この数年間にジャンプ競技で驚くべきことが起こっている。以前から天才肌の少女として名を知られている高梨という女性である。
今行われているワールドカップジャンプで彼女が断トツの一位をひた走っている。しかしぼくの驚きと歓喜はそれだけのことじゃない。彼女のジャンプそのものの形態なのである。
以前からぼくの中では、いったいジャンプ競技というものは何を競う競技なのか、という疑問が渦巻いていた。それはジャンプとは本来いかに遠くへ飛ぶかというだけのものではないのかという疑問である。何で着地の姿勢でその得点が増えたり減ったりするのかがわからないのだ。いさぎよく距離を稼いだ者が勝ちと、なぜできないのだろうか。
この競技は着地の時にテレマーク姿勢という足を前後に開く姿勢で着地しなければ原点されるということが常識になっている。しかしこれはおかしい。テレマーク姿勢というのは着地時に安定を保つためにあるはずのもので、言わばそうしなければ転んでしまうからではないのだろうか。だからそのリスクを背負って両足をそろえて着地した者のほうが勇気をたたえられても良さそうなものなのだ。
と、そう思っていた。
そして高梨さんである。この少女はまだ技術の無さからなのかどうか、そのテレマーク姿勢で着地することをしない。ただやみくもに遠くまで飛ぶのである。その結果練習時に前方に転んで頭を打ち意識を失ったこともある。それはついこないだ、ワールドカップの合間のことだった。この競技はある意味で精神性のスポーツといわれるようにいったん恐怖心が芽生えてしまうと持てる力も出せないという繊細なものである。だからこの転倒は彼女のジャンプにどんな影響を残すかと心配された。
そして再開された第五戦で彼女はまたしても優勝したのだ。その距離たるや他を大きく引き離して着地の際の減点を補って余りあるほどの距離を飛ぶのである。これぞまさにジャンプの醍醐味である。たった16歳ほどの少女がその快挙をやるのだ。だがテレマーク姿勢をとらない彼女は、誰よりも遠くへ飛んでも優勝しないこともある。しかし、もったいない、というそんな思いを吹き飛ばすように彼女はそれ以上の距離を飛んで優勝するのだ。
5戦して優勝が三回、2位3位が一回と今まで表彰台を逃したことがない。なんという快挙だろうか。胸のすくような快挙である。
そして今日の一回目の試技は彼女はスタート台を二段階下げてスタートした。普通にスタートをすればいったいどれだけの距離を飛ぶかわからず、着地地点の傾斜によっては危険だからそうするのだ。先日の転倒事故も頭にあったに違いない。
しかし今回は飛べなかった。初速が足りなかったのだ。それで16位に甘んじてしまった。しかし二回目の試技で大ジャンプ披露して結果は4位だった。ぼくは表彰台を逃した失敗ジャンプという評価よりも、16位から4位までただ飛距離だけで挽回した彼女のジャンプに凄いものを見たという感激だけが残ったのである。
いったいどこまでこの人は成長するのだろう。しかし来年のオリンピックには彼女はちゃんとしたテレマーク着地を習得していることだろう。そしてその結果彼女は相変わらずの大ジャンプを見せているだろうか、それとも型にはまった有り体のジャンプ競技者になってしまっているだろうか、とそれだけが気にかかっている。
(15日の第八戦で彼女は4回目の優勝を飾った。)

3