今日は勇んでいた。仕事が終わったら、千鳥町の件の古本屋に行き買いそびれたルーベンスを500円で買いその足でY’sガレージ(という自転車店)まで走り、先日買ったMTBを見にゆこうと。
そしたら雨だ。
しかしこの雨もそのうち上がるだろうとタカをくくってとりあえず近くの図書館で『ホルバインの生涯』を借り、さて小降りになったかなと外に出るとなんだか前より強い雨足になっていた。
図書館前で一服しながら少し待ったがどうもやみそうにないので計画を変更することにした。
今日は久が原の喫茶店でこの本を読むことにしよう。
で、雨を突いて久が原駅前まで自転車を走らせた。
ザックカバーをつけ、下は雨用のズボンだが上着は冬用のジャケットで、何が心配かってザックの中の図書館で借りた本が濡れないかとそれだけが気にかかっていた。強い雨だと雨用のザックカバーをつけていてもじわじわと水がザックの中に入ってくるからだ。こんな時にかぎって余計なビニール袋のひとつもザックの中に入っていないのだった。
久が原駅に着いてみると運の悪いことにいつもの喫茶店がお休みだった。この界隈にはまだ2軒の喫茶店があるから、と思って、ひとまず雨宿りに入ったスーパーで醤油などの重い買い物をして駅の向こうの喫茶店に足を運んだ。
ところがである。その喫茶店も休みだったのである。なんだよ、と思ったがこんなこともあるさと最後の一軒の前に来て立ちすくんでしまった。
ここも閉まっているではないか!
冗談かよ。3軒とも閉まってるとは。それとも金曜日はこの商店街は休みなのか。俺は雨のなかで立ち尽くしてしまったな。
スーパーの自転車置き場で考えた。帰るべきか。
うちに帰るのは簡単だ。そして重たい荷物を置き合羽に着替えて出ればいい。しかし、そうはしたくはなかった。いちど帰って、たかが本を読むだけのためにまた出かけるなんてことを、その時はしたくなかったのだ。
それでもう雨で十分重くなったザックと上着をつけて決断した。隣の駅まで走ろう。
となりの御嶽山駅は近い、そしてイタリアントマトというチェーン店のカフェがある。ドトールもある。こういうカフェは休みがない。便利といえば便利。明るいし。
で、さすがに雨用とはいってもそろそろ尻のあたりに水が染みとおってきた頃に、やっとぼくは落ち着ける所に入って一息ついたのである。
さっそく濡れた上着を脱いで図書館で借りた本を出すと、ザックの紙の間に無事に見つかった。これで一安心。やれやれ。
本を開いて画家ホルバインとエラスムス(『痴愚神礼讃』の)の関係なんぞをフムフムなどと読んでいると、なんだか周りが騒がしくなった。ひでーよなんて言いながら水をたらした若いのが入ってきた。何か外はざんざん降りになってきたらしいのである。おお、確かに雨音が大きくなってきたようだ。
もちっと読んでるかなんて思う頃に、すごい雷が響いてきた。雨もさらに轟々と落ちてきた。
もう完全に足どめ状態だ。急に空気が寒くなってきて濡れた上着を着たがもう本に集中できずウトウトと居眠りをしてしまった。なんだか風邪を引いてしまいそうだ。
夢から正気に戻ってみると一時の嵐はやんだが雨はまだ降り続けている。仕方なく帰ることにした。スーパーでの買い物をザックの中ににぶちまけて、そのビニール袋で『ホルバインの生涯』をうやうやしく包んで帰った。
いやに疲れた夜だった。

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