『娘・妻・母』1960年東宝
監督 成瀬巳喜男
脚本 井手俊郎 、 松山善三
製作 藤本真澄
撮影 安本淳
坂西あき(母)三益愛子、 坂西勇一郎(長男) 森雅之、 坂西和子(妻) 高峰秀子、 坂西義郎(勇一郎の子) 松岡高史、 坂西春子(三女) 団令子、 (曽我)早苗(長女) 原節子、 谷薫(二女) 草笛光子 谷英隆(薫の夫) 小泉博 谷加代(英隆の母) 杉村春子 坂西礼二(二男) 宝田明、 坂西美枝(礼二の妻) 淡路恵子、 朝吹真(春子の恋人) 太刀川寛、黒木信吾(醸造技師) 仲代達矢、 鉄本庄介(和子の叔父) 加東大介、 戸塚菊(早苗の友人) 中北千枝子、 とよ(美枝の友人) 加代キミ子、 五条宗慶(早苗の見合の相手) 上原謙
そこそこの上流家庭が長男の借金で没落していくさまを描いている。
離婚、夫婦仲、親の世話とどうも俗っぽい話だが、当の兄弟姉妹たちは何とも世間ずれしていない人たちなのだ。いわば恵まれた家庭育ちでのほほんとしている。それがかえって救いであって、これをふつうの庶民の話としてつくったらただ悲惨ばかりが目についてしまうだろう。それが成瀬の良いところなのか限界なのかはわからない。
見終わってみればただそうそうたる俳優たちのお披露目と言うしかない。しかも少し落ち目になりかけた俳優たちのたそがれである。それがまた良いという見方もあるだろう。すでに大家となった成瀬巳喜男の映画だからこそ、そうして少し余裕を持って見ることができる。
しかしそれにしても面白い映画じゃないな。
やはり原節子の魅力がすべてだと思う。彼女は基本的には明るい女なのだ。そしてそういう女性を演じているのだ。それが家族内の不幸におちいったときにどういう女として演ずるか、それが見所なのだ。この人にただ苦労するだけの女性は似あわない。
この作品でも苦境に陥っても息の詰まるような人間ではなく、風の通りの良い女を演じている。この魅力を殺してしまっては彼女は生きてこないだろう。
ついに家を売ることになって事態は決して予断のならない方向に進むのだが、最後に老いた母親の行く末が多少の希望をもって描かれるのだ。
しかしそれも決してハッピーエンドとは言いがたいほどの、靄(もや)の中の終章なのだった。結論を描いてはいないのだ。
つまり成瀬はこれをドラマとして描きたかったのではないことがわかる。誰にも起こるような日常をあえて映画にしたところにこの人の真骨頂がある。それならば、ぼくらがそこに見るべきものはいったい何なのだろうか。

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