この物語は面白かった。うすい文庫4冊分だけど一気に読んでしまった感じだった。現代の小説を読んでいる感覚だった。どういうことかというとストーリー性が強くて次はどうなるんだろうという興味が読書欲をそそるという構造なのだった。
こういうものが平安後期に書かれたということは驚くべきことかもしれない。もちろん源氏物語を別にして。
作者は不明、男か女かもわかっていないらしい。
ある左大臣家に生まれた兄妹だが、兄は女児あそびばかりして家にこもっているし妹は外で飛び跳ねて遊んでいる。どうも男女が逆になったかのような有様で、まあ子供のうちだからと鷹揚に構えている。しかし元服の時になっても(12〜3歳)相変わらずで、両親はままよとばかりにそのまま男は女、女は男として元服の儀を済ませてしまった。
さあ、瓜二つの美形男女である、周りの殿上人は黙ってない。次々に異性からの申し出が相次ぐが本人は悩むばかり、自分がなぜ「まともな身体」でないのかとゆくゆくは出家と死を思うばかり。このあたりは女装の兄と男装の妹の秘密を隠しながらの苦しい生活が続くのだ。
場面の展開は速い。そのうちに位の高い好色な中将が「女」(実は兄)に目をつけて、兄として宮中に仕える「男」(実は妹)の元にしつこく紹介を頼み込むわけだ。しかし相談を持ちかけられた「男」は実は妹なのだから困った。何だかんだと言い逃れているうちに「男同士」の友情が成立し、ともに夜っぴいて話し込んだりする。
ところがある暑い夜「男」が衣をはだけて涼んでいると中将がやって来た。すっかり馴れ合っている2人はそれを隠すでもなく話し合ううちにいつしか抱き合うことになる。この時代の宮中では男は女っぽいことが美しい男の条件であったせいもあり、性差よりも美醜の差の方が異様だったらしいのだ。
そんなことで夜を重ねていくうちに「男」は妊娠してしまう。
ま、事はこんな単純ではなくこの中将には他に愛する女がいたし「男」は右大臣に見込まれてその姫君と何と結婚にまで至ってしまうのではある。
さあ、この複雑極まりないごちゃっとした男女関係がいったいどうなるんだろう。てなことでこれにからんで幾人もの男女が、男装の妹と女装の兄にかかわって物語は続いていくのだ。
そして最後にはこの兄妹は本来の(肉体の)性に戻っていくのだが、これもそうすんなりとはゆくはずもなく紆余曲折の連続なのだ。
それでも不思議と、強引なつじつま合わせという感じがしないのは、平安の宮中という特殊な世界を知るうちに、そんなこともあろうかいと思わせてしまうところがあるのではある。
その特殊な(今のわれわれにとってだが)世界を知るためにはやはり、『源氏物語』を読むにしくはないと思うのだ。

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