久しぶりに夢中になって「マンガ」を読んだ。
吾妻ひでおの『失踪日記』。
売れているということは書店のランキングで知っていたが、読んで(見て)見るとその内容の凄さに引き込まれた。そしてマンガとしての面白さにも。
というよりもあの、人気漫画家の(といってもマニア向けか?)吾妻ひでおが仕事を途中で投げ出してこんな事をしていたのかという驚きが強い。
たぶん、やさしくて弱い性格が過酷な売れっ子漫画家になるのを拒否したのだろう。突然ドロップアウトして郊外の林の中のホームレスとして生活してしまうのだ。
あの柔らかい線で描かれた美少女の作者と、ゴミ袋から食べ物をあさる彼のとんでもない所業とのそのギャップが、彼を『チョッキン』や『ふたりと5人』時代から知るぼくら世代には興味深いのだ。
そして、一体なぜという思いが読み進むにつれてほぐれていくのも、ひとつの作品として読み応えのあるものになっている。とにかく面白い。
それにもまして彼の行状がそれこそ他人事ではない何かを含んでいてどこかで共感するのである。
このマンガは吾妻ひでおが失踪してホームレス生活をした顛末記だ。
タバコを買いに行くといってそのまま失踪してしまう鬱でアル中の彼。自分のペースでないと仕事が異常に苦痛に感じてしまう脆弱さ。どれもが、誰も持っているはずの弱さだ。
ここから逃げたい。そしてそれをやってしまうのがこれまたすごいエネルギーであって、社会的には負のエネルギーであるはずのものが転じてすごいパワーになるというところがこの本の見どころだ。
雨でも雪でも雑木林の中で拾った布団にくるまって寝てしまうってのがすごい。都会の真ん中で人に見守られているホームレス達がひ弱に見えるほどだ。いや、彼らは本当に弱いから都会で暮らしているのかもしれない。吾妻はなぜか人との接触を嫌ってひとり林の中に入り込んでしまう。
そして夜になると街に出て食べ物を拾って生活するのだが、意地もプライドもある彼にそれができるという事に驚く。
病気ってのはすごいエネルギーの源泉だなと改めて思う。
この「ホームレス生活の記録」ってのが文字ではなくマンガにするからこそこんなに面白いのだろうな。もちろん彼のマンガ(そして絵)の才だからだと思うが。
この本、実は古い友人の息子が貸してくれたものだ。「これ、よかったら読みますか?」
とにかく一見の価値のある一冊である。

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