10月、第二日曜日。今日は月に一度の楽しい、備中張り子教室がアイビースクエアーである日です。
秋晴れの美しい空に羊雲が連なっていました。ひろこさんの装いは、白いジャケットと、白いスカートです。“TOMO”という新しい素敵なお店で見つけた着心地の良いしっかりしたものです。ブラリと寄ったギャラリーでたまたま展示していたものです。ジャケットには、包みボタンがたくさんついていて、歩くとポコポコ音楽が聴こえてきそうなぐらい縦横無尽にボタンがくっついていました。その上にガーゼのようなフワフワのストールをハラリと肩にかけておりました。秋風に白くすけたストールが揺れていました。胸元には密かにお守りがありました。
備中張り子教室では、第一回倉敷まねき猫まつりが終わり、もうすでに第二回倉敷まねき猫まつりに向けての作戦会議が開かれそうでした。
ひろこ(来年は、招き猫饅頭とお抹茶のセットなんてできないかしらねえ・・)などと考えながら、アイビースクエアーへと歩いておりました。
いつものように今橋の前を通り、中橋の前を通り過ぎようとした時です。
石灯籠の前に、早々と店開きをしている女の人に気がつきました。
倉敷川のほとりで、小物を販売している人なのでしょう。
それにしても、こんなに早い時間からの開店は珍しいことです。ひろこさんが通る朝には、いままで誰とも出会ったことはありません。チラッと、女の人の手元を覗くと、きれいなトルコ石の銀細工でした。
女の人「おはようございます。」
ひろこ「おはようございます。随分、お早いオープンなんですねえ。」
女の人「ええ。ちょっと早かったかしら?このお店は今日からオープンなんです。」
ひろこ「まあ、今日から?」
女の人「はい。どうぞ、ご覧くださいませ。私このトルコブルーが好きなんです。」
ひろこ「本当、きれいな色ですねえ。」
女の人「これは売り物じゃないんですけど、いい出来なんですよ、見てください。」
そういうと、女の人はカバンの中から銀細工にトルコ石で飾り付けた小物入れを出しました。
それは手の中にすっぽり入る、猫脚付きの八角形の台の上に小さな家が建っているとっても手の込んだかわいらしいものでした。その屋根がフタになっていて、それを開けるとこれまた、小さなかわいらしい部屋でした。小さな机と椅子がありました。壁には絵が掛けてありました。よく見ると、小さなネズミが果物の上に乗っかっている、かわいらしい絵でした。もっとよく見ると床には、トルコ石で出来た地下室への扉がありました。なんだかその扉は開けられそうでした。ひろこさんは、壊さないように小指の先でゆっくりと、地下への扉を開けました。
地下室への扉を開けると、思ったとおり階段が下へ下へ続いていました。ちょっと暗くて見えづらかったので、ひろこさんは電気をつけようとスイッチを探しました。ネズミのいる果物の静物画の隣の柱にスイッチがいくつかありました。一番下のスイッチを押すと地下への階段に電気がつきました。
ひろこさんは、好奇心一杯で地下室の階段を下りはじめました。
その時、パタリと小物入れの屋根の閉まる音がしました。もう進むしかありません。
階段は十段ほど下りて踊り場がありました。そこで階段は折れ曲がってまた十段下りている様子ですが、暗くてはっきり見ることが出来ませんが、よく見ると下の踊り場に小さな丸テーブルがありました。その上に、小さな張り子の招き猫が赤い座布団の上にちょこんと座っていました。
ひろこさんは思い出しました。
ひろこ「カムカム!」
小さな招き猫は軽やかに立ち上がると、テーブルからピョコンと飛び降りました。
ビヨーンとカムカムは大きくなり、ひろこさんは、いつもの真っ白な張り子の招き猫になりました。
今日のカムカムの模様は、白いところの少ない三毛猫でした。

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