子どもの人身売買やポルノ問題を担当する国連のマオド・ド・ブーア=ブキッキオ特別報告者(オランダ)が、女子高生らに男性の接待などをさせる「JKビジネス」などの禁止を勧告した報告書に対し、日本政府は8日までに反論の意見書を国連人権理事会に提出した。
ジュネーブから共同配信の記事によると、日本政府は29項目にわたる反論文書も人権理に提出。報告書が「JKビジネスは12〜17歳の女子中高生の間ではまれなことではなく、彼女たちは立派なバイトと考えている」と言及したことに対し「客観的情報に基づいていないように思われる」と指摘し、ブキッキオ氏が昨年10月、東京都内での記者会見で「日本の女子生徒の13%が援助交際を経験している」とした発言に対し外務省は客観的な根拠に基づかない発言だとして発言撤回を要求していた。そして日本政府は特別報告者が日本と日本の文化に対する理解が不足していると主張している。
女性差別撤廃委員会による「夫婦同姓」「再婚禁止期間」に関する民法規定の改正、「マタハラ」を含む職業上の差別に対しても実効ある対策を強く求める勧告が出されたばかりでもあるが、世の中にはこれも日本文化だと反論する空気がある。
私自身、家制度を基盤にムラ社会的なコミュニティで育ってきた者として染み付いてしまった感覚も自覚している。そしてその感覚が多くの人びとを苦しめ、絶望させる現実も目の当たりにしてきた。だからこそ、国際人権法やそれに基づいた勧告には謙虚であるべきだ。そして怪しげな「文化」で反論するより、国際人として、社会人として、人間として、そもそもその文化に問題があると考えるべきであろう。
報告書が、日本の女子中高生の多くが売春をしているような誤解を与えるので「遺憾」などと細かく理屈をこねるより、現に性的搾取の被害に遭っていることに対する有効な対策を講じることが先決だ。子どもたちの尊厳よりも国家の体面が大事という姿勢は、日本の評価を悪くするだけだ。女子高生を男性客と一緒に散歩させる「JKお散歩」や「JK撮影会」、足裏マッサージなどをさせる「JKリフレ」などのJKビジネスだけでなく、より若年層を対象とした「だっこ会」など、明らかに性産業における子どもの商品化として禁止すべきというのは当然の勧告と言えよう。日本社会として真摯に受け止める必要がある。ソーシャル・ジャスティス基金が支援する「ライトハウス」や、まさに当事者が始めた「Colabo」などの民間機関がさまざまな取組み・努力をしているが、表に出ないケースが圧倒的に多く被害者が泣き寝入りしやすい問題だけに、人権擁護のため法的規制と共に専門性の高い救済体制が必要だ。
そしてさらに根本的に掘り下げなくてはならない。それは複合的に様々な要因をはらんでいる。お金を稼げる「立派なアルバイト」と考える拝金主義。それは「貧困」とも密接につながる。ネット社会の危険性は分断・孤立化と表裏一体だ。子どもの権利を考える国際比較において日本の子どもたちの最大の弱点は「自尊感情(セルフエスティーム)」の低さであり、それは社会参加への諦めと、卵とニワトリの関係にある。
今後もソーシャル・ジャスティス基金を通して、これらの問題を構造的に捉え、一つずつ、あるいは包括的に取り組んでいければと思う。的外れな反論ではなく、世界の到達点としての国際人権条約の理念と、たとえ少数であっても当事者の視点を踏まえ、建設的な対話を積み上げ、本当の私たちの「文化」を築いていければと思う。
《2016/3/16発行【ソーシャル・ジャスティス基金】メールマガジン第53号に寄稿》

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