オルタナティヴロックバンドVery Apeのシンガー
「Ape」のブログでございます。
基本的には過去のことについて語ります。
2007/2/13
僕にとって、中学三年生の時、すなわち14,5歳の頃というのは、人生で三本の指に入るくらい楽しい一年間であった。
それはもう最高の仲間達と出会えて、笑いあり、涙あり、悪さあり、色恋沙汰ありの、とてつもなく濃い一年間で、その事について全く関係ない人に一週間ぐらい語れる程ネタは豊富である。
だがしかし、今回書くのはその楽しい仲間達との思い出ではなく、二年生のときに計画した「文化祭にバンドで出演して女の子にキャーキャー言われまSHOW!」というプロジェクトが、その後一体どのようにして行われていったのかについてである。
前回更新した時にも書いたように、僕等は一緒に文化祭に出演するバンドメンバーを探している最中に三年生に進級してしまい、僕ともう一人の首謀者である「Aナガ」という人物が別々のクラスになってしまったこと、それと冒頭で書いたように僕の中学三年生時代が楽しすぎたこと、それからメンバー探しが難航していたこともあり、プロジェクトは若干僕等の中でどうでもよくなりつつあったりなんかしたりした。
そんな状態で何もせず一ヶ月以上経過したある日の休み時間、ヴォーカルとしてメンバーになった、ちょい悪で短ランとか着ちゃってるような「ゆうちゃん」という人物が僕を訪ねて教室へやってきた。
「おい、あの文化祭の話どうなってんの?曲とかなにやるんだよ。」
と、なんだか知らないが、首謀者の僕等よりもやる気満々な感じで僕に問いかけてきたのである。
「あ、あれねぇ…。今いろいろ考えてる最中だから、もうちょっと待ってね。」
「じゃあ決まったらすぐ教えろよ。練習するんだから。」
と言い捨てて「ゆうちゃんは」くるりと身を反転させ得意の歌を「ボエ〜」とか歌いながら教室から出て行ったのだが、僕は正直その時
「面倒くせぇなぁ。なんでアイツあんな張り切ってるんだよ。高校行ったらアメフト部入るくせによぉ。」
と、その当時では知る由もない、しかも全く関係ない部分を取り合えず突っ込んでみた。
というか、僕は今休み時間で、友達と「バトル鬼ごっこ」という鬼に捕まるとぶん殴られるという非常に楽しい遊びを開発、及び実行している最中なのに「ボエ〜」じゃねえよって感じなのだ。
畜生、なに短ラン着てるんだよ。ちょい悪ってなんだよ。と一人でブツブツ考え込んでいるといきなり僕は友達にぶん殴られた。
しまった。鬼に捕まったのである。
取り合えず僕は殴られた弾みで床に倒れてしまったので、そのまま床にひっくり返った状態で冷静に文化祭までの日数をざっくり考えてみたのだが、うん、今が五月だから、あと半年切ってるよね。
と、いうことで、その日の放課後「Aナガ」を捕まえて、何気にもう日数的にヤバイということを含め色々話をした。
話した結果、取り合えず僕等は何気にメンバーの実力すら知らないことに気づいた。
と言っても、「Aナガ」と僕は互いの家に楽器を持ち寄ってよく遊んだりしているし、僕が手取り足取り指導したので「Aナガ」の実力はもう十分過ぎるほどよく知っている。
そして、先ほどのちょい悪「ゆうちゃん」もよく廊下で「ボエ〜」って一人で歌っているのでまぁ大体察しは付くし、ヤリマンとかその類の馬鹿そうな女が「ゆうちゃんは歌が上手い」とか呪文のようにしきりに言っているので、まぁ問題は無いだろうという感じ。
問題は、ギターが上手いで評判のもう一人のメンバー、同級生の中山の弟、イケメンの「ゴンの弟」である。
そもそもエレキギターを弾ける人物がほとんどいない学校でのギターが上手いという評判程当てにならないものは無い。
どうして僕はそこに気づかなかったのか…。
取り合えず僕等はその日にそのまま「ゴンの弟」の家にお手並み拝見をしに行くことにした。
「ゴンの弟」の家に着くと、まぁ、立派なレスポールですこと!という感じで使ってるギターは取り合えず並みの中学生ではない。
通信教育でギターを習ってると言うだけあって、教材なんかも部屋にたくさん置いてある。
おおぅ、これは期待できそうですね。
と、ふと見ると机の上に楽譜が広げてある。
「今なんの曲練習してるの?」
と僕が聞くと。
「通信の課題曲でラルクのLies and Truthをやってます。」
と、イケメンヴォイスで答える。
「へぇ〜。ちょっと弾いてみてよ。」
で、「ゴンの弟」、こなれた様子でギターをアンプに繋いで弾き始める。
おおぅ、これは期待できそうですね。
で、弾き始めたはいいんだけど、なんかすぐに首をかしげて弾くのを止めてしまい、また弾き始めたかと思うと首をかしげて止めて、途中からやり直したり、また首傾げたり…
あの〜……で、今どこ弾いてんの?って感じでありんす。
つーかこれ上手いの?あ、ほら、また首かしげた。なんなの?これ。誰が最初に上手いって言ったの?あ、ほら、また首かしげた。あ、ほら。まただよ。なに彼?ビートたけし?
まぁ、しかし、こういう微妙な空気になってしまった場合、相手がイケメンかキモメンかで大分こっちの気持ち、行動も変わってくるってもんです。
この状況で相手がキモメンだったら迷わず今すぐ鉄拳制裁なのだが、相手がイケメンだと
「あれ〜…なんか今日は調子悪いのかな…?」
っていう気に本当になってくるからこれ不思議。
取り合えず僕はこの気まずい空気を変える&彼のフォローのために一つ質問を投げかけた。
「ちなみに今って何曲ぐらい弾ける曲あるの?」
「あ、今は……っていうか…これが初めてやる曲です。」
チーン
つづく

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2007/1/25
お久しぶりです。2007年になってから一回目の更新です。
スタート遅すぎでしょ。自分でもびっくりな遅さ。
でも、遅いぐらいが丁度いいんです。
ウサギとカメの話では最後に歩みの遅いカメの方が勝つのです。
だから僕はカメに習って、ゆっくりと一歩一歩確実に更新していくのです。
さて、苦しい言い訳も済んだところで、久しぶりにいきますか、わたバン(私のバンド遍歴)。
2回前のわたバンでは僕が中学校の文化祭でライヴをした時のことを書いている途中でしたので、その続きを書きたいと思います。
前回(わたバン7)から少し話は前後しますが、僕等がまだ中学二年生だった三月のこと。
三年生を送る会という学校行事で卒業間近の先輩が、学校の体育館でライヴをやっていたことがあった。
演奏自体は2曲程度で、やっていた曲も当時流行っていた歌謡曲かなんかだったのだが、それを観て当時同じクラスで小学校の頃から幼馴染の「Aナガ」という奴と僕は偉く感激したのだ。
埼玉県の中学校では楽器をやっている人間も少なかったし、学校でちょっとライヴをやるだけでかなりヒーロー的な扱いをされたので、なんと言ってもそれが羨ましかった。
「なんだよ!楽器なら俺等も弾けるよなぁ!つーか学校でライヴとかやってよかったんだ。絶対来年の文化祭で俺等もやろうよ!」
という感じで、二人の頭の中には自分達に向かってキャーキャー言っている女の子の顔しか浮かんでいなかったが、これをきっかけに、次の年の文化祭へ出演することを決めたのである。
そもそも、この「Aナガ」もこの三年生を送る会の何ヶ月か前にたまたまギターを手にしていたのだが、それもこのパイオニア的存在であった僕の影響だった。
彼もまた大のB'zファンで、中学一年生の時には僕と「Aナガ」とテリーさんとテリーさんの友達と4人でB'zのLIVE GYMへと足を運び、共にB'zのロゴの入ったうちわを持って振り付けなども完璧にこなし観戦したという過去もあった。
なので、文化祭に出演するとしたらB'zの曲をやるというイメージが二人の中では勝手に生まれていた。
さて、文化祭に出演するならメンツはどうしよう、ということをまず二人で話し合ったのだが、なんといっても僕等のいた学校には本当に楽器を演奏できる人間が少なかった。
思いつく限りでは同級生の中山という奴の弟で、割とイケメンでギターを通信講座で習っているという1こ下の「ゴンの弟」と、吹奏楽部の人達ぐらいのものであった。
ということで、僕等は早速「ゴンの弟」に接触した。
「ゴンの弟」は二つ返事でOKをしてくれ、とりあえずこれでベース(僕)と、ギター×2は揃った。
後はドラムとヴォーカルとキーボード(相変わらず、当時はこれが絶対に必要だと信じていた)だということで、まずは僕等は楽器を弾けなくてもよい、言ってしまえば誰でもできるヴォーカルを誰にするか考えた。
しかし、誰にでもできるとは言っても、ヴォーカルはバンドの華。
ここの人選をミスってしまったら最後。女の子にキャーキャー言ってもらえないのである。
僕等は悩んだ。
B'zばりのハイトーンで、歌が上手く、できればイケメンで、それでいてマイナー系のキャラじゃない人物。
色々考えたのち、ちょい悪で、人気者で、歌が上手いと評判の「ゆうちゃん」が候補にあがった。
彼はあまりハイトーンではなかったというのが難点だが、まぁ、そこはなんとか選曲でカヴァーしようじゃないかということで、これまた早速「ゆうちゃん」に交渉をし、彼もまた二つ返事でOKをした。
ようし、後はドラムとキーボードか。しかしここが問題だ…。
それらを演奏できる人物はどう考えても吹奏楽部にしかいない。
僕と「Aナガ」は取り合えず吹奏楽部が練習をしている音楽室をちらちら覗きに行った。
相変わらず女の子ばかりだ。男は唯一「長嶋くん」という1こ下のいじめられっこで生徒会のキモメンしかいない。
う〜ん、どうしよう…。僕と「Aナガは」困り果てた。
というのも吹奏楽部にいる女の子は皆マイナー系の、クラスのすみっこで集まってトランプのスピードをやっている(しかもやたら速い)ような子しかいないのである。
そういった子が、僕等と一緒にバンドをやるなんてとてもじゃないが思えなかったし、僕等自身もそういった子と上手くやっていける自身は無かった…。
「かと言って長嶋くんもないよなぁ…。」
「彼、廊下すれ違うとき一人事ぶつぶつ言ってるしねぇ。」
「あれは危ないよ。」
「タカとユージとどっちが危ないかなぁ?」
「長嶋くんだろう。」
「あぁ…どうしよう…。あとはドラムとキーボードかぁ…。」
というようなやり取りをしながら僕等はそのまま音楽室を離れた。
そして、そうやってウダウダしているうちにすぐに春休みに突入してしまい、僕等は中学三年生になった。
中学三年になると、僕と「Aナガ」は別々のクラスになってしまった。
それにより以前のように毎日休み時間ごとに話したり、一緒に帰ることもなくなっていき、この文化祭の話もしばらくストップしてしまったのである。
つづく

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2006/11/30
僕はY氏とは人生で二度しか会ったことがない。
一度目は以前お話した、喫茶店で悪夢のような体験をした、僕がまだ中学二年生だった頃の忌々しいあの日のこと。
そして、二度目はこれからお話しするのだが、これまた悪夢のような、前回会ったときからまだほんの一・二週間しか経過していない、とある日のことである…。
〜〜〜今までこのブログを読んでいなかった人のために軽くY氏のことを説明すると、
彼は僕とテリーさんと一緒にバンドをやりたいと申し出てきた、大リーグの帽子を被った変質者で、
当時30歳ぐらい(現在40歳ぐらい)の色々な伝説を持つ男である
(詳しく説明するのが面倒くさいので、もっとちゃんと知りたければ以前の記事を読んでね)〜〜〜
一度目にY氏と会った、あの最悪の日から何日か経ったある日、またメン募の紙を見たという人物から我が家に電話が入った。
その瞬間、僕とテリーさんはゾッとした。
もうY氏のお陰で人と会うことにかなりビビッていたのだ。
「嗚呼…また喫茶店で歌いだしたらどうしよう…」
「嗚呼…また“まことちゃん”みたいな奴だったらどうしよう…」
と、受話器を持つ手も震えっ放し…。
しかし、話してみると今回はY氏とは大分違う、随分まともな人のようだぞ!
歳もテリーさんと同い年で、なんだかいい感じやん!
ということで、早速会ってみることにした。
電話をしてきた彼はK君といい、キーボードを希望しているのだ。
よっしゃ〜!尚更都合いいぞ。ハハハ。
ということで、また例の楽器屋のメン募コーナーの前でK君と待ち合わせをしたのである。
だがしかし、もちろんY氏も一緒だ……。
待ち合わせ当日、僕とテリーさんが待ち合わせ場所に着くと、もうすでにK君は到着していた。
見るからにズボラなY氏はもちろんまだ来ていない…。
見るとK君、非常に可愛らしい顔立ちで、服装も小奇麗。
少し話しかけると、恥かしがり屋なのだろう、顔を真っ赤にして照れているじゃあありませんか。
何!?K君超可愛いしメチャクチャ好感持てるんですけど!!
なにこのY氏との違い!!と、僕が一人で思っていると、来ましたよ大将が…。
「ハハハ。どうも。Yです。」
「てめぇ、まずは遅刻してきたことを謝れ!(私の心の声)」
まぁ、取り合えずコレでみんな揃ったぞ、ということで、恥かしがり屋のK君を筆頭に、
人見知りな僕達もどうしたらいいか分からずモジモジしていると、ふとY氏が。
「じゃあ取り合えず喫茶店でコーヒーでも飲みますか!」
と、またほざいたのである。
まぁ、確かにそれがいいやねってことでみんなで近くの(この前も行った)喫茶店へズラズラと歩いていったのだ。
しかしここで、今、23歳になった僕は思う。
「さてはY氏の野郎、メン募見てバンドマンと会うの相当なれてやがるな?(そしていつもあの喫茶店)」
まぁ、それはいいとして、みんなで喫茶店へ入り、ポロポロ話を始めました。
やれどんな音楽が好きなのかとか、やれどんな曲を弾くことができるのかとか。
色々話していて、K君はB'zやらエアロスミスやらが好きなことが分かった。
キャー!K君最高!!完璧やん!!
それにひきかえY氏の阿呆は、また一人で暴走してベチャクチャ唾を撒き散らして喋り捲ってやがる。
というか、なんか前回と比にならないぐらいのマシンガントークですわ…。
それになんだか凄い楽しそう。
前回会ったことで、もう僕等と友達だと思っていやがるな、このカサカサ大リーグ野郎が!!
という感じで喫茶店にいる間、発言の9割をY氏が占めていたもんだから、なんだかさもY氏がリーダみたいな感じになっちゃって、
完全に主導権を握りだしちゃってもう大変。
喋り捲って一人で熱くなっちゃったY氏が突然、耳を疑うような発言をしたのである。
「ハハハ。じゃあ、盛り上がってきたし、みんなで僕のウチ行こうか!」
「はっ!?(私の心の声)」
チラッとテリーさんの反応を見ると、テリーさん目が点になっていらっしゃる。
チラッと恥かしがり屋でウブなK君の顔を見て反応を確かめると、やっぱりイヤそうな顔していらっしゃる!!
おいおい、Yさんよぉ、空気読もうよ!
溜まりかねたテリーさんはY氏にこう聞いた。
「家って、近いんですか?」
するとY氏。
「うん、ここから自転車で30分ぐらいかな。ハハハ。」
「てめぇ、全然近くねぇじゃねぇか!(私の心の声)」
………もう、ここから先は、あまりにもひどい光景であった……。
真昼間から、やたらガチャガチャうるさい自転車を軽快に漕ぎ、後ろを振り返り大きな声で色々なバンドの話をして、
楽しそうに「ハハハ」と空気の漏れるような笑い声を上げる、大リーグチームの帽子を被った小汚い30歳ぐらいの、
今でいうところのニートだと思われる男を先頭に、
後ろから高校生や中学生が暗い顔をして「ハハハ」と愛想笑いをしながらついてくる…。
なんだこの光景は……。新手の誘拐か…?
汚らしい小さな一軒家に到着すると、得意気にY氏は僕等を中に誘い、何故か二階にあるY氏の兄の部屋に案内された。
そこに兄はいなかったが、引きっ放しの布団があり、Y氏は僕等にそこに座るようにと言い、押入れの中から一本のギターを取り出した。
出てきたのはなんとイングヴェイ・マルムスティーンモデルの白いストラトキャスターである。
それをおもむろにテリーさんに手渡すと、「弾いていいよ」とおっしゃった。
テリーさん、困った顔で仕方なくBOOWYかなんかを延々弾き続けていた…。
Y氏はそれを満足げな顔でしばらく見ていると、今度は階下にK君を誘い、僕とテリーさんはそのまま兄の部屋に残されてポカーンとしていた。
いつまでたってもY氏とK君が戻ってこないので、仕方なく僕とテリーさんは階下に降り、様子を見に行った。
すると、そこには信じられない光景が!!
一階にある居間のような場所の一角に、物凄く汚らしいホコリだらけの茶色い電子オルガンのようなものがあったのだが、
それをK君が真っ赤な顔で、目にはほんのり涙を溜めて弾き続けているのだ。
隣ではY氏が物凄くウットリした、エクスタシーを迎えたような表情でずっと凝視している。
なんてこった!K君はずっとY氏に見張られて、このなんだかベタベタしそうな鍵盤をはじき続けていたのである……。
かわいそうに……。
K君はまるで犯された処女の女の子のように痛々しく、悲しすぎる表情で無抵抗に音階を奏で続けるしかなかった……。
それを助けるべく、テリーさんがY氏にとっさの思いつきで話しかけた。
「なにかギターの教則ビデオとか持ってますか?僕、前から一度見てみたいと思ってたんですよね。」
するとY氏、物凄い幸せそうな笑顔でニヤ〜っと笑い、
「いいのがあるよ!クィーンのブライアン・メイのが!!!!」
と、そこから信じられないようなスピードでそのビデオをバタバタと探しに行った。
そして、またバタバタと帰ってくると、
「あった!これだよ!」
と言った瞬間、もうすでにその持ってきたビデオテープはそのままビデオデッキの中へと差し込まれてしまった……。
そこから、ブライアン・メイのギター教室が否応無しに始まってしまった…。
僕達は皆テレビの前から動くことは許されなかったのだ。空気的に……。
僕はこの時思いましたね。
「あぁ…!早く帰りたい……!!」
って。
もう、後は、テレビの画面を死んだ魚のような目で、なんとなく見つめて、ただただ時間が過ぎるのを待ちましたよ。
釈放されるまでの時間が来るのを……。
帰り道はみんなもうやつれ果てていた。
Y氏とはY氏の家の前で別れたので帰り道は三人だった。
みんな自転車を漕ぐスピードが老婆よりも遅かった…。
もう時間としては夕方ぐらいで、夕日が以上に綺麗だったのを憶えている。
ああ、切ない夕暮れやね…と、僕が、涙で滲む視界で夕日を眺めていた時、ふとK君がこう言ったのだ。
「Yさんって、いったい何歳なの…?」
僕はこの質問が、他のどんな質問よりも重く感じられた。
K君はあのY氏の家の汚い鍵盤を延々叩いたその手で、しっかりとハンドルを握りながら、こんな質問を僕達に投げかけたのだ。
K君にはもっと聞くべきことがあったのではないか?
「何故僕はあんな汚い家に連れてかれたの?」とか
「何故僕はあんな汚い鍵盤を弾かされたの?」とか
「Y氏は頭大丈夫なの?」とか
「Y氏は何で大リーグの帽子なの?」とか…。
でも、優しいK君の質問は、そのことには一切触れていなかった。
優しいねK君。君は素敵だよ…。
「っつーか、あのボケはなんであんだけベラベラ喋っておいて、自分の年齢すら教えてねぇんだよ!!(私の心の声)」
まぁ、こんなことがあったので、当然僕とテリーさんの中では、Y氏とバンドをやるのはもうやめにしようという話になった。
そこで、テリーさんは電話でY氏に解雇通告をすることに決めた。
震える手で番号を押すテリーさん。
僕も震えながら隣で状況を伺っていました。
トゥルルルル… トゥルルルル…
Y氏の母 「はい、もしもし」
テリー 「あ、もしもし私Yさんとバンドをやっている者なんですが…」
Y氏の母 「あ、ちょっと待ってくださいね」
テリー 「あ、あの!変わらなくて大丈夫です!!」
私の心の声「え!?なんで変わらないの…?」
Y氏の母 「…え〜と…なんでしょう?」
テリー 「あのぅ…実はYさんとバンドやるの辞めたいと思ってるんで、それを伝えて頂けないかと…」
Y氏の母 「…は、はぁ…。」
私の心の声「あれ〜!!親に言っちゃったよこの人は!!(笑)」
それ以来、僕はY氏がどこで何をしているのか、全く知らない…。
K君とは、その後、以前書いた僕の人生初ライヴの瞬間まで一緒にバンドをやった。
めでたしめでたし。
つづく

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2006/11/18
さて、世間様はすっかり冷え込み始めて参りましたね。
人々はそれを冬と呼ぶのさ。
世界はそれを冬と呼ぶんだぜ。
フリーターで昼ドラ大好きな僕は、佐野史郎を見るととっさに冬彦さんと呼んでしまうんだぜ。
まぁ、意味の分からぬ戯言は放っておきまして、
さぁさぁ、皆さんお待ちかね!!
わたバン(私のバンド遍歴の略)の続編が始まるよ〜〜!!!
っと、え〜、それでですね、今回お話しするのは僕が中学三年生の時、文化祭にバンドで出演した時の話です。
これがまたなかなかの感動秘話でして、それはもうまるで僕の大好きな青春物語ばりに甘酸っぱくて、心温まっちゃって、しまいには涙腺緩みっ放しになっちゃうようなスゲぇ話ですよ。
どうでぇ、あんちゃん。この話の続き聞きてぇか?
ああ、そうかいそうかい。聞きてぇかい。うんうん。ええ子や。それじゃ、まず酒持ってこい。
うぃ〜、ヒック…。
え〜、それでなんだっけ?
ああ、そうかそうか、文化祭がどうしたってやつか。それじゃ続きを話そうかね。
って、なんだ!この老人みたいなトーンは!!ふざけやがって!!キッズウォー(ざけんなよ)って感じですよ。
ちなみにこれは自慢なんですが、通ってた中学の僕の代ではかなり僕がエレキギターとかロックとかの先駆者でした。
もうかなりパイオニア的存在です。
もう神です。
だってみんな僕を崇めまくっちゃって本当に大変だったもん。
なんか目ぇ輝かせちゃって、「ハァ〜〜ッ……」とかスゲェ感極まったような溜め息漏らしちゃって、
しまいにはアラーの神にお祈りするようなポーズで僕の足下でブツブツ「ありがたや、ありがたや」とか言ってるやつもいたし…。
って、なんか今日、僕さすがに話脱線し過ぎじゃない…?
自分でもさっきからうすうす気付いてんだけど、なんかやめられないんだよね…。
多分それは性格が捻くれてるからなんだろうけど、これじゃ読んでくれてる人がいちいち話し逸れる度イライラするわな。
すいません。気をつけます。でもきっとまた普通に脱線しちゃうと思います。そうです。反省してません。
テヘ☆
それで、僕がパイオニアなもんだから、実際文化祭でライヴをやる時も大変でしたよ。
僕がみんなを仕切って、楽器色々教えて、それぞれの面倒見つつ自分も曲をコピーしてみたいな感じで。
多分、これはマジでちょっと凄いんだけど、僕は文化祭にむけての準備として、バンドに余裕で半年以上は使ってますよ。
これ普通にスゴくね?即席バンドじゃないんだよ。
みんなにイチから教えていったんだよ!僕が。うわぁマジすげー!!今自分でもビックリした!!!
どんだけ根気強ぇんだよ!って感じじゃない?
ねぇ!どんだけ根気強ぇんだよオメェはって感じじゃない?
うわぁ〜、マジビックリした!超スゲー!!パイオニアまじスゲー!!!
だってさぁ、何が凄いかって言うとさぁ、以前8/19に書いた記事で僕の通ってた中学はかなり治安が悪かったみたいなこと書いたじゃない。
それは本当でさぁ、マジで僕の友達とかボコボコにされてたからね。
友達一人、血だらけ&根性焼きだらけで、しかも頭からジュースかけられてシクシク泣いてたからね。
なんだコリャって感じでしたよ。本当。
なんか的場浩二とか出てくるドラマかよって感じでしたよ。
その時って、僕は一人で学級委員会とかいう、同じ学年の全部のクラスの学級委員が集まる変な放課後にやる会議みたいのに出てたんですが…
というか、何故僕みたいなゴミが学級委員をやってるかと言うと、もちろんただのギャグで、
学級委員とか決める時って最初「立候補する人いますか?」みたいな感じで担任が聞いてきて、誰も手を上げる訳ないから、必然的に「推薦」とかいって投票になるじゃないですか。
でも、僕、その立候補者を募った時に手を上げてしまったんです…。
だって、仲間がみんな目で「行け行け!」って顔してるんですもん……。
それで期待を裏切るのは大嫌いな僕が「ハイ!!」とか行って元気よく手を上げたら友達大爆笑。
クラスのみんなも大爆笑。
でも、クラスによく一人ぐらいはいる学級委員やりたがるような奴、僕のクラスにもしっかりいやがって、そいつのビックリした顔といったらもう…。
そいつの予定では、立候補の時に誰も手を上げず、投票で自分が学級委員になれると思ったんだろうな。
で、その時のウチの担任の顔も凄かった。思いっきりシラケた顔で二分ぐらい僕の顔ガン見してて、その後、半年間の僕のいびられ方は半端じゃなかったよ。本当に…。
何やっても「おい!学級委員!!!」とか言われて。
僕は全然関係無いような、例えば誰か女の子が泣いてたりすると「おい!どうなってんだよ学級委員!!!」でしたからね。
と、……うぉぉぉおおい!!!!
どんだけ話逸れてんだよ!!
で、話を戻すと、その学級委員会に僕が出席してる間に僕の親友達がみんなボコボコにされてまして、会議の途中、突然教室のドアが「ガラガラ」と開きまして、ふと見るとボコられて怪我しまくってる友達がみんなそこにいて、遠い目をしながら僕を無言で手招きして呼んでるんですよ。
教室で会議中だった他の真面目な学級委員達はそれを見てみんな唖然として、僕も唖然としていたけど、2秒後に我に帰ってフラフラと廊下に出て行きましたよ。
「え!?なに!?なにごと!??」
という感じで、僕だけ何故か助かったのですが、なんでだろ〜な〜と思ってたら、その数ヶ月後に僕はその理由を知ることになり、驚愕するのだった。
その理由とは、とある出来事がきっかけであり、その出来事が起きたのはもう文化祭まであと一ヶ月とかぐらいの時で、学校にギターとかアンプとか持ち込んで、放課後練習してるような時期だったんです。
そこでみんなで練習してると、不良とかがいっぱい集まってきて、興味津々で廊下からみんなで中を覗き込んでくるんです。
「うわぁ、やりにき〜」とか僕が思ってると、そんな気持ちも知らないで不良達はズカズカと教室の中に押し寄せてきて、しまいには1センチぐらいしか離れてないような距離まで近づいてきて、メッチャ僕の指先を見てるんです。
そんな至近距離の無言のプレッシャーがずーっと続くもんだから、僕は間が持たなくなって、不良達に楽器を貸してやりましたよ。
そしたらみんな大喜びで「ウホウホ」とか言いながら楽器に集まってきちゃってもう取り合いですよ。
で、しばらくみんなで「貸せコラ!」「次はわいの番じゃ!」とかやってたんだけど、誰も楽器なんか弾けないもんだから、みんなメッチャ悲しそうな顔になっちゃって。
で、「どうやってやるんだ?」とか聞いてくるから、僕はB'zの最強のベースラインの曲「NATIVE DANCE」を弾いて見してやりましたよ。
そしたら「ウホホウホウホ!」とか言ってみんな興奮して「教えろ教えろ!」ですよ。
なので、超面倒くさかったけどなんとか教えて、もうこれで満足するだろうと思ってたら、今度は一人の不良が「Pleasure'91のギターを教えてくれ」とか言い出した。
Pleasure'91というのは、これまた言うまでもなくB'zの名曲なのだが、それも僕はしっかりと気長に教えたので、不良達は気分よく撤収していったのである。
まぁ撤収したのはその後何時間も教えた曲を弾きまくった後だが…。
まぁ、結局何がいいたいかと言うと、そういう出来事があったので、僕はボコボコにされずに済んだらしいのである。
しかもその時の不良の口ぶりは
「あいつはギター教えてくれたから…いいやつだ…」
とかそんな感じだったらしい。
やっぱり凄いでしょ?パイオニアは。
(何が凄いって、こんなことの説明にこれだけの文字数使ったことが凄い)
いや〜、それで、ようやくこれから本題に入っていきますけども、その………え?
なに?なんだよ!人が話してるのにいきなり口挟むんじゃねーたよ!
え?なになに?結局Y氏の話はその後どうなったんだって?
何言ってやがんだよ!そんなの電話でとっくに断ったよ!あんな奴と一緒にバンドなんかできる訳ねーじゃねーかよ!
え?なに?その時のことを細かく説明してくれだぁ?か〜っ、あんたも本当にY氏が好きだねぇ!!
しょうがねぇなぁ特別だぞ!でも、それは次回のお楽しみだ。いっぺんにそんなに喋ったら勿体ねぇからな!
(ということで、相も変わらず今回もY氏ネタで引っ張ります。それでは次回「Y氏との別れ」お楽しみに)
つづく

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2006/7/22
さあさあ、皆さんお待ちかね!
“わたバン”(私のバンド遍歴)の続編が始まるよ〜!!
今回はいよいよY氏の正体が明らかになるのか!?
それは僕自身、書き始めてみないとどうなるのか分からないのですよ。
どうせなにも考えてないからな!へっ!!!
ということで、サクサク進んで参りますよ〜〜〜!!
さて、前回はY氏の年齢について、僕が凄くかわいい感じでテンパッちゃったところでストップしてしまいましたが、
その後テリーさんに確認しましたよ。Y氏が今何歳くらいか。
そしたらね、ビックリ!!本当に40歳くらいだって言うじゃありませんか!!!
エェェェェ〜〜!!!ですよ本当に。
ということで皆さん、是非これから始まる世にも奇妙な物語を、Y氏が40歳近く(当時は30歳くらい)だと思って聞いて下さいよ!!
まだ肌寒さの残る、とある休日に、僕とテリーさんはY氏との待ち合わせ場所である、
埼玉県にある某楽器屋のメン募コーナーの前でそわそわと並んで立っていた。
周りに人は数人いるが、どうやらまだY氏は来ていないようだ。
何度も言うが、僕は当時中学二年生である。
こういう風に、人と待ち合わせをした経験も恐らく殆どなかった筈だし、
必要以上に緊張していたことだろう。
電話でY氏は、なにやら大リーグ(ここがミソ)のどっかのチームの野球帽を被って来ると言っていた。
だから僕等は必死になって大リーグの帽子を探したんだ。キョロキョロキョロキョロ…。
しかし、見栄っ張りな僕達は、本当はもの凄くテンパッてるくせに、
「あ〜、なんか腹減んね?」
「うん、、なんか変な匂いするよね…。」
「あれ?そういえば昼飯喰って来たっけ?」
「分かんねぇ、でも多分うんこの匂いではないと思うけど…。」
と、冷静に、小粋に会話を楽しんでいるフリをして、実は全然噛み合ってなかったり、
超うわの空だったりしていたのだが、そんなことを繰り返していた数分後、
視界にフッと大リーグチームの野球帽が入って来たのだ…!!
「(はうあっ!!!)」
「……ぉい……:*;+>,]/@_:#……」
「(えっ?なに!?)」
「…ぁ…ゎ、ぇぃ……」
と、二人とも声にならない声でお互いに「行け!行け!」的なムードを出しつつ、
肘でツンツンしあっていたのだが、そうこうしている内にその野球帽は、
スタスタと僕等の前を軽快に通り過ぎていきそうになったのだ。
そこで「まずい!」と思った僕はテリーさんの背中を力いっぱい押すと、
テリーさんはウマイこと「おっとっと…」とか言いながら、
その大リーグの真ん前に躍り出て「これはもうお前が行くでしょ」的な空気はばっちり作れたのである。しめしめ。
するとテリーさん
「あのぅ、すみません、もしかしてYさんですか?」
すると大リーガー
「え?あ、違いますけど…。」
するとテリーさん、顔真っ赤。
という感じで、人違いだったのですよ、これが。
それで二人ともヘラヘラして恥ずかしいのを誤摩化しながら、
またメン募の前に立っていたのですが、
一回アタックしたもんだからなんか少し余裕出て来ちゃって、
微妙に風格なんかも出てきてしまったりしたりしてね。
まるで、ナンパの時と同じ感じで、
街に出て一人目に声かける時はメチャクチャ緊張するのに、
そこで玉砕してしまえばもう無敵。
二人目以降はもう「次ィ!!」「ハイ!次ィ!!」
とサクサク行けちゃう感じと同じなんですよね。きっと。
ハっ!チョット待ってくれ!!
これじゃまるで僕がナンパとかしたことあるみたいじゃないか〜〜!!!
まぁ、それぐらいあるけどさぁ。
で、そんな感じで少し余裕出しつつ、また野球帽を探してたんですよ。
するとまた、フッと大リーグっぽいのが視界をかすめたのです。
「おい、今度はどうかな?(笑)」
「どうせ違ぇだろ(笑)」
「な!俺もそう思う(笑)」
「じゃあちょっくら行ってくるわ!(笑)」
と、言ってテリーさんは軽快に話し掛けにいったのだ。大リーグキャップの男に。
「あのぅ、すみません、Yさんですか?」
「あ、そうです、Yです、あ、どうも」
!!!!!
キャー!!来たよ、本物!!
と、僕等は完璧に緊張感が抜けていたので、軽く凍り付く。
しかし、会ってみてから僕は大事なことに気付いた。
相手は大人じゃないか…。何で会う前に気が付かなかったのだろう…。
僕は大人なんてそれまでの人生で、親か、親戚か、友達の家の親か、先生か、近所の商店街のおばちゃんくらいしかしか知らなかった。
瞬間、緊張や焦りからか妙な汗が噴き出してきた。
まずい…僕はきちんとしたマナーとか分からないぞ…。
まさかこんなタイミングで大人と接することになるなんて……。
もっとちゃんと、新聞とか、ニュースとか見とけば良かった…。
なんて、大袈裟に感じるかもしれないが、
まだ世の中のことなんて何も知らない中学生にとっては、
大人と接することはこれくらい大問題だった筈である。
それはまるで初めてのセックス、初めての高級フランス料理、初めての結婚披露宴のスピーチ、
等になんの予備知識も持たずに挑むくらいの勢いがあるのだ。
そんな風に凍り付いた頭で、ピヨピヨと焦っていたのだが、
冷静にそのY氏の風体を観察してみると、なにかがおかしいのだ…。
なんというか威厳が無いと言うか、大人には見えないと言うか、
髪型が“まことちゃん”ばりのざんぎり頭だと言うか、服が全体的に黄ばんでると言うか、
終止ヘラヘラ笑っていると言うか………。
だんだん「こいつ本当に大丈夫か…?」的な感じで僕が思っていると、
「じゃあ、取り合えずそこらの喫茶店でコーヒーでも飲みますか。」
と、Y氏は慣れた感じでそう言ったのだ。
「(はうあっ!!やっぱりこの人は大人なんだ!!
コーヒー、喫茶店……大丈夫か俺…。ちゃんとその場を乗り切れるか…!?)」
当然、当時中学生の僕は自分から喫茶店に行ったことも無ければ、
外でコーヒーを飲んだことも無い訳で、焦る焦る…。
取り合えず場所を移すってんで、近くの喫茶店まで歩きつつ、軽く話をする。
「僕はねぇ、清志郎さんが大好きなんだよ。RCサクセションって知ってる?」
とY氏。
しかしながら、僕等が当時それを知っている訳は無い。
なにせ、そもそもB'zのコピーがやりたくて、メン募を出していたくらいなのに…。
というか、この人は一体何を見て僕等に電話をくれたんだ…?
喫茶店までの道中、といっても結構短かったんだが、Y氏は喋る喋る。
緊張して、借りてきた猫のように大人しく、相槌しか打たない僕等をよそ目に、
一人でペラペラ喋っては、ハハハ、と笑う。
しかも声がやけにしゃがれていて、空気の漏れるような声で、ハハハ、と笑うのだ。
僕等は、そのY氏の、ハハハ、のタイミングに何となく合わせて、
ハハハ…と笑うのが精一杯で、当時無知だった僕等には、
色々なロックバンドの名前等を挙げつつ話すY氏の話の内容が全く分からなかった。
喫茶店に着き、Y氏とテリーさんがアイスコーヒーを頼んだので、
僕も慌てて同じ物を頼んだ。
「よ〜し、ここで子供だって言うのがバレたらおしまいだ!」
という訳の分からない事にこだわり、僕は喫茶店シロウトだと思われないように、
上手くこの場を乗り切るということだけに情熱を燃やした。
アイスコーヒーが来て、皆の前にガムシロと、ミルクが並ぶ。
僕は迷わず、ミルクを開けると、全部コーヒーに注ぎ、
次にガムシロも同様に注ごうとして、他の二人を見て目を疑った。
テリーさんは何も入れずに飲み出しているし、
Y氏はミルクとガムシロを両方とも半分ずつくらいしか入れていないのである。
それを見て僕は「大人って難しいぜ…」とか思いながら、
ガムシロを半分だけ注いだのだ。
まぁ、そんなこんなで、
取り合えずまず初めにお互いの好きな音楽等について話し始めたのだが、
なんと言ってもY氏の声のデカイこと…。
それはもう店中にわざと聞かせてるんじゃないかってくらいですよ。
しかも好きな音楽の話しながら、突然デカイ声で歌い出すし。
そりゃあ周りのお客さんも普通にこっち見てる訳ですよ。
で、しまいにはテンション上がってきたY氏は、
テーブルを叩いてリズム取りながら歌うんです。
その時、僕は思いましたね。
「恥ずかしぃ〜〜!!!!」
って。
「えっ!?コイツやっぱりちょっとおかしいんじゃないの!?」
って。
ちらっとテリーさんの様子を見てみると、やはり恥ずかしそうで、顔真っ赤。
ちらっとY氏の方を見てみると、気持ち良さそうに歌ってる…。
あぁ、あぁ…しかもテーブル叩いた時に半分残したミルクがひっくり返っちゃって、
上着の袖にべったりミルクが付いてるじゃない…。
「え!?誰!?……最初にコイツのこと大人って言ったの誰!!?」
僕は恥ずかしさで熱くなっていく頭の中で必死に考えた。
僕は一体こんなところで何をやっているんだろうか…。
こんなところで30近いヤツに辱められてていいんだろうか…。
バンドをやるってこういうことなのか…?
大人になるってこういうことなのか…?
違うよなぁ、コイツがおかしいだけだよなぁ…?
どうなの!?どうなんだい!?
するとY氏がふと
「なんか僕だけ歌ってもアレだから、君もなんか歌ってよ!」
と、しゃがれた声でテリーさんに絡む。
するとテリーさん
「え…ここでですか………あ、いや……、え〜っと……」
するとY氏
「恥ずかしい?」
するとテリーさん
「あ、はぁ…」
するとY氏
「まぁ、今はしょうがないよね。もっとやっていったら平気になると思うけど…。」
と、ヘラヘラ前歯の無い笑顔を浮かべ、
カサカサでボロボロな手で寝癖だらけのざんぎり頭をポリポリ掻き、
ハハハ、と空気の漏れるような声で笑ったのだ。
この頃の僕にはY氏の言う意味が分からなかった。
というかY氏の存在自体意味が分からなかった。
でも、今の僕はこう考える。
Y氏は下の中のいずれかだったのではないだろうか。
1、一般常識では考えられない奇抜な行動を取る天才肌。
なんか声もガラガラだったし、ロックスターになれる人材だったのかも知れない。
2、実は少年に興味がある変質者で、少年が恥ずかしがる姿が大好き。
3、ただのジャンキー
4、ただの馬鹿
絶対にこの中のどれかだ。間違いない。
彼は明らかに特殊な人間だったと思うし、今出会ったら一秒でも早く別れるよう、
あの手この手を考えると思う。
僕とテリーさんにとって、彼はバンドをやっていく上で初めて会った人間であり、
僕等には他に比べる対象が無かった。
だから、こういう場合の適切な対処方法が分からなかった。
喫茶店から出るとき、Y氏はこう言ったのだ。
「じゃあ。これからもヨロシクね!また連絡するよ!」
「え!?なになに!?俺等結局一緒にバンドやんの!!!!??」
つづく

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