向かおうとするのを何者かが阻む。タリウスが振り返ると、ユリアの手が袖口を掴んでいた。
「タリウス」
「痛みますか」
不安げに自分を見上げるユリアの髪をタリウスはそっと撫でた。
「麻痺しているみたいで、むしろ何も感じません」
「少しの間だけ辛抱して欲しい。すぐに戻る」
そして、大丈夫だと笑い掛けた。
こまぎれで以下略。次回は「タリパパはじめてのおつかい」です!
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シェールは昼寝、ユリアは書物に目を落とし、タリウスは何をするでもなく窓から入る風に吹かれていた。
結局、あの後は近隣を歩き回ることに終始した。これといった収穫はなかったが、それでもシェールが目一杯楽しんでいたことを考えれば、これはこれで正解なのだろう。
「シェールくん!!」
そこへ突如上がった鋭い声に、タリウスは現実へと返される。見れば、ベッドに投げ出された息子の足の上を虫のようなものが這い、それをユリアが今まさにつまみ上げるところだった。
「サソリ?!」
「痛っ!」
シェールが飛び起き、続いてユリアが悲鳴を上げた。
タリウスは慌てて二人に駆け寄ると、すぐさまユリアの腕を掴んだ。蠍はポトリと下に落ち、彼女のほっそりとした指先からは真っ赤な血が滲み出した。一気に心拍数が上がった。
「見せてください」
そうは言ったものの、自分が見てどうにかなるものでもない。そもそも蠍について漠然とした知識しか持ち合わせていないのだ。知っていることと言えば、蠍が毒をもち、それは時として人の命を奪うということくらいである。
タリウスはほんの一瞬躊躇した後、傷口を口に含もうとした。だが、ユリアはそれを拒み、反対の手で負傷した指を強く押さえた。
「何を?!」
「それは、こちらのセリフだわ」
驚くタリウスをユリアが見据えた。彼女は肩で息をしていた。
「タリウス、あなたに何かあったら、シェールくんをどうするおつもりですか」
「だが…」
確かにこの方法は自らも危険が伴う。しかし、他に方法がない、そう言おうとしたときだ。
「シェール!!」
あろうことか、シェールが蠍に手を伸ばしていた。
「触るな!!」
「でも、とうさん。逃げちゃう」
「放っておけ」
「でも」
「今はそんなことを言っている場合か!!」
なおも食い下がる息子にタリウスは声を荒げた。
「でも!サソリはいっぱい種類があるから、何に刺されたかわかんないと助けられないってママが…」
思ってもない台詞に、タリウスはハッとしてユリアと顔を見合わせた。ユリアが無言で頷く。
蠍に目を向けると、息子の言うとおり、壁を伝い窓の隙間目掛けて移動している。タリウスは腰に手を掛け、護身用のナイフを抜いた。だが、焦っているせいでナイフは蠍を掠め、下に落ちた。
「おねえちゃん!!」
そのとき、ユリアが膝から崩れ落ちた。
「シェール、手伝え。鞄の中に投げナイフがある」
「わかった!」
シェールは言われたとおり鞄に駆け寄り、逆さにして豪快に振った。
「どれ?!」
「革の包みだ。お前も見たことがあるだろう、エレインのだ」
その間、タリウスは力を失くしたユリアを抱き上げ、ベッドへ寝かせた。
「あった!」
「よく狙え。お前なら当たる」
それから少し考えた後で、水筒の水でユリアの傷口を洗った。
「当たった!」
どうやら一投目のナイフで息子は無事蠍を仕留めたようだ。
「よくやった。シェール、おねえちゃんの傍に」
「とうさんは?」
「医者を呼んでくる」
言いながら戸口に向かおうとするのを何者かが阻む。タリウスが振り返ると、ユリアの手が袖口を掴んでいた。
「タリウス」
「痛みますか」
不安げに自分を見上げるユリアの髪をタリウスはそっと撫でた。
「麻痺しているみたいで、むしろ何も感じません」
「少しの間だけ辛抱して欲しい。すぐに戻る」
そして、大丈夫だと笑い掛けた。
こまぎれで以下略。次回は「タリパパはじめてのおつかい」です!

2020/12/8 23:27
投稿者:そら
2020/12/6 22:17
投稿者:ともろー
どんどん壮大になっていく。。。!
謎解きみたいで面白いです
謎解きみたいで面白いです
ありがとうございます!
謎解き…これから頑張って伏線回収します!