ダラダラ中につきカメ更新 感想など、ちょろっとでも書き込んでいただけましたら泣いて喜びます🎵

2020/11/1  3:00

石の記憶7  小説

「もう、シェールくん。話が違うじゃない」

宿への帰り道、二人はいつ終わるともしれない押し問答を延々繰り広げていた。

「だって、こんなにうまくいくなんて思ってなくて、もったいなかったんだもん」

「いいこと、シェールくん。今日のうちに必ずタリウスに話して。もし、シェールくんが寝た後なら、私が…」

「無理だよ」

皆まで聞かずにシェールが首を振った。

「とうさん今日当直だもん」

「え?そうなの?!」

ユリアが絶叫した。

「そ、それなら、これから兵舎まで説明しに行ってくるわ」

「やめてよ。ただでさえ忙しいときにそんなことしたら、絶対めちゃくちゃ怒られる」

一転して、今度はシェールが焦る番だ。

「このまま勝手なことをするよりは良いわ。それに、私が行く分には大丈夫よ、きっと」

「で、でも、それだとおねえちゃんまで怒られるかもしれないし…」

宿屋の玄関を入ってもなお、話し合いは平行線を辿った。

「ぼっちゃーん!ぼっちゃん!」

すると、遠くから女将の呼ぶ声がした。

「おばちゃん?どうしたの?!」

「ちょっと来とくれ!」

「女将さんの部屋からだわ」

いくら気心が知れているとはいえ、普段の女将ならば、こんなふうに自分を呼びつけるようなことはまずしない。どうにも様子がおかしかった。

「おばちゃん!」

「女将さん!」

慌てて女将の居室に向かうと、彼女は扉の前に両手を付いてうずくまっていた。身体は震え、額には玉の汗である。

「どうしたの?お腹痛いの?」

「いや、腰が痛くてね。動けないんだよ」

「ええ?!」

「本当にもう情けなくていやんなるよ」

女将は今にも泣き出さんばかりである。

「ベッドまで歩けますか」

ユリアが女将に肩を貸そうと、隣に屈んだ。

「無理だよ、ユリアちゃんひとりじゃ」

女将の言葉通り、ユリアでは女将の身体を支え切れず立ち上がることもままならない。

「僕も手伝う」

言うや否やシェールは反対側に回り、女将の腕を持ち上げた。

「せーの!」

そうして、掛け声と共にふたり同時に立ち上がり、そのままそろそろと引きずるようにして、ベッドまで送り届けた。

「待ってて、おばちゃん。今お医者さん呼んでくるから」

「悪いね、ぼっちゃん。そうしてくれるかい」

「いいよ、おばちゃんはゆっくり寝てて」

シェールはもう女将のことが心配でいても立ってもいられなかった。ここへ移り住んでからというもの、こんなことは初めてだった。

「ああ、ぼっちゃん。外に行くついでに表の看板、引っ込めておくれ」

「看板?」

「今日はもう台所に立てないから、お客さんが来たら困るだろう。夕飯は下ごしらえまではしてあるから、悪いけど二人で適当にやっておくれ。余ったら、明日の朝でも、ぼっちゃんのお弁当でも…」

「わかった!」

シェールは駆け出した。まず女将に言われたとおり店の前の看板を下げ、それから街の診療所へ全速力で向かった。

「先生!先生!いますか」

そうして荒い息のまま、診療所の扉を叩いた。

「シェールか、どうした?」

ややあって、顔馴染みの医者が玄関の扉を開けた。

「おばちゃんが腰を痛めて動けないんですけど、診てもらえませんか」

「そりゃ大変だ。だが、今儂も手一杯でな、とりあえず薬を出すから持っていってくれるか」

待ってろ、と医者は慌ただしく奥へと消えていった。

「とにかくこれを貼って安静にしてることだ。いいか、絶対無理に動かしちゃだめだ。揉んだりもしないように」

「わかりました」

シェールは医師に礼を言い、すぐさま宿へ取って返した。それからユリアと二人女将の世話を焼き、食事の準備をし、床に付く頃には夜もすっかり更けていた。


翌朝、シェールはいつも通りの時間に目覚め、それから、はやる心をおさえ昨日の店に向かった。

初日は、店主に付いて配達の手順をひととおり学んだ。初めに店主の言った通り、新聞もまとまれば結構な重さがある上に、覚えるべきこともまた多くある。シェールが考えていた以上にきつい仕事だった。それ故、仕事を終え、宿へ帰り着く頃にはくたくたに疲労してした。

それからもうひとつ、彼にとって予想外だったのが、朝の配達に加え、夕方にも雑務があることだ。学校を終えると、その足で再び店に向かい、あれやこれやと翌日の準備をする。これには疲れ知らずのシェールも耐えきれず、夕飯が済んだところで記憶をなくした。しばらくはそんな日々が続いた。


「遅い!」

見よう見まねで朝刊の配達を終え、玄関を開けたところで、久々に父の怒鳴り声を聞いた。まさか朝からこれを聞くとは、シェールは思わず首をすくめた。

「こんなギリギリに帰ってきたら、学校に遅刻するだろう。一体どこまで行ったんだ」

「えーと、それは…」

あれ以来、結局新聞配達の仕事をしていることを打ち明けられないまま、時だけが過ぎていた。この際、話すなら今かと思ったが、それをすれば学校に間に合わなくなる。どうしたものかと考えあぐねていると、父がしびれを切らせた。

「もう良い。とっとと食事をしなさい」

そこはかとなく不機嫌な父を見るにつけ、やはり言わなくて良かったとシェールは密かに安堵した。

「シェールくん、まさかまだ話していないの?」

そんな胸中を見透かすかのように、ユリアが苦言を呈した。

「なかなか話す時間がなくて」

「それは言い訳だわ」

いつになく強い言葉にシェールははっとした。

「絶対に今日中に話して。そうでなければ、私からタリウスの耳に入れるわ。良いわね」

ユリアの声はあくまで柔和だったが、目は笑っていなかった。
5



2020/11/7  11:16

投稿者:そら

2020/11/1 20:07の方
あともう一話ドキドキさせてしまうと思います…

2020/11/7  11:14

投稿者:そら

Aさま
ユリアは今回完全な巻き込まれですが、新たな楽しみ方を見付けてくださりありがとうございます!なんだかんだ悩みながら、上手にタリの荷物をもってあげるのかなと。
長編を書くのは楽しいのですが、最近10時を過ぎると眠くなってしまい、何度スマホを額やまぶたに落としたかΣ(ノд<)

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ