ぼくたちはまったくイスラムのことを知らない。まるで知らないこと、がちっともおかしくない世界に住んでいる。かのようだ。
本当だろうか。とふと思った。
今北アフリカと中東で政変が起こっている。これは史上まれに見るほどの「民衆の蜂起」が引き起こした政変である。そしてそこがみなイスラム国家といわれるところである。いったい何が起こったんだろうか。
と、そう思ってイスラムを知りたいと考えた。そしてとにかく手始めにと手に取ったのがこの本だ。
ざっと読んでもイスラム教というものがキリスト教とまったく違うことがわかる。同じ系譜に連なる宗教だというのに。
イエスは神様の子として生まれたという。そして神を後援者としてたびたび奇蹟を行い弟子を募っていく。まるでおとぎ話だが生粋の宗教者である。サラブレッドなのだ。
しかし、ムハマンド(モハメット)はただの中年の妻子もちのフツーの人だ。
その彼が宗教に目覚めるというわけでもなく山中にいると突然天使ガブリエルが降りてきて「お前を指名する」ってなわけで預言者(神の言葉を託される人)にされちまうんですね。シチュエイションとしてはモーゼが山中で突然に指名されたのと同じ。まるでユダヤ教じゃないか。
しかしおかしいことに出てきたのが天使ガブリエルである。この天使はマリアの前に現れて「今神さまがあんたに身ごもらせましたよ」なんて言ったりしたのあの天使だった。ではこの天使はいったいひとつの神に仕えていたのか二つの神に二股かけていたのかどっちなんだろうか。
どのみち結果としてイスラムとキリストを未来永劫にわたって闘わせた元凶である。困った天使だ。
どうもぼくらには理解しがたいが、このイスラムの預言者というのは初代がかのノアであり、次いでアブラハム、モーゼ、キリストときて五代目の預言者としてこのムハマンドが指名されている。というわけらしい。
じゃ、イスラムはユダヤ教もキリスト教もアリなの?まったくわからん。
こうなると興味は俄然わいてくるではないか。この矛盾はどうなのよ、と。
イスラム教というのは教会もなければ戒律らしき戒律もない。宗教におけるお偉いさんもいないし、ただ神様の預言を詳しく伝えたり覚えたりしている人が導師になるらしい。
イスラムとしての行いは日に5回のメッカに向かっての礼拝をはじめ、信仰告白、喜捨(金)の義務、ラマダンの断食、メッカへの巡礼、とけっこう厳しい。
キリスト教のように地獄に落ちるか天国へ行くかとかいうものとは質が違うのだ。日常性を重視するわけだ。
ちなみにメッカに在るのはただ石で作った大きな箱だけなのだそうだ。そこになんらの装飾もない。いってみればあの、『2001年宇宙の旅』におけるモノリスである。そういえばあの立方体もなぜか「神」を象徴的にあらわしていたではないか。

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