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2019/12/8  22:05

鬼の本領6  小説

翌朝、昨日より更に重い気持ちで、タリウスは出仕した。昨日の午後の出来事が、何度考えても腑に落ちないのだ。そして、それはまた訓練生も同じらしく、あれ以降、教室の空気が一変した。一言で言うと、ギスギスしているのだ。そんなことを考えている最中、夜勤明けの上官から呼び止められた。

「昨日の交換訓練生の扱いについて、話しておきたいことがある」

「その件でしたら、私もお話ししたいことがあります」

「何だね」

話の腰を折られ、ゼインは明らかに苛立っていた。しかし、タリウスの頭の中は上官への不満で一杯だった。それ故、つい冷静さに欠いた行動に出てしまった。

「先生は昨日の演習で、すべての障害を越える必要はないと仰っていましたが、苦手なことを避けてばかりでは進歩しません。何故…」

「君は何か勘違いしていないか」

ゼインの声色に、まずいと思ったがもう遅かった。

「苦手を克服させたいのなら、それとわかる指示を出せば良いだけの話だ。自分の指示出しが不十分なのを棚にあげて、私を批判するとは何事だ。だいたい前から疑問に思っていた。何故君の訓練生は、あんな丸い指示で馬鹿真面目に障害を越えて行く?私が訓練生なら、真っ先に泥に飛び込んだだろう。君の頭が固いのは知っているが、そのことが訓練生に悪影響を及ぼすのなら考えものだな」

「申し訳ございません」

「謝るくらいなら、最初から口を慎め」

「はっ!」

久々に聞いた上官の怒号にタリウスは直立不動で返事を返した。これでは訓練生時代と同じである。

「私が言いたかったのはそんなことではなくてだ。今年の予科生は随分と風呂好きなようだね」

「風呂ですか」

唐突な問いにすぐには付いていけない。しかし、これ以上上官を怒らせることだけは避けたくて、タリウスは懸命に思考を巡らせる。

「確かに昨日は泥だらけになった者も多かったので、いつもより長風呂になったかもしれません」

昨日、あの後ゼインが同じ条件で再度演習を行うことを指示し、結果として障害物を避け、泥の中を進むことを選んだ者が数多くいた。

「それにしたって、訓練がひけてから消灯時間まで、入れ替わり立ち替わり誰かしら風呂に入っているなんて異常だ」

「そうですね」

「そうですねじゃない。お陰で、北部の訓練生たちはとうとう風呂が使えず終いだ。可哀想に、明日は風呂に入れますかと、消灯点呼のときに泣きつかれた。これがどういう事かわかるか」

「まさか」

「嫌がらせと考えるのが自然だろうね。そうでないにしろ、彼らにほんの少しのやさしさか、譲合いの心があれば防げた事態だ。まったくお粗末な話だ」

「あいつら…」

今年の予科生が精神的に些か幼いところがあることはわかっていた。それに加え、昨日の演習で滅多に姿を見せない主任教官が、余所者である北部の訓練生を賞賛したことも面白くないのだろう。それにしてもやることが姑息だ。

「こんなことは言いたくはないが、今の中央の幹部には北出身の女性士官も多い。自分の後輩が風呂にも入れてもらえないなどと知ったら、どんな面倒なことになるかわかるだろう。彼女たちを特別扱いする必要はないが、最低限の配慮はしてやれ」

「はい」

「そういうわけだから、昨夜は消灯後の入浴を許可したが、今日からは君が調整するなりなんなりして時間内に終えるようにしろ」

「了解しました」

朝からこれでは、もはや溜め息しか出てこない。幼稚な予科生にも勿論腹が立ったが、北の少女たちばかり優遇しようとする上官もまたいかがなものだろうか。これでは益々両者の間の溝が深まるばかりだ。
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