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2020/10/15  1:59

石の記憶3  そらごと


その日、シェールは、学校が引けた後も出掛けることなく自室にこもっていた。取り立ててやることがあったわけではない。ただひとりになりたかった。

件の宿題が出されてからというもの、どうにも心が騒がしいのだ。

これまでのことを振り返ってみると、我ながら波乱に満ちた人生を送っているとは思う。しかし、そうかといって、現在の生活に不満があるかと言えば、決してそんなことはない。それ故、自分の生い立ちや置かれた環境について、他人と比べどうこう言うつもりもない。

ただ、自分が何者で、どこからきたのか、それを知る権利だけは、友人たちと等しくあっても良いと思った。

恐らく、友人たちの多くは、両親にいくつか質問すれば、即座に宿題を完成させることが出来るだろう。対して、自分に出来るのはせいぜいが想い出を掘り起こすくらいである。

そのとき、ふと思いついて、シェールは物入れの一番下にある引き出しを開けた。そうして、奥の方から小さな袋を取り出し、手のひらの上で逆さにして振った。

出てきたのは、黒い石、白い石、青い石、すべすべした石、ごつごつした石、光に当てるとキラキラ光る石、等々。どれも石には変わりないが、どれひとつとして同じものはない。

久しぶりに触れた石の触感は、冷たくて気持ち良かった。シェールはしばらくの間、手のひらに置かれた石たちをぼんやりと眺めていた。

だが、階段を上る規則正しい靴音に、徐々に意識が現実へと返される。扉が開かれ、シェールが顔を上げたそのとき、石のひとつが手からこぼれ落ちた。

「あっ!」

慌てて拾おうとすると、傾いた手から更にひとつ、またひとつと石が転がり落ちた。

「こら、何をしているんだ」

タリウスは足早にこちらへ歩みより、屈んで石を拾い上げる。そんな父の姿を目にした途端、ふいに過去の記憶がよみがえった。

シェールがまだ生家にいた頃のことだ。今日のように石を出して眺めていたところ、手の隙間から石が溢れ落ち、バラバラと床へぶちまけてしまった。あの時の母もまた、床へ屈んで石を拾い集めてくれた。

「シェール」

懐かしさと、それからやや遅れてやってきた喪失感に、身動きが取れなくなる。

「どうした?シェール、大丈夫か」

自分を呼ぶ声に我に返ると、心配そうにこちらを伺う父と目が合った。

「うん」

ひとまず返事を返し、それからいつの間にか溢れだした涙をそっと拭った。

「ここにきたばっかりの頃は、時々出して見てたんだけど、最後はいつも悲しくなっちゃうから、もう見るのを止めたんだ。さすがにもう平気だと思ったんだけど…」

言い終えるや否や、唐突に正面から抱き竦められた。予期せぬ事態にシェールは言葉を失う。

「悪かったな。辛いときに、何の力にもなれなくて」

普段は平気できついことを言うくせに、こういうときの父は滅法やさしい。

「全然、そんなことないって」

かつて、絶望の淵から自分を救い上げてくれたのは、他でもない、父である。その後も紆余曲折あったが、最終的に乗り越えられたのは父のお陰だ。

「もう平気」

「そうか」

そう言って父は自分から離れると、残りの石を拾ってくれた。

「ほら、きちんとしまっておかないと失くなってしまうぞ」

「ありがと」

シェールは父から石を受け取り、出窓に置いておいた革の袋にそっと戻した。

「シェール、それ…」

すると、父の目が袋に釘付けになる。

「なあに?」

「少しの間、それをとうさんに貸してはくれないか」

「いいけど、とうさん占いするの?」

「占いは出来ない。だが、少し調べたいことがある」

「いいよ。て言うか、とうさんが持ってて。もっと早くそうすれば良かった」

「どうして?」

「ひとりで見るから悲しくなる」

逆に言えば、父といれば大丈夫だと思った。
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