近くに古い小学校を利用した、大きなスーパーマーケットがあった。
中はまるで迷路のようになっていてとても楽しかった。ぼくはこういう雑然としたスーパーが好きだったが、そのうち改造してしまいどうってことのないきれいな唯のスーパーになってしまった。客のためというよりは経営者の管理がしやすいようになるのは、もう時間の問題だったわけだが。
そのスーパーがあえなく閉鎖された。何のことはない新しくしたばかりだというのにもう終わりかよ。そしてあっというまにその建物は取り壊された。
そんなことはいい。ウチにちょいとした問題が起こったのはそれからだった。
その問題とは、このスーパーを住処にしていたネズミが方々に散って行ったからだ。
こんな密閉度の高い集合住宅なのに、ある日ネズミの形跡が見つかった。引き出しの中の乾麺の袋がかじられていた。それで粘着性の板を置いておいたら忘れた頃に掛かっていた。小さいやつですっかり張り付いて死んでいた。
それで安心していたらまた昨今出没するようになった。食い物は全て缶かビンに入れ、あとは密閉式のケースに収めているのに、何をしに来るんだろう。
もう諦めたかとパンの袋を流し台に置きっぱなしにすると、やっぱり穴が開いている。毎日のように偵察に来ているんだった。食うためとはいえ毎日出勤してくるとは勤勉なやつだ。
夏は暑いから開けっ放しにしていたが秋になって網戸を閉めるようになった。
しかし夜になるとどこかでガサゴソと音がする。よく見ると網戸の端を食い破られているのだった。となるとやつらは食うためだけではなく、道をつけるために目的的な行動をとるということだ。頭のいい奴だ。
気配を察した時にはどたばと追いかけても姿を見せずにどこかへ行ってしまうので、今回は息を殺してじっと見ていた。そしたら戸棚の下になにか紐のようなものが動いている。
あらら、いやがる。まったく気味の悪いやつだ。
ゆっくりと退路を断って追い詰めたらこちらに逃げ出してきた。やつも慌てているらしく部屋のど真ん中を通って開いているドアから外に出て行ってしまった。こちらは引き出しをはずして見通しをつけたぶん、かえって自分の足元を煩雑にしてしまったのが敗因だった。
それにしても逃げるネズミの小さくて可愛いこと。
何でこんなに嫌われるのだろうか。なんてね。
当然だ。食い物を荒らす上に、どこか汚い印象がある。じっさい糞を撒き散らして汚いことこの上ない。それとあの、長いしっぽだね、いやなのは。あれにふさふさと毛が生えていればリスと同じ格好なんだがね。毛無しのむき出しのしっぽというのは、まあ気味のいいもんじゃない。あれが動くとぞっとするねまったく。ちょっとした違いなんだがなぁ。
そういえばリスってのは家の中に入ってこないのかね。木の実いっぽんやりか?人に関わらないから好かれるんだろうな、やっぱ。分を知っているというか孤高というか、そんな残飯なんか漁りませんってとこがいいやな。
やはりネズ公は、しっぽの形状ばかりが嫌われる原因ではないってことだな。
と取りとめも無くなってきたからやめよう。こんな話。
どちらにせよどこかに彼らの棲家が、外のどっかにあるんだろうな。

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