ダラダラ中につきカメ更新 感想など、ちょろっとでも書き込んでいただけましたら泣いて喜びます🎵

2020/11/11  22:20

石の記憶9  小説

「とうさん?!」

玄関を一歩入ったところで、シェールは息を飲んだ。まさかこんな時間に、それも自分より早く父が帰宅しているとは思わなかった。

「おかえり」

父の声はあくまで冷静だったが、それでも全身から立ち上る異質な気配までは隠せない。まずい。直感的にそう思った。

「ただいま」

反射的に返事を返しながら、シェールは父親の様子を窺った。そうして、静に怒りを押さえる父を見るにつけ、自分が不在の間に何が起こったのか、手に取るようにわかった。

「お前に聞きたいことがあって待っていた。無断で稽古を休み、新聞店で仕事を?」

「とうさん、話そうと思ったんだ」

「言い訳は聞きたくない」

今朝ほどユリアに言われたとおり、今日こそ本当のことを打ち明けようと思っていた。だが、一歩遅かった。シェールは観念して頷いた。

「朝稽古に行っているというのも嘘か」

「はい」

「そうか、わかった」

父はそれだけ言うと、くるりと方向を返え、二階へと続く階段を登り始めた。

「待って!」

シェールは慌てて父の後を追った。出来ることならここから逃げ出したかったが、そんなことをすればどうなるか。とにかくこのままで良いわけがなかった。


父の後を追い、部屋に入ったところで、それ以上の入室を阻まれた。

「ここから出ていけ」

「なんで?」

「お前も仕事を得たんだ。もう俺に養われなくても生きていけるだろう?」

「そんな、無理だよ。急にそんなこと…」

「知ったことか」

まるで取りつく島もない。こうなることはある程度予見していたが、まさか話すら聞いてもらえないとは思わなかった。頑なな父を前に、シェールの中にささやかな反抗心が芽生えた。

「ちょっと待ってよ。確かにとうさんに何も言わずに勝手に働いたりして、それはいけないと思うけど、ても!別に悪いことをしてたわけじゃない」

「ほう、お前は悪くないと?」

「だって…」

シェールかて良心が痛まなかったわけではない。だが、そうかと言って、一方的に責められるのは納得がいかなかった。

「そうか、みんな俺が悪いのだな。少なくとも世間はそう思っているようだ」

「どういうこと?」

「お前が勝手に仕事を始めてから、とうさんが何と言われているか知っているか」

「ううん」

シェールは首を振った。その目が不安気に父を見た。

「いずれお前の耳にも入るだろうから、先に教えてやる。俺は貰い子をして、その貰い子を朝から晩まで、それこそ寝る間も与えず酷使しているそうだ。まるで鬼のような父親だな」

「待ってよ!そんなこと…そんなひどいこと言われてるなんて、全然知らなくて」

「知らなかったで済むか!」

シェールが必死に弁解しようとするも、ピシャリと遮られてしまう。

「確かにお前の言うように、働くことは悪いことではないし、労働自体はむしろ尊い。働かなくては学べないことだってあるだろう。だが、それにしたってやり方がある筈だ。こんな働き方をしたら、学校にも支障を来す。実際問題、剣の稽古にも行けていないのだろう」

父の言うことはすべて正論だ。それ故何一つ言い返すことが出来ない。

「シェール、お前が今一番やるべきことは何だ。働くことか」

「違う。勉強すること」

「それがわかっていてどうしてこんなことになった?そもそも何故お前は働こうと思ったんだ」

「それは、自分でお金が稼げたらって思って」

「お前には贅沢こそさせてやれないが、それでも金で苦労させるようなことはない思っていた。それは思い過ごしだったか」

「違う。そんなことない」

「だったら、何故だ!」

このタイミングでこの話をするのは物凄く気が進まないが、怒れる父をやり過ごす術などない。

「ママのことを調べてるうちに、東方の街まで行ってみたいって思って」

「は?」

何の脈絡もない話にタリウスは思わず聞き返した。

「それには結構お金がかかるって聞いて、とりあえず路銀を貯めるところから始めることにしたんだけど」

「そんなこと、一言俺に相談してくれれば良いだろう。そんなに俺は頼りにならないか」

「頼りにしてるよ!いつだって、誰よりも。でも、とうさんに頼ってばっかりじゃダメだと思って」

「何で?」

「だって、とうさんは僕のとうさんだけど、でも本当は…」

シェールは今にも泣き出しそうである。

「本当は赤の他人だなんて言ったら、ひっぱたくぞ」

「とうさん」

予期せぬ言葉にシェールが目を見張る。

「今更一体何の遠慮がいるんだ。だいたい、お前の妙な遠慮が生み出した結果がこれだぞ」

「ごめんなさい」

謝罪の言葉と共にポロリと涙が頬を伝う。

「何のごめんなさいだ」

「いろいろあるけど、僕が考えなしだったせいで、自分のことしか考えてなかったせいで、とうさんにとんでもない恥をかかせた」

一度決壊した涙腺はいかんともしがたく、涙が後から後から溢れてきた。

「本当に自分のことしか考えていなかったら、こうはなっていない筈だ。お前なりに俺のことも考えてくれたのだろう」

「そうだけど、でもそのせいでとうさんが」

「そのことはもう良い」

「良いわけないよね。とうさんは全然悪くないのに、本当はこんなに大事にしてもらってるのに」

「お前の不始末は俺の不始末だ。だから、本当にもう良い。口さがない人はどこにでもいるし、それに事実ではないんだ。いずれ誰も言わなくなる。お前も嫌なことを耳にするかもしれないが聞き流せ」

「別に僕はいいけど」

本心では少しも良くはないが、それでも父の受けた屈辱に比べれば全然大したことではない。そう思うより他なかった。

「俺も別に良い。それよりもだ。お前はこれからどうするんだ」

「どうって?」

「仕事のことだ」

シェールは頭の中でこれまでのことを整理した。

「仕事はやめる」

そして、間髪いれずに答えた。それこそが諸悪の根元だと思ったからだ。

「やめる?」

だが、その一言でたちまち父が不機嫌になった。

「お前は始めるときだけ一生懸命で、結局もう投げ出すのか。そんないい加減な気持ちだったのか。そちらのほうがよほど恥さらしだ」

「でも、とうさんが」

「俺は良いとも悪いとも言っていない」

シェールはハッとした。

「僕、やっぱり仕事は続けたい。勉強はちゃんとするし、仕事に慣れたらまた稽古にも行くから。だから、お願いだよ。とうさん」

「何故、最初からそう言えない?」

父の問いにすぐには答えることが出来ず、あれこれ思案していると、大きなため息が聞こえた。

「やるからにはやり通せ。但し朝だけだ。話は俺がつけてやる」

「ありがとう!あ、でも…」

父の返事にほっとする傍ら、シェールはとんでもないことを思い出した。

「今度は何だ」

「えーと」

そして、このことは近い将来確実にばれる。

「洗いざらい話せ」

「んーと、さっき、悪いことはしてないって言ったんだけど、でも実はそうでもないこともあって」

「何だ」

「出来れば怒らないで聞いて欲しいんだけど、新聞屋のおじさんがうちのことをちょっと勘違いしてて、とうさんが行ったら驚くかも…」

「どういうことだ」

「えーと、その、だから、とうさんはい、いないことに…」

「ふざけるな!どこまで人を虚仮(こけ)にすれば気が済むんだ!」

「ごめんなさい!でも、僕が言った訳じゃ…」

「否定しなかったのなら同じことだ!」

息子をどやしつけ、タリウスはまたひとつため息を吐いた。

「こんなとき、エレインならどうしたと思う?」

「ええ?!ママ?わかんない」

「お仕置きするに決まっているだろう」

「ウソ!そんなことしな…うーん、するかな?ああ、するかも」

シェールは首をひねった。

「つべこべ言わずにこっちへ来い!」

のんびりと母親に想いを馳せている少年がたまらなく愛おしく、また憎らしい。タリウスはそんな息子を捕らえ、すぐさま膝の上に組伏せた。

「ついて良い嘘とそうでない嘘があるだろう」

言いながら、あっという間にお尻をむき、最初の一打を見舞った。

「ウソはみんなダメなんじゃ…痛っ!」

「屁理屈を言うな。本当に俺がいなくなったらどうするつもりだ。呑気に新聞なんぞ配っている場合か」

「呑気じゃないよ。結構大変なんだ」

「この減らず口が!」

「やだー!」

思わず叩く手に力を込めるとシェールは体を仰け反らせて痛がった。だが、そんなことは気にも止めず、タリウスはビシャビシャとなおもお尻を叩いた。

「ごめんなさい!ああ、もう降参する!」

「お前と勝負をしているわけではない!何が降参だ。少しは反省しろ」

「ごめんなさい!ごめんなさい!!」

シェールは手足をバタつかせ懸命に抵抗するが、対するタリウスも逃すものかとばかり、がっしりとその体を押さえ付けた。

「全くこうもお前に舐められているとは思わなかった。お前には親を敬う心はないのか」

「あるよ、ちゃんとある。ごめんなさい、とうさん」

力なく呟く息子を見て、もはやすべてがどうでも良くなった。つい小一時間前、あれほどまでに怒り狂っていたことが嘘のようである。最終的にこうなることを息子も織り込み済みだったのだろうか。

「その言葉、忘れるなよ」

「はい」

だが、ほうほうの体で膝から下りた少年はあまりに無垢で、思い過ごしだったと思わざるを得ない。

「よし、もう良い」

いずれにせよ、愛し子のためにもう一仕事しなくてはならない。様々な感情の入り交じったため息が口から漏れた。



まだもうちょいこのネタはひっぱりますが、ひとまず終わります。父子にとって、スパはスキンシップに成り下がった模様です…

13



2020/11/13  21:48

投稿者:そら

2020/11/13 1:06の方
こちらこそお楽しみいただけたようで良かったです!ニヤニヤ出来ました?毎回頑張る方向が斜め上なシェールですが、そんな彼に成長を感じていただけたのなら何よりです。

2020/11/13  21:44

投稿者:そら

2020/11/12 21:41の方
こちらこそ、御愛読感謝いたします!
今回誰より疲れたのはタリウスかな…

2020/11/13  21:41

投稿者:そら

2020/11/12 10:44の方
史上最大に怒っていたのに、あんなんでゆるされたのは、シェールの日頃の行いゆえですね。おばちゃんに感謝です。でもって、なんだかんだ言ってやっぱりかわいい息子ちゃんですから。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ