オルタナティヴロックバンドVery Apeのシンガー
「Ape」のブログでございます。
基本的には過去のことについて語ります。
2006/11/30
僕はY氏とは人生で二度しか会ったことがない。
一度目は以前お話した、喫茶店で悪夢のような体験をした、僕がまだ中学二年生だった頃の忌々しいあの日のこと。
そして、二度目はこれからお話しするのだが、これまた悪夢のような、前回会ったときからまだほんの一・二週間しか経過していない、とある日のことである…。
〜〜〜今までこのブログを読んでいなかった人のために軽くY氏のことを説明すると、
彼は僕とテリーさんと一緒にバンドをやりたいと申し出てきた、大リーグの帽子を被った変質者で、
当時30歳ぐらい(現在40歳ぐらい)の色々な伝説を持つ男である
(詳しく説明するのが面倒くさいので、もっとちゃんと知りたければ以前の記事を読んでね)〜〜〜
一度目にY氏と会った、あの最悪の日から何日か経ったある日、またメン募の紙を見たという人物から我が家に電話が入った。
その瞬間、僕とテリーさんはゾッとした。
もうY氏のお陰で人と会うことにかなりビビッていたのだ。
「嗚呼…また喫茶店で歌いだしたらどうしよう…」
「嗚呼…また“まことちゃん”みたいな奴だったらどうしよう…」
と、受話器を持つ手も震えっ放し…。
しかし、話してみると今回はY氏とは大分違う、随分まともな人のようだぞ!
歳もテリーさんと同い年で、なんだかいい感じやん!
ということで、早速会ってみることにした。
電話をしてきた彼はK君といい、キーボードを希望しているのだ。
よっしゃ〜!尚更都合いいぞ。ハハハ。
ということで、また例の楽器屋のメン募コーナーの前でK君と待ち合わせをしたのである。
だがしかし、もちろんY氏も一緒だ……。
待ち合わせ当日、僕とテリーさんが待ち合わせ場所に着くと、もうすでにK君は到着していた。
見るからにズボラなY氏はもちろんまだ来ていない…。
見るとK君、非常に可愛らしい顔立ちで、服装も小奇麗。
少し話しかけると、恥かしがり屋なのだろう、顔を真っ赤にして照れているじゃあありませんか。
何!?K君超可愛いしメチャクチャ好感持てるんですけど!!
なにこのY氏との違い!!と、僕が一人で思っていると、来ましたよ大将が…。
「ハハハ。どうも。Yです。」
「てめぇ、まずは遅刻してきたことを謝れ!(私の心の声)」
まぁ、取り合えずコレでみんな揃ったぞ、ということで、恥かしがり屋のK君を筆頭に、
人見知りな僕達もどうしたらいいか分からずモジモジしていると、ふとY氏が。
「じゃあ取り合えず喫茶店でコーヒーでも飲みますか!」
と、またほざいたのである。
まぁ、確かにそれがいいやねってことでみんなで近くの(この前も行った)喫茶店へズラズラと歩いていったのだ。
しかしここで、今、23歳になった僕は思う。
「さてはY氏の野郎、メン募見てバンドマンと会うの相当なれてやがるな?(そしていつもあの喫茶店)」
まぁ、それはいいとして、みんなで喫茶店へ入り、ポロポロ話を始めました。
やれどんな音楽が好きなのかとか、やれどんな曲を弾くことができるのかとか。
色々話していて、K君はB'zやらエアロスミスやらが好きなことが分かった。
キャー!K君最高!!完璧やん!!
それにひきかえY氏の阿呆は、また一人で暴走してベチャクチャ唾を撒き散らして喋り捲ってやがる。
というか、なんか前回と比にならないぐらいのマシンガントークですわ…。
それになんだか凄い楽しそう。
前回会ったことで、もう僕等と友達だと思っていやがるな、このカサカサ大リーグ野郎が!!
という感じで喫茶店にいる間、発言の9割をY氏が占めていたもんだから、なんだかさもY氏がリーダみたいな感じになっちゃって、
完全に主導権を握りだしちゃってもう大変。
喋り捲って一人で熱くなっちゃったY氏が突然、耳を疑うような発言をしたのである。
「ハハハ。じゃあ、盛り上がってきたし、みんなで僕のウチ行こうか!」
「はっ!?(私の心の声)」
チラッとテリーさんの反応を見ると、テリーさん目が点になっていらっしゃる。
チラッと恥かしがり屋でウブなK君の顔を見て反応を確かめると、やっぱりイヤそうな顔していらっしゃる!!
おいおい、Yさんよぉ、空気読もうよ!
溜まりかねたテリーさんはY氏にこう聞いた。
「家って、近いんですか?」
するとY氏。
「うん、ここから自転車で30分ぐらいかな。ハハハ。」
「てめぇ、全然近くねぇじゃねぇか!(私の心の声)」
………もう、ここから先は、あまりにもひどい光景であった……。
真昼間から、やたらガチャガチャうるさい自転車を軽快に漕ぎ、後ろを振り返り大きな声で色々なバンドの話をして、
楽しそうに「ハハハ」と空気の漏れるような笑い声を上げる、大リーグチームの帽子を被った小汚い30歳ぐらいの、
今でいうところのニートだと思われる男を先頭に、
後ろから高校生や中学生が暗い顔をして「ハハハ」と愛想笑いをしながらついてくる…。
なんだこの光景は……。新手の誘拐か…?
汚らしい小さな一軒家に到着すると、得意気にY氏は僕等を中に誘い、何故か二階にあるY氏の兄の部屋に案内された。
そこに兄はいなかったが、引きっ放しの布団があり、Y氏は僕等にそこに座るようにと言い、押入れの中から一本のギターを取り出した。
出てきたのはなんとイングヴェイ・マルムスティーンモデルの白いストラトキャスターである。
それをおもむろにテリーさんに手渡すと、「弾いていいよ」とおっしゃった。
テリーさん、困った顔で仕方なくBOOWYかなんかを延々弾き続けていた…。
Y氏はそれを満足げな顔でしばらく見ていると、今度は階下にK君を誘い、僕とテリーさんはそのまま兄の部屋に残されてポカーンとしていた。
いつまでたってもY氏とK君が戻ってこないので、仕方なく僕とテリーさんは階下に降り、様子を見に行った。
すると、そこには信じられない光景が!!
一階にある居間のような場所の一角に、物凄く汚らしいホコリだらけの茶色い電子オルガンのようなものがあったのだが、
それをK君が真っ赤な顔で、目にはほんのり涙を溜めて弾き続けているのだ。
隣ではY氏が物凄くウットリした、エクスタシーを迎えたような表情でずっと凝視している。
なんてこった!K君はずっとY氏に見張られて、このなんだかベタベタしそうな鍵盤をはじき続けていたのである……。
かわいそうに……。
K君はまるで犯された処女の女の子のように痛々しく、悲しすぎる表情で無抵抗に音階を奏で続けるしかなかった……。
それを助けるべく、テリーさんがY氏にとっさの思いつきで話しかけた。
「なにかギターの教則ビデオとか持ってますか?僕、前から一度見てみたいと思ってたんですよね。」
するとY氏、物凄い幸せそうな笑顔でニヤ〜っと笑い、
「いいのがあるよ!クィーンのブライアン・メイのが!!!!」
と、そこから信じられないようなスピードでそのビデオをバタバタと探しに行った。
そして、またバタバタと帰ってくると、
「あった!これだよ!」
と言った瞬間、もうすでにその持ってきたビデオテープはそのままビデオデッキの中へと差し込まれてしまった……。
そこから、ブライアン・メイのギター教室が否応無しに始まってしまった…。
僕達は皆テレビの前から動くことは許されなかったのだ。空気的に……。
僕はこの時思いましたね。
「あぁ…!早く帰りたい……!!」
って。
もう、後は、テレビの画面を死んだ魚のような目で、なんとなく見つめて、ただただ時間が過ぎるのを待ちましたよ。
釈放されるまでの時間が来るのを……。
帰り道はみんなもうやつれ果てていた。
Y氏とはY氏の家の前で別れたので帰り道は三人だった。
みんな自転車を漕ぐスピードが老婆よりも遅かった…。
もう時間としては夕方ぐらいで、夕日が以上に綺麗だったのを憶えている。
ああ、切ない夕暮れやね…と、僕が、涙で滲む視界で夕日を眺めていた時、ふとK君がこう言ったのだ。
「Yさんって、いったい何歳なの…?」
僕はこの質問が、他のどんな質問よりも重く感じられた。
K君はあのY氏の家の汚い鍵盤を延々叩いたその手で、しっかりとハンドルを握りながら、こんな質問を僕達に投げかけたのだ。
K君にはもっと聞くべきことがあったのではないか?
「何故僕はあんな汚い家に連れてかれたの?」とか
「何故僕はあんな汚い鍵盤を弾かされたの?」とか
「Y氏は頭大丈夫なの?」とか
「Y氏は何で大リーグの帽子なの?」とか…。
でも、優しいK君の質問は、そのことには一切触れていなかった。
優しいねK君。君は素敵だよ…。
「っつーか、あのボケはなんであんだけベラベラ喋っておいて、自分の年齢すら教えてねぇんだよ!!(私の心の声)」
まぁ、こんなことがあったので、当然僕とテリーさんの中では、Y氏とバンドをやるのはもうやめにしようという話になった。
そこで、テリーさんは電話でY氏に解雇通告をすることに決めた。
震える手で番号を押すテリーさん。
僕も震えながら隣で状況を伺っていました。
トゥルルルル… トゥルルルル…
Y氏の母 「はい、もしもし」
テリー 「あ、もしもし私Yさんとバンドをやっている者なんですが…」
Y氏の母 「あ、ちょっと待ってくださいね」
テリー 「あ、あの!変わらなくて大丈夫です!!」
私の心の声「え!?なんで変わらないの…?」
Y氏の母 「…え〜と…なんでしょう?」
テリー 「あのぅ…実はYさんとバンドやるの辞めたいと思ってるんで、それを伝えて頂けないかと…」
Y氏の母 「…は、はぁ…。」
私の心の声「あれ〜!!親に言っちゃったよこの人は!!(笑)」
それ以来、僕はY氏がどこで何をしているのか、全く知らない…。
K君とは、その後、以前書いた僕の人生初ライヴの瞬間まで一緒にバンドをやった。
めでたしめでたし。
つづく

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