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2020/11/28  23:03

続石の記憶3  小説

その後、彼らは順調に歩みを進め、予定していた街で宿を取った。交通の要所であるこの街は、多くの人々で賑わってはいるものの、気候や文化は王都と大差なかった。

問題はここから先だ。明日の今頃は、上着を一枚脱ぎ捨て、聞き慣れない言葉に難儀しているかもしれない。自分ひとりならともかく、息子を連れている以上安易な選択は出来ない。タリウスは珍しく気弱になりながら、いつもと違う天井を見上げていた。すると、すぐ隣で人が動く気配がした。

「起きているのか」

「うん。なんか寝られなくて」

身体は疲れている筈なのに、と息子は不思議そうに呟いた。

「シェール、ここから先は俺にとっても未知の地だ。頼むから…」

「わかってるよ」

シェールは困ったような、半ば諦めたような声でタリウスの台詞を遮った。

「危ないことはしないし、迷子にもならない。でしょ?」

「わかっているなら良い」

どうやら無意識のうちに同じような忠告を繰り返してきたらしい。だが、シェールは特に気を悪くした素振りも見せず、ぽつりと呟いた。

「ありがとね、とうさん」

「何だ、改まって」

「忙しいのにこんなお願いきいてくれて。それから、宿題のことも」

「ここ最近、忙しさにかまけてお前には我慢ばかりさせていた。だから、たまには良いだろう。それに宿題に関しては、俺は何もしていない」

一番の功労者は、他ならぬユリア=シンフォリスティである。今回の旅にしても、彼女は計画段階から随所で采配を振るってくれた。思い出したらまた陰鬱な気持ちになった。

「おねえちゃんやミゼットにもいっぱい助けてもらったけど、でもとうさんがいなかったら宿題をやろうとすら思わなかったから、ちゃんと出来たのはとうさんのお陰だよ」

思ってもいなかった言葉に、靄のなかにうっすらと光が射した。

「何故お前はそんなに俺を好いてくれるんだ?」

「何でって、そんなこと考えたこともないけど。でも、とうさんと一緒にいると安心するし、何にも怖くない」

そして、続く台詞にハッとさせられる。泣こうが笑おうが、息子を守れるのは自分以外にない。これまでも、これからも。

「とうさんのことは時々怖いって思うけど」

「時々?」

「ううん、本当はしょっちゅう。でも、だからこそ何が起きても平気かなって」

シェールは少しも悪びれない。そんな息子を前に自然と口許が緩んだ。

「過度な期待をされても困るが、それにしたってお前のひとりくらいなんとかなるだろう」

漠然とそんな思いが心に満ちていった。

「シェール、明日も早い。もう寝よう」

「うん、おやすみなさい」

ほどなくして、彼らは眠りに落ちた。


翌朝はからっとした良い天気だった。そのせいか、タリウスの気分も昨日よりか幾分晴れていた。

「おはようございます」

出立の準備を整え、玄関ホールに立ったところで我が耳と目を疑った。

「おねえちゃん!?」

そして、次の瞬間、隣で上がった奇声に、これは現実なのだとぼんやり理解した。

「急用があったんじゃなかったの?」

「ええ。でももう済んだわ」

「本当に?」

「一緒に行くって約束したもの」

息子はユリアと一日振りの再会を喜び、それから彼女と手をつないでこちらへやってきた。

「お邪魔でしたか」

「いいえ」

我ながらもう少し気の利いたことが言えないものかと思ったが、いかんせん言葉が出てこない。それ故そう答えるのが精々だった。


一体いつの間に彼女はこんなところまでやってきたのだろう。そもそもあれほどまでに怒っていたというのに、突然心変わりしたのは何故だろう。

頭の中は数々の疑問で埋め尽くされているが、余計な詮索はしないに越したことはない。そう思い、タリウスはあえて何事もなかったかのように振る舞った。


「今晩泊まれる部屋があるか、聞いてきますね」

予想したとおり、東へ進めば進むほど、雑踏の中には耳馴染みのない言葉が増えていった。

日が傾きかけた頃には、母国語を話すのは彼らと同じ旅行者だけで、商売人は片言のセールストークを口にする以外、こちらにとって全く意味の解さない言語を話すようになった。

「すごいね、おねえちゃん。よくわかるね」

「全然。半分もわからなかったわ」

「うっそ!」

シェールが驚くのも無理はない。日用品の買い出しから乗り合い馬車の値段まで、すべてユリアが単身交渉に当たっていた。

「私は買いたいし、あちらは売りたい。お互い利害が一致しているから、なんとかして伝えたい、どうにか理解したい、そう思った結果よ」

「けど」

「それに、安心して交渉に当たれる環境というのも大切よ。いくら底値まで値切ったとしても、その間にお財布をすられたら意味がないもの」

ユリアは微笑んだ。


ちまちま進みます…
6



2020/11/29  1:52

投稿者:そら

2020/11/29 1:22の方
今回は、いつものタリ(とりわけお仕事モードのとき)とはまるで別人のようで、少々心苦しかったので、そう言っていただけて安心しました。ありがとうございます!

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