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2020/3/15  8:25

鬼の牙城にて1  小説

「一体どうなっているんだ!何故本部から応援が来ない」

「も、申し訳ございません。手違いがあったようで、予定していた者が地方に行ってしまって明日は来られないとのことで…」

「あったようで?責任者は君ではないのか。君の連絡調整に落ち度があったからこういう事態に陥ったのだろうが!」

盗み聞きをする気などさらさらなかった。だが、こうも大音響でやられたら嫌でも一部始終が聞こえてしまう。

キール=ダルトンは、すっかり困り果てていた。扉を一枚隔てた向こうでは、主任教官が自身の部下を叱責していた。

「さっさと手紙を置いて帰るわよ」

「自分もそうしたいところですが、どう考えても無理ですよね」

「なんでよ。急ぎだって言ってたじゃない」

上官であるミゼット=ミルズの視線はキールの手元に注がれている。先程、成り行きで預かったこの手紙は、扉の向こう側の揉め事と恐らくは無関係ではない筈だ。

「でも」

「ほら、行きなさい」

上官がおもむろに扉を叩く。

「取り込み中だ!」

「すいません」

瞬時に返された怒声に息が止まりそうになった。扉越しでもこの迫力である。キールは思わず後ずさりそうになるが、上官はそれを許さない。彼女は部屋の主の許可なく扉を開けると、自分はすっと一歩後退した。

「何の用だ。見てのとおり、こちらは明日の試験で取り込んでいるんだが」

「その試験に関して、本部の方から手紙を預かって来ました」

「君がか?」

「いえ…」

キールは背後の上官を振り返った。

「ああ、君か」

「城内で担当者と行き合って、どうしても私から先生に渡して欲しいと懇願されました。断るつもりでしたが、部下が受け取ってしまいました」

「なるほど」

そこで、主任教官はいくらか態度を軟化させた。だが、手紙の封を切り読み進むうちに、どんどん表情が険しくなっていくのがわかった。

「この手紙の主は、ずいぶん前に応援の打診があったきり、昨日まで何の音沙汰もなかった故、この話は流れとばかり思っていたそうだ。代わりを出したいのは山々だが、今日の明日では不可能、現在方々で声を掛けてはいるが結果は芳しくないとある。あとは、謝罪の言葉が延々並べられている」

「いざというときには、ご自身が行く用意があるそうです」

この伝言を伝えて、キールの任務は終了する筈だった。

「まさか、指揮官にやらせるようなことではない。それに、手紙を読んだ限り、どう考えてもこちらの不手際だ。そういうわけだから、とっとと代わりを探せ」

「そうおっしゃいましても、心当たりは既にすべて当たりました」

「なら、君はこのまま明日になるまで、ここで代わりを待ち続けるつもりか」

「いえ、ですから今年は教官が手本になってはいかがかと」

「ただでさえ人手が足らないんだ。教官が手本になって、誰が試験官になる?採点はどうする!馬鹿も休み休み言え」

「では、私はこれで」

再び交戦が始まったところで、自分は無関係とばかりに、ミゼットが早々に撤退を始めた。もちろんキールもそれに従う。

「ちょっとお待ちください」

「私に何かご用?」

すがるような目を向けられ、ミゼットは視線だけ背後に送った。

「い、いえ。ああ、そうだ。実技試験のお手本をやっていただけませんか」

「は?じょ…」

「冗談じゃない!」

ミゼットが言い掛けるが、それよりも強い勢いで同じ台詞が上書きされる。

「彼女が手本では気が散る!」

「は?」

上官の顔つきが変わった。物凄く嫌な予感がした。

「女子の志願者がいるわけでなし、突然こんな色物が出てきたりしたら志願者が動揺する。彼らににしてみたら、候補生選抜試験は年に一度きりのチャンスだ。妙なことをして結果に影響したら、非礼だろう」

「私に対して物凄く非礼なことを仰っているのをおわかりですか」

「今はそんなことを言っている場合ではないだろう」

「非常時こそ人の本性を知るチャンスね」

「だから今は…」

「はいっ!!」

キールが挙手し、夫婦喧嘩を制した。

「何なの!」
「何だね!」

両者が同時に噛みついてくる。仲違いをしたところで、こういうときでも息は合うのだと思った。

「えーと、自分がその、やらせていただくというのは、どうかと思いまして」

「君が?」

「はい、幸い自分は明日非番ですし、もしもその、お役に立てるのでしたらと思ったのですが…出過ギタ真似デシタデショウカ」

勢いよく手を上げたものの、周囲の視線があまりに痛くて、声はたちまち尻窄みになっていく。まわりを見回せば、見知った教官たちの姿もまたそこにはあった。

「出過ぎた真似とは思わないが、君で大丈夫なのか」

「えーと」

即座に大丈夫ですとは言えなかった。

「確か君は、剣術の訓練のとき、そこにいるジョージア教官の追試だか再試だかをしょっちゅう受けてはいなかったか」

「ねえ、あんなもん追試になったりするの?」

主任教官の言葉に、上官が小声でささやく。昔を思い返してみるが、彼女には該当する記憶がない。

「すいません。なりました、自分は」

「ふん」

ふたりのやり取りを見て、ゼインが鼻で笑った。その行為が、一旦はおさまり掛けていた上官の怒りに再び火を点けた。

「それが何だって言うのよ」

ミゼットが口の中で呟く。

「追試だろうが再試だろうが、最終的に合格していたら何の問題もないじゃない。成績はあくまでも途中経過、卒校するときには全員最高水準に達している筈でしょう。というか、それがそちらの仕事ですよね」

ゼインは応えない。

「ああ、そう。昨今は義理や妥協で中途半端なまま、中途半端な者を士官として世に送り出し、挙げ句、こちらに寄越したということ」

「そんなことはありません」

静寂を破ったのはキールにとって意外な人物だった。

「我々は、彼がこちらの求める水準に充分到達していると判断して、ここから送り出しましたし、また貴殿にお預けしました。そうですよね、先生」

「ジョージアせんせい」

恩師の言葉に涙が出そうだった。そして、彼もまたあのふたりの夫婦喧嘩によく巻き込まるのかもしれないと場違いなことを思った。

「失礼。どうにも予科生のときのイメージが強くてね」

恐らく少しも悪いと思っていないだろう謝罪を聞きながら、キールは一刻も早くこの場からいなくなりたかった。心がほんの少し回復した今こそ、撤退するには最適だと思った。

「お借りしても?」

それ故、続く台詞に大いに驚いた。

「どうぞ、ご自由に」

失礼、と上官は踵を返した。キールが慌てて後を追いかけるが、見知らぬ教官に阻まれた。

「誰だか知らないが助かった」

背後から肩を抱かれと思ったら、ほとんど羽交い締めにされた。言外に逃してたまるかと言っているようだった。

「あ、いや、でも自分では」

あれだけ苔にされて、何故非番の日に働かなくてはならないのか。

「ジョージアに預けろ。君は他にやることがあるだろう」

「ミルズせんせい?」

「よろしく頼むよ。キール=ダルトン」

主任教官の満面の笑みを見ながら、あの頃と同じく、自身には選択する余地などないことを知った。それどころか、失敗したらどうなるか、立ちどころに背中が寒くなった。
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2020/3/15  21:39

投稿者:そら

2020/3/15 17:29の方
大丈夫です。
私は「親友」くらいからずっと、主任教官好き過ぎ病を患っています(^-^;
ちなみに、ゼインはシェールのことが好き過ぎ病だと思われます…

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