道迷いで焦る、これが熱中症のパターンの一つ
山に入って、あれオカシイなと思ったときに取る行動の一つに、行けるところまで行ってみる、というのがある。ぼくはなぜかこの選択肢を選ぶことが多い。したがって道に迷うことも大いに多い。
低山だったがどこだったか忘れた。とにかく日差しが強くて、登山道が日向になるとちりちりと暑い夏の日だった。迷わす進んだ道が谷筋だったが、ちょっと考えてそのまま進んだ。谷筋には一応道らしきものがついているので間違えやすい。これで何回ミスコースをしたか数えきれないほどだ。
この日もそのどツボにはまったわけだが、引き返すまでもなくこの斜面を直登すれば済むことと意に介さず林の斜面にとりついた。しかしこの斜面は日向に当たっていて,さらに傾斜がきつくなっていた。木の枝を杖がわりにしてどんどん登ったのは早く日陰で休みたかったからだ。
まあ、そんな些細なことが熱中症の引き金になるわけだ。
登山道に合流してからもどう歩いて行ったか記憶になく、水場の前でごろんと横になっていた。何杯水を飲んでも渇きが止まらないのが不思議だったが、これが熱中症の症状の一つなのだ。それでまたしばらくはそこに寝ていることになったわけである。
自分とは違うが、友人が目の前でぶっ倒れてやはり1時間半ほどしてやっと起き上がったという例がある。
オフロードの草レースでのこと、ぼくたち二人はそれぞれ4周づつ走ろうと決めて前半はぼくが担当した。しかし3周目に岩場で転んで何回かバイクを引き起こす羽目になった。この日も夏の暑い日照りの中だった。
その時にヘルメットの中がやかんのように暑くなり、ぞくっと寒気がしたので、こりゃまずいと思ってヘルメットを脱いでその場に座り込んだ。かつての河川敷の時と同じだったからだ。
それから恐る恐るバイクに乗りゆっくりと走ってピットに着き、今回は3周でやめておくと事情を話してリタイアした。
そのあとに相棒のTがバイクを駆って1周2周と通り過ぎ、次の3周目を通り過ぎてから来なくなったのだ。ちょうどぼくと同じ周回で何かあったとすれば、多分あれだろうと思った。大怪我でなければいいがとも思った。
そして時間は過ぎ、大方の選手がゴールして、初めてコースの中へ入れたぼくらはコースをたどって歩いて行くと木陰にTは倒れていた。バイクは倒れ何とか木陰まで歩いてきたという風であった。
それにしても同じように熱中症にかかり、経験でそれと分かったぼくと分からないままにその先を走ってしまった彼の、ほんの些細な違いだったように思う。
まさに同じようにしてそのあと一時間半Tはその場を動けなかった。水があり風があり仲間がいても熱中症は一時間半の病なのだった。
すっかり人がいなくなったレース場で、判で押したように同じことをしでかしてしまったぼくらは、妙に嬉しかった。
その友も今はもういない。忘れがたい夏の思い出である。

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