『路上の霊魂』 1921年 松竹キネマ研究所(サイレント)
• 総指揮:小山内薫
• 監督:村田実
• 脚本:牛原虚彦
• 撮影:水谷文次郎
• 光線:島津保次郎
キャスト
• 杉野泰:小山内薫
• 息子・浩一郎:東郷是也(鈴木伝明)
• 妻・耀子:澤村春子
• 浩一郎の許婚・光子:伊達竜子
• 伐材所の少年・太郎:村田実
• 出獄者・鶴吉:南光明
• 出獄者・亀三:蔦村繁
• 別荘の令嬢:英百合子
• 別荘の執事:茂原熊彦(茂原虚彦)
• 別荘番:岡田宗太郎
• 八木節の姉:東栄子
日本映画の黎明期の威容である。落としどころのはっきりとした演劇と違った、映画ならではの芸術性を追求したもので、画期的な作品である。
和洋折衷的なストーリーである。貴族の息子(鈴木伝明)が、バイオリンにかけて家出をするが夢かなわぬうちに放浪の身となる。ボロボロになり妻子を抱えて故郷の父の別荘に戻ろうとしている。
同じ道に出会った放浪者は出獄したばかりの男二人、ボロをまとってこちらも放浪の身である。しかし親子三人の様を見てなけなしのパンをあげてしまう。この二人も衰弱と病気でやっと歩くような状態である。
父の別荘にたどり着いた息子だが、父は以前の放蕩息子を許せない。食べ物も与えずに追い出そうとする。一方、出獄二人組は苦しまぎれに押し入った家が実は同じこの館であった。
彼らはすぐに見つかって別荘番に鉄砲で脅される。息も絶え絶えになって倒れた彼らを見て別荘番は仏心で彼らを家にいれることになる。
おりしも別荘ではクリスマスの祝い事をすることになっていた。御嬢さんはあっけらかんとした娘で、周りの事情も知らずにはしゃぎまわっている。(このいい年をした女はまるで馬鹿みたいにはしゃいでるがこれはミスである。)
出獄の若者を含めて皆がクリスマスの宴で贅沢をしている一方で、息子家族三人は吹雪の夜の森に追い出されてしまった。
さすがに心配になった父と雇人の少年が行ってみると近くの納屋で三人はぐったりとしている。妻と娘は家においてやろうと思うが、すでに娘は冷たくなっている。そして外に出て行った息子も翌日に雪の中で死んで発見されるのだった。
泥棒に入った二人が助かり、自分のうちに戻ろうとした息子が死んでしまう。この伏線はなけなしのパンを恵んだ泥棒が救われるという皮肉にある。天国の門は持たざる者の慈悲芯にこそ開かれる、というキリスト教のにおいがする。
この映画は演者の心の逡巡を霊魂のなせる幻覚として表し、時おり過去の情景が眼前にふっと浮かぶ画面で表現している。回想シーンを目の前の幻影として写しだしているのだ。これも映画ならではの新しい表現だったのだろう。当時のはつらつとした映画人の野心を感じる。

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