気晴らしにでもと『津山三十人殺し』という異様な本を読んだ。気晴らしにこんなドキュメント本を読むのもどうかと思うが、気晴らしどころかかえって気が引き締まったな。
なんでかというと、たった一人で二時間余りのあいだに30人余の人間を殺してしまうなんて本来考えられないことなのに、それが実際あったということだ。たった二時間で!
時は昭和13年、それほど大昔ではない。
岡山県のある村で決して「異常者」というほどではない頭脳明晰な男(22歳)が起こした事件。一軒一軒を当たり一晩で32人を殺したという。
それも用意周到、残酷無比、迅速確実にやった。
あの『八つ墓村』はこの事件を基にして横溝正史が書いたという。つまりはあの芝居がかった殺人鬼の有様が実際の姿だったということを知って驚いた。
いったいどうして彼が殺人鬼になったのか。簡単に言えば被害妄想と逆恨み。
どうやって成し遂げたか。暗闇の中、懐中電灯を三つくくりつけ、斧と日本刀と猟銃で。
いや、世界史上まれな短時間大量殺人。
この本は丁寧な記述で、著者の感情をことさら現わさずに書かれていてかえって凄みがある。当時の農村の生活や食事のありさま、同時期にあった阿部定事件や、2,26事件もはさみこんでなかなか読みごたえあり。
(犯人が猟銃を今田勇一という人間から手に入れたという記述を読んで、あれ?これは「宮崎勤事件」での偽名「今田勇子」に似てるなぁ、この本読んだのかもなんて勘ぐったりしたものだ。)
しかしなぜかこの事件、余り知られていないようだ。

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