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2020/10/25  3:37

石の記憶5  小説


「ただいま」

数日後、学校から帰宅したシェールは、すぐには部屋へ帰らず、その足で食堂を覗いた。それは、ここ数日の新たな日課である。

「シェールくん、お帰りなさい」

思った通り、そこには目当ての人物がいつものように座っていた。

「宿題のこと、本当にどうもありがとう。本当のパパとママがいない僕には、そんな宿題できっこないって思ってたけど、みんなが手伝ってくれたお陰でちゃんと出せた」

今回の宿題については、教師に言われるまでもなく、早々に諦めてはいたものの、その実心が晴れなかった。ところが、その後、周囲の大人たちの計らいにより、どうにか期限までに形にすることが出来た。

「私もシェールくんと一緒に勉強出来て、とても楽しかったわ」

特にユリアは、俄に忙しくなった父に代わり、この数日間で様々な文献をあたりそこから必要な情報を調べ上げてくれた。

「おねえちゃんはママに会ったことがないのにいろんなことがわかって、すごいと思った」

「それはタリウスやミゼットさんがヒントになることを教えてくれたからよ。でもね、シェールくん。それはあくまでも、可能性の話だということは覚えておいてね。ご本人がいない以上、何一つ確証はない。私が出来るのは、言葉や持ち物から住んでいるところを割り出して、そこに住んでいる人がどんな生活をしているか調べるだけ」

「それでもすごいよ。ママのことわかって嬉しかったし、それにいつか行ってみたいって思った」

亡き母に会うことはもはや叶わないが、その母が生まれた場所へ行くことは可能である。ひょっとしたら何かしら母を感じさせるものがあるかも知れない。

「実は私も前から行ってみたいと思っていたの」

「本当?ねえ、お願い!連れてって」

シェールは思わず叫んだ。流石に我儘が過ぎると気付いたときには言い終えた後だった。

「是非そうしてあげたいところだけど、私ひとりではシェールくんを安全に東方まで連れていってあげられないわ」

「危ないところ?」

「ええ、ここよりかは。それに、それなりにお金も必要よ」

「そっか」

ユリアの現実的な一言に、一気に膨らみ掛けた気持ちがたちまち勢いをなくした。思わず目を伏せると、彼女の手元が視界に入った。

「何を見てるの?」

「ああ、これ」

昨日まで地図や辞書などが並んでいたテーブルに、今は広告のようなものが広げられている。

「求人広告といって、働き手を募集しているチラシよ。仕事の内容やお給金が載っているの」

「仕事を探しているの?」

ユリアは士官学校で働いてはいるものの、それ以外にもちょくちょく単発の仕事を請けていた。

「ええ、そうなんだけれど、なかなか条件に合うものがなくて」

「条件って?」

「年齢や働くのに必要な資格のことよ」

ふうん、とシェールは相槌を打ち、それから少し考えてからこう切り出した。

「僕でも働けるかな」

「子供は滅多に…ああ、でも確かこれなら大丈夫かもしれないわ」

「うっそ?」

予想に反して、意外にもユリアは広告のひとつを指差した。

「新聞配達?」

「ええ、新聞屋さんなら子供でも合法的に働けた筈よ。お給金はたかが知れているけれど」

「それでもいい。やりたい」

「本当に?朝は早いし、結構大変そうよ」

「平気だよ。どうせいつも稽古で早起きしてるし変わらないよ」

それに新聞を持って、街を配り歩くなら、朝稽古の代わりに充分なり得ると思った。

「それなら、おとうさんにお願いしてみたら?」

「やっぱりとうさんに言わなきゃダメかな」

再び思いは失速し、シェールは溜め息を吐いた。

「それはそうよ。保護者の許可なく働けないわ。そもそもどうしてシェールくんは急に働きたくなったの?」

「働いて、お金をもらって東方に行きたい」

「待って待って。お金の問題じゃないわ。本当に行きたいならまずタリウスに相談するべきだわ」

ユリアはとんでもないと、少年を諌めた。

「無理だよ。とうさんは仕事があるし、それに危ないところなら絶対ダメって言うと思う」

「それなら尚のこと、私と二人では行かせてくれるはずないわ」

「ああ、確かに」

シェールはしばらく考え込み、それから急に思い立って宿を後にした。


それから、宿題のお礼方々訪れたミルズ邸で、シェールは渾身の策を披露した。

「めちゃくちゃ楽しそうだし、私を仲間に引き入れるってのは良い案だとは思うけれど。でも残念。ミゼットも仕事あるのよ」

「だよね」

「私だって行けるものなら行きたいもの」

思った通り、ミゼットは気持ちの上では大賛成してくれたが、現実はやはり厳しかった。

「おとうさんに頼んでみたら?あんたのためなら、頑張って仕事を調整してくれるかもよ」

「ミルズ先生、良いって言うと思う?」

「うーん、それはちょっとわからないけど、とにかくダメ元で言ってみたら?」

「嫌だよ」

「どうして?」

「だって、きっととうさん、何とかしようってするもん」

「良いじゃない」

「ダメだよ。困らせたくない」

毎年のことだが、現在士官学校は繁忙期を迎え、父の帰宅時間は深夜になることも多く、最近ではろくに言葉も交わしていない。この上、厄介な頼み事など出来る筈がなかった。

「そういうところは律儀よね」

少年の意志の強そうな瞳に、ミゼットは親友の面影を見た。
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