カムカム「仕方がないが、黒チョウの歌い手がでてきても、そうさん達が耳栓配ってるから大丈夫じゃ。」
ひろこ「それにしても、私たちは一体どこに向かっているんでしょう?」
カムカム「キラキラの力じゃから、まちがいないって。」
そんな話をしながら三人の足は鶴形山の大藤棚の前でピタリと止まりました。
サチコ「ここに何かあるのかしら?」
大藤の樹から、ひょっこりもく君が、顔をのぞけました。
もく君「聞いたことのある声だと思ったら皆さんおそろいで、どうしたの?」
カムカム「もく君こそここで何してんの?」
もく君「ギャラリーの入り口で耳栓配ってたんだけど品切れになりそうになったんで、つくりに来たんじゃ。ぎょうさん用意しとったんじゃけど、どんどん人が集まるし、ギャラリーモ大きくなるし、でも品切れは困るじゃろう?黒いチョウが来たらいけんから、なんとかせんとなあ。」
ひろこ「そうねえ、数が足らないとたいへんなことになるもんねえ。」
カムカム「じゃあ、ここが耳栓工場なん?」
もく君「えーっと。ここは工場じゃなくって材料を取りに来たんじゃ、あと一万人分ぐらい用意しようと思って製造機械は“眠り猫”の奥にあるんじゃ。あともう少し材料集めをせんといけんのんじゃ。見に来てみ、ここのウロのなかじゃ。」
大藤の樹の根元の奥に、ぽっかり穴が開いていました。もく君に続いて三人が入っていきました。
もく君「大きい声は出さないで驚かすといけないから。」
穴の中は青白く光っていました。もく君は割り箸を持っていて綿菓子屋さんのようにクルクルと、その穴の壁に張り付いている青白い物を巻き取っていきました。
三人は静かにその様子を眺めていました。割り箸の先にはすぐに青白く光る大きな丸お玉が出来上がりました。そう訓はそれを大事に持つと穴から静かに出ました。
外で見ても大きく巻き取られた丸い玉は青白く光っていました。
もく君「これが秘密のクモの糸なんじゃ。子供の頃ここら辺でよく遊んだんじゃ。その時発見したんじゃ、ここのクモの糸は音を通さないんじゃ。まさか、耳栓になるとは思ってなかったけど。ある日、ひらめいたんじゃ。」
ひろこ「へー不思議。」
もく君「このクモの糸を耳栓に少し混ぜるだけで、あのスーパー耳栓になるんじゃ。」
カムカム「クモかあ、僕は苦手じゃ。あの蜘蛛という漢字を考えてもゾッとする。」
もく君「平気じゃあ、小さいクモじゃ。さあ、さっそく“眠り猫”に持って帰って耳栓を作ろう。手伝ってくれる?」
サチコ「ええ、もちろんよ。そのためにここへ来たんだわ。」
四人は快眠グッズの店“眠り猫”にもどりました。
ひろこ「さあ、いそいで耳栓一万人分作りましょう!」
サチコ「ねえ、この糸を布に混ぜたら防音布になるわねえ。」
もく君「ええ、試作してるんですよ、このカーテンがそうなんです、もっといろいろ展開する予定なんですよ。」
サチコ「このカーテンくださいな。」
もく君「ええ、どうぞ。」
そのカーテンはこれから秋に向けての美しいワインカラーでした。サチコさんは、さっそくカーテンを取り外すとスカートの上にフンワリカーテンを巻きました。
カムカム「なんでカーテンを巻くん?」
サチコ「かっこいいのよ。」
(そーかなー?)とカムカムは思いました。
耳栓マシーンにクモの糸と綿を入れると次々に小さな耳栓が出てきました。そして袋に自動的にはいるとこれまた、立派な製品になったスーパー耳栓がこれまた自動的に白いダンボール箱に詰め込まれてスタンプがポンと押され出来上がりです。

0