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2010/4/23  22:46

【陽だまり】  100のお題

 ある日の朝、夢と現を行ったり来たりしていると、突如怪獣の子供に圧し掛かられた。

「お兄ちゃん!ねえお兄ちゃんってば」

 自分を呼ぶ幼い声に、タリウスは重い瞼を上げる。

「おはよう、お兄ちゃん」

「おはよう…。何故、俺の上にいるんだ?」

 弟は無邪気な笑みを浮かべ、毛布の上から自分に乗っかっていた。

「朝だから起こしてあげたの」

「そうか、それはどうも」

 手探りで時計を引き寄せふたをあける。見れば時計の針はいつもに比べ一時間早い時刻を指していた。

「約束、覚えているでしょう」

「約束?………ああ、今日は一日、お前と遊ぶ約束だったな」

 たまの休日である。一緒に過ごそうと前から決めていた。

「良かった!だったら早く起きて」

 目を輝かせて嬉しがる弟に、もう一時間寝かせろとはとても言えない。

 それにしても、小さな弟は何故こんなにも自分に懐くのだろう。遊ぶと言っても、何か特別なことをしてやるわけではない。弟の遊びにただひたすら付き合うだけだ。

「わかった。だが、シェール。次からはもう少し、やさしく起こしてくれ」

 弟は一瞬きょとんとした後、わかったと言って退いてくれた。

 のんびりと身仕度を済ませたが、それでも朝食にはいくらか時間があった。折角早起きをしたというのに、このまま部屋で時間をつぶすのでは勿体ない。

「散歩にでも行くか?」

 思い付いてそう提案すると、シェールはぴょんぴょん飛び跳ねた。

 シェールと手をつなぎ、ゆっくりと石畳を歩いた。いつもは足早に通り過ぎるこの道も、今日は何だか違って見える。

「そんなに急いでどこへ行こうと言うの?」

 思い返せば、それは初めてエレインが自分に向けた言葉だった。

 その当時、彼は判で押したような毎日をがむしゃらに生きていた。別段これといった目標があったわけではない。ただ立ち止まることが出来なかった。

 彼にとって、奔放な女性士官はまるで理解不能だった。その突飛な言動と、予測不能の行動は、彼を苛立たせ、ときに頭痛のタネにさえなった。しかし、どんなに彼がつれなくとも、変わらず自分に笑い掛けるその姿に、いつしか雪解けが訪れた。彼女は、まるで陽だまりのようだった。

「お兄ちゃん?」

 不思議そうに自分を見上げるのは、瞼の裏の旧友にそっくりな瞳。

「うん?」

「何を考えていたの?」

「エレインのこと」

「ママ?」

 よほど意外だったのか、単に気になるのか、はたまたその両方か。シェールは、何でどうしてと食いつく。

「昔、エレインにたまにはのんびり歩いたらと言われてね。なるほど、それも悪くないと思った」

 実際、エレインとは他愛のない話をしながらよく一緒に歩いた。大概は身のない話だったが、時には、直接的ではないにしろ、アドバイスめいたものをくれることもあった。

「お兄ちゃんはママが好き?」

「好きだよ」

 屈託のない笑顔を向けられ、自分でも驚くほどさらりと言ってのけた。弟は自分もだと言って笑う。穏やかな光の中、弟とふたり過ごすこの時間が、タリウスには何とも心地良い。

 了 
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