『鶴八鶴次郎』1937年東宝
監督: 成瀬巳喜男
製作: 森田信義
原作: 川口松太郎
脚本: 成瀬巳喜男
撮影: 伊藤武夫
編集: 岩下広一
音楽: 飯田信夫
長谷川一夫(鶴次郎 ) 山田五十鈴(鶴八) 藤原釜足(佐平) 大川平八郎(松崎) 三島雅夫(竹野)
横山運平 中村健峯 柳谷寛 山形凡平 福地悟朗 椿澄枝 清川玉枝
伊藤智子 松岡綾子 山田長正 榊田敬治 真木順 藤輪欣司 丘寵児 渥美君子
美沢由紀子 香川澄子 三條正子 三浦矢柄子 臼井サキ子 春本助次(特別出演)
文の家かしく(特別出演) 竹本小和光(特別出演) 鶴沢清三(特別出演)
溝口監督の芸道ものである。
新内の鶴次郎と三味線の鶴八のコンビは、今や人気絶頂だ。しかし二人はどうも芸の上では些細なことでいがみ合うような意地っ張りである。いつもは兄妹のように仲が良く芸の相性もいいのに、なぜそうなるかといえば、それは密かにお互いが惚れているからなのだ。自分のおもいを理解しないと感じていることがストレスになりかえって相手につらく当たるのである。
ここに鶴八に思いを寄せる若い旦那がいて、二人が恋人でないなら自分のところに来ないかと鶴八を誘う。彼女も鶴次郎に好かれないのならいっそこの旦那のところに行ってしまおうかと考えるのであった。
あるとき二人をねぎらおうとプロデューサーの竹野が二人を温泉に行かせる。ここで二人はお互いに好きあっていることを初めて知り、それなら一緒になって新しい座を開こうと夢は広がるばかりだ。
しかしそのためにはお金がいる。足りない分を鶴八のお師匠さんが出してくれるということになっていよいよお披露目の段階に入った。
鶴次郎がその内訳の書類に目を通していると、その資金が実は鶴八に惚れている旦那松崎からのものと知って、彼は嫉妬に逆上しついに二人は別れることになってしまった。
釣次郎は旅の芸人になり、鶴八はダンナの奥さんになったのだ。
そして二年がたち鶴次郎は旅に疲れ酒におぼれて生活は荒んでくる。これを見るに見かねて元のマネージャーがもう一度大きな舞台を踏ませたいと鶴八に持ちかけると、彼女もやりたいというのだ。そこでこの話を持って鶴次郎に当たると、彼も芸の道で再び彼女と合わせられることを喜んだ。そしてその舞台は大成功に終わり、二人は楽屋でほっと一息入れたのである。
ところがここで鶴次郎がやにわに、彼女に向かって芸が拙いと言いがかりをつけ大喧嘩になってしまったのだ。そしてまた二人は別れることになった。
しかしこれには訳があったのだ。鶴次郎は芸の道はいつか衰えるし、その時に鶴八が不幸になることが、長い旅芸人の経験で分かっていた。それよりもいっそこのまま金持ちの奥さんでいた方が鶴八のためと考えての芝居だったのである。
何とも切ない結末だが、恋の行き違いというものが永遠にドラマのテーマであるとつくづく感じたものだ。
この映画が見ごたえのあるものになっているのは二人とも芸が達者であるということに尽きる。それは芝居という芸だけでなく謡と三味線という芸に通じているということだ。それが、ドラマを重厚なものにしているのである。
とにかく二人の三味線と謡いが素晴らしい。

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