『ガタカ』 1997年アメリカ
アンドリュー・ニコル脚本、監督
イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウ
当時近未来映画とうたって作られた作品である。20年ほどが経って今、これほどの露骨な管理体制ではないがもっとソフトで同じような事態がまさに到来していることも確かである。
人を遺伝子によってふるいにかける時代の物語である。
宇宙飛行士を夢見る彼・ヴィンセントはしかし、生まれてすぐ遺伝子検査で「不適合者」という烙印を押されて掃除人として宇宙施設「ガタカ」で働いている。いつか「適合者」だけが入れるそのガラスの中に入りたいと夢見る。
ひょんなことで「適合者」の一人ジェロームが事故で車いす生活になったことで、彼の影としてその中に潜入するのだ。絶えずDNAを調べられる管内でジェロームとヴィンセントが画策したのは、体細胞や血液を貸して実際に動くのは影のヴィンセントであるという契約であった。彼は努力の末にそこでみごとな成績を残していく。
ところが宇宙へ行ける間近になって殺人事件が発生してしまう。殺されたのは彼を疑る人間だったので運がいいともいえるが、かえって疑われることも事実で、捜査の手が伸びると彼の素性がばれる危険もある。さあ、どうなるか。
捜査に当たる男が手ごわいやつで犯人探しが行き詰っても諦めない。そしてついに影となっているヴィンセントと実際のジェロームが別人だということをつきとめる。しかもその男は不適格者であるということも。
ところがその直後に真犯人が逮捕されてしまう。犯人はヴィンセントではなかったのだ。しかし名前を偽って潜入した事実は彼に暗い影を落とす。捜査員は自分に必ず接触してくると彼は確信する。問題は宇宙船に乗る前にこの事実がばれてしまうとその夢が消えてしまうということだ。なにしろヴィンセントは「不適合者」なのだ。
そしてついに捜査員が彼のオフィスに現れる。捜査員を見たヴィンセントは愕然とする。その男はなんと長く別れていた弟だったのである。実はこの弟は子供の時から兄よりも体力も頭脳も遺伝子上の優位を宣言されていたのだ。ことあるごとに彼らは競い合い、いがみ合ってきたのだ。
確執の兄弟がここで対決するのだが、弟は実の兄を告発することはできない。それよりも幼いころからの死を賭けた海の遠泳で決着を図ろうとするのだ。しかしもはや弟は兄の敵ではなかった。「不適合者」ヴィンセントは「適合者」弟アントンに勝ったのだ。
あとは宇宙船に乗り込むまで、ということになり最後の検査を受けようとすると、今までの検査方法が変更されていた。それは今までの指紋検査ではなく、尿検査であった。彼はもう検査用のジェロームの尿をもってはいない、絶体絶命である。
しかし彼を見続けていた検査員はここで組織の規範を裏切るのだ。彼はニヤリとして彼のデータを改ざんするのだった。
「不適合者」のヴィンセントはついに宇宙へと旅立ったのだ。
そして彼を自分の体液で宇宙へと誘ったジェロームはヴィンセントに一生分の体液を残して自室で自殺した。
これは兄弟の確執の物語である。西洋で幾度となく繰り返される兄と弟の確執の話である。一方では事故でその資格を失った車椅子の「適合者」がその意志を「不適合者」に託すというところで、はじめ敵視していた「相棒」がだんだんと自分の分身となっていき、知らぬ間に彼は「影」に限りなく近づいていくのだ。
そして最後はまったく自分が消失し「影」に生き抜いてほしいと念ずるまでに変化する心情が痛ましい。
ドタバタした映像がないサスペンスとして良作である。
ちなみにガタカ(GATTACA)という施設名の由来は、DNAの塩基グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)を使って作った名前だ。

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