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2020/11/7  11:02

石の記憶8  小説

今年も中央士官学校では、次期士官候補生の採用をめぐり、連日教官たちが多忙を極めていた。だが、今日になってようやくそれも一段落し、タリウスは久方ぶりに日のあるうちに退勤した。

月末だったこともあり、諸々の用事を済ませた後で、彼は街の剣術道場に顔を出した。表向きは息子の月謝を支払うためだが、その実、息子への罪滅ぼしの意味合いのほうが大きい。このところ忙しさにかまけ、まるでかまってやれていない。

ところがそんな思いに反し、道場に息子の姿はなかった。理由もなくシェールが稽古を休むとは考えられない。困惑するタリウスを息子の師が呼び止めた。思い詰めたような師の表情を見るにつけ、たちまち不安に苛まれた。

「貴殿には貴殿の教育方針がおありだとは思うが」

師はしばらく逡巡した後、さも言いづらそうに口を開いた。

「シェールは学校をやめる決断を?」

「そんなことは全く考えていません」

「であれば、何故仕事を?シェールのことだ、どうにかこうにか踏ん張っているのかもしれんが、それにしたって朝に夕に働いたのでは…」

「待ってください。一体何の話ですか」

話が少しも理解出来ない。どなたかとお間違えではないか、そう言おうとしたときだ。

「隠さずとも結構。シェールが新聞配りをしていることは皆が知っています」

思ってもみなかった台詞に、タリウスは二の句が継げない。

「こんなことは言いたくないが、口さがない人たちが貴殿のことを何と言っているか…」

その先の言葉はもはや聞くに耐えられなかった。顔から火が出るとは正にこのことだ。羞恥はやがて怒りとなり、もはや自分でもどうすることも出来なかった。

気が付いたときには、タリウスは玄関の木戸をくぐっていた。どこをどう通って宿屋まで帰り着いたのか、それどころか一体どうやって道場から辞したのかすら定かではない。



「戻りました」

「おや、今日は早いね」

普段通り女将に帰宅を告げることで、ほんの少しだけ平常心が戻って来る。

「あんたが忙しくしている間、ぼっちゃんには随分世話になったよ。本当にあの子は良い子だよ」

「そうでしょうか」

息子のことを思い出しただけでも腸が煮え繰り返るようだった。憮然するタリウスに女将は苦笑いを返した。

「お冠だね。また何か厄介事かい?」

「本人に確認したわけではありませんが恐らくは」

「全くしょうがないね」

女将はそう言って、ため息をひとつ吐いた。

「この前、あんたが夜勤の日に腰をやっちまってね。散々だったんだよ」

「それは大変でしたね。大丈夫でしたか」

「それが全然大丈夫じゃなくて、動けなくなっちまってさ。正直、私とユリアちゃんだけだったら詰んでたけど、ぼっちゃんが世話してくれて、おまけに診療所で薬までもらってきてくれたお陰で助かった」

「そうでしたか」

当然のことながら、すべてが初耳である。

「ぼっちゃんはさ、あんたが見ていないところでそりゃあ良からぬこともしてるかもしれないけど、ちゃあんと良いこともしてるよ」

「いかんせん知らないことが多くて。お恥ずかしい話ですが」

「大丈夫だよ。あんたが育てたとおりに、ぼっちゃんは育ってるよ」

「それが良いんだか、悪いんだか」

タリウスは自嘲気味に笑った。

小間切れですみません。次で決着つきます。
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2020/11/11  22:32

投稿者:そら

2020/11/7 15:29の方
お怒りモードの筈が、おばちゃんが火を消してしまったため、結局あんな感じに仕上がりした…

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