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2019/12/14  22:18

鬼の本領9  小説

「お前も下がれ。それとも、まだ何か用が?」

教官はイサベルを追い出し、今度はアグネスに向き直った。言うなら今しかない。

「身分証を返してください。お願いします」

教官が両目を瞬く。

「自分が何を言っているかわかっているのか」

「あれがないと困るです」

「身分証を取られて困らない奴がいたら会ってみたいものだ」

「明日一日だけで良いんです。どうしても訓練に出たいんです」

「お前の事情など知ったことか。だいたいお前は何故身分証を取り上げられたと思っている」

「それは、訓練中に騒ぎを起こしたからです」

「ただの騒ぎではない。訓練の最中に喧嘩をするなどあり得ないだろう。規律を乱すなと最初に言ったはずだ」

「お言葉ですが」

アグネスが遠慮がちに、だが明確な意思をもって教官を見た。

「規律を乱さなければ何をしても良いんですか」

「そんなことは言っていない」

「だったら…!」

これ以上は黙っていられなかった。だが、アグネスの言葉は教官によって遮られてしまう。

「うちの奴等が先に挑発するようなことをしたんだろう。何度も、執拗に」

「見て、いらっしゃったんですか?」

「直接見てはいないが、どう考えたっておかしいと思うだろう。何故言わなかった?」

言ったところで取り合ってもらえないと思った。主任教官は少々事情が違うようだが、他の教官は皆身内贔屓だと思い込んでいた。

「あいつらを締め上げてあらかたの事情は聞いた。聞いて、呆れた」

タリウスが深いため息を吐いた。彼女たちは、既に明確な目的意識をもち、志もまた高い。自分の訓練生との差は歴然である。

「うちの阿呆共が迷惑を掛けたことは認める。それに、こうなる前に気付いてやれなくて申し訳ないとも思っている」

信じられないといった面持ちで、アグネスは教官が謝るのを聞いていた。

「だが、だからと言ってお前のしたことが帳消しになるわけではない。どんな理由があろうが先に手を出したほうが負けだ。こんなことはこの先、それこそここを出た後だってごまんとある。その度に騒ぎを起こすような奴はいらない。お前もオーデンも、交換訓練生に推されるくらいだ。ここに来るまでに、一方ならない努力を重ねてきたんじゃないのか」

教官の言葉にアグネスがはっとして目を上げた。

「今回のことを報告書に書くなら、命令違反と暴力行為、それだけだ。何故そうなったかは関係ない。こんなことで経歴に泥を塗って、勿体ないと思わないのか」

返す言葉が見付からず、アグネスは小さく謝罪を口にした。その目はすっかり毒気を抜かれていた。

「アグネス=ラサーク」

タリウスの声音が一変する。はいと返事を返しながら、背中が寒くなるのを感じた。

「ここからただで帰れると思っているなら大間違えだ。お前はここに何をしに来た?謝りに来たとでも言うつもりか!」

「それは…」

「身分証をどうするか決めるのは俺だ。お前に指図される筋合いはない!」

「す、すみませ…」

恐ろしくて声がかすれた。最初にこの部屋に来たときの威勢はもうどこにもなかった。

「すみませんで済ますつもりはない。何が謝罪だ。聞いて呆れる。お前は微塵も反省などしていない。大方、身分証を取り返すことしか頭にないのだろう」

「ちが…」

つい数分前までは確かにそうだったが、今は違う。怒れる教官を前に、とてもではないがそんなことは言えなかった。

「我慢するということを学ぶ良い機会だ。机に手を付け」

無情な命令にアグネスは目の前が暗くなるのを感じた。最初からこうなることは折り込み済みだが、今となっては頭の中が後悔でいっぱいである。

「一ダースだ。数えろ」

しかし、そんな感情とは裏腹に身体は命令に従ってしまう。背後からひゅんと空を切る音がした。

「ひとつ!ありがとうございます」

予想以上の痛さに、思わず飛び上がりそうになるのをなんとか理性で押さえ込んだ。だが、それも長くは続かないと思った。

「むっつ!ありがとうございます」

そうしてどうにか半分までは罰を受けたが、ここへ来て我慢が効かなくなった。

「ななつ…っ!ありがとうございます」

肌を切るような鋭い痛みに、彼女は堪えきれず地団駄を踏んだ。

「動くな!次に姿勢を崩したらやり直させるぞ」

「はい!」

どうにか自分を奮い立たせ、次の一打を待った。

「やっ…!ったい!」

「だめだ。やり直せ」

だが、今度は無意識に手が浮いた。彼女は机にかじりつき、今度こそ動くまいと心に決めるが、鞭打たれた瞬間思考がばらばらになる。

「った!すいません」

一旦途切れた忍耐力はそう簡単には戻ってこない。

「やり直しだ」

教官の冷酷な声だけが妙にはっきり聞こえた。

「朝まで付き合ったところでかまわないんだぞ」

「い、いいえ」

言いながら、アグネスは泣きそうになった。どう頑張ったところでもう耐えられそうもない。許しを乞おう、そう思い背後の教官を上目遣いで見た。

「甘えるな。いつもの威勢の良さはどうした」

「すみません」

教官はいとも簡単に甘えた自分を振り払う。涙が頬を伝った。困り果てて動けないでいると、教官が鞭を手にし、こちらに近付いて来る。何事かと構えるアグネスの横を彼は通りすぎ、机の後ろから椅子を持って戻ってきた。

「座板を掴んでいろ。良いと言うまで絶対に手を離すな。もし、許可なく手を離したら、以降すべての訓練に出ることを禁じる」

「そんな!それだけは許してください」

「手を離さなければ良いだけの話だろう。早くしろ」

教官がピシリと机を打つ。アグネスは慌てて椅子に手を付く。その手が小刻みに震えていた。

「やっつ、ありがとうございます」

すぐさま最初の一打がやってくる。

「ここのつ、ありがとうございます」

無我夢中だった。言われたとおり手は椅子を掴んでいたが、足は盛大に動かしたような気がする。もはや痛さで何がなんだかわからなかった。

「十二!ありがとうございます!」

宣告された鞭を受け終わったときには、アグネスは汗だくですべてを消耗し、肩で息をするほどになっていた。

「いいか、これが我慢するということだ。わかったか」

「はい!」

「よし、もう良い」
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2019/12/15  0:36

投稿者:そら

12/14 23:39の方
タリウス格好良かったですか?
今回はかーなり頑張って格好良く書いたつもりなので、嬉しいです!
ゼインに怒られたり、イサベルの怪我にうわ〜となっている(ゼインに怒られるから)彼も、彼らしくて好きなんですけどね。

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