おひょう「どうぞ、皆にお会いください。」
おひょうは、温泉の、のれんを上げてひろ子さんと一緒に中へ入りました。
犬の張り子が近づいてきました。
犬の張り子「ワンワンようこそ、ひろ子さん!」
牛の張り子「モーモー、たのみますぞ!」あの有名な、赤ベコです。
ウサギの張り子「イーお湯ですご一緒しましょう。」ピョーンピョーン
ネズミの張り子「チューチューこっちへいらして下さい。うわっ!猫なんですー!!」
ひろ子さんは、この間と同じ、まっ白の張り子の招き猫になっていました。
ひろ子「申し訳ない、猫です。でも、ネズミは、捕りませんから・・・」
と、言ったもののキョトキョトした様子のネズミの動作がものすごく気になりました。
竜の張り子「どーもど−もお世話になります。」
蛇の張り子「あーいい気持ち!」
三春の招き猫「まあまあ、こちらへ、どーぞ、いらしてください。」
ヒデコさんに、変身していたのは、この招き猫の張り子でしょう、張り子教室でも、ヒデコさんは無類の招き猫好きですから、きっとそうに違いありません。
招き猫の左手が、ピョコンと上がって、おいでおいでをすると、なぜだか、どうしても近くに行きたくなって、ひろ子さんは、スーと、呼ばれるまま隣の湯の中にポチャリとはいりました。いいお湯です。
三春の招き猫「ひろ子さん、本当に、いいお湯でしょう。私たちは、三春張り子なんです。ひろ子さんの、お仲間の姿を、お借りしてひろ子さんに近づいたのです、だまして・・・ごめんなさい。・・・聞いて下さい、話せば長ーい話なんです・・・」
ここまで話を聞いたとき、いきなり竜の張り子が、ドドドドドッと湯にもぐりこんだかと思うと、同じ勢いで、飛び上がり、天井に突っ込んだかと思われましたが、天井があっという間に雲に変わったかと思うと、竜の張り子は雲の中をスイスイと泳いで行きました。
バサバサ、コウモリが、それに驚いて飛び出していきました。
蛇の張り子は、ニョロリニョロリと、岩の隙間に入りました。鶏の張り子はバタバタっと牛の張り子の頭の上に乗っかりました。
ネズミの張り子は、もうのぼせたのか、羊の張り子のフワフワの頭の上でスヤスヤ眠り始めました。
三春の招き猫「いつもは、ネズミと猫と犬と猿とか、いろいろあって、そう仲良しというわけではないんですよ。猫は十二支に入れなかったくらいですから、しかし、今、大ピンチなんです。猫啼温泉に恐ろしくて行けなくなってしまって、困っていましたら、おひょうさんが、おひょう温泉を作ってくださいまして、このように利用させていただいています。」
寅の張り子「私たち三春張り子がスベスベで美しいのは、毎日、猫啼温泉にはいっているからなんですョ」
犬の張り子「今、恐ろしくて、猫啼温泉に、行けないんです。」
ひろ子「ふんふん、恐ろしいって・・・?」
犬の張り子「だから、猫石に、例のアレが・・・」小さな声で「化け、化け猫が・・・とりついたらしいんですョ」
そういうと、犬の張り子はブルッと体を震わせました。
三春の招き猫「イヤーそれは・・・」小さな声で「化け犬かも・・・しれません」
犬の張り子「またそういうことを言う!そんなわけないワン」
寅の張り子「ようわからんけど、猫石という大きい石に何かがとりついているようなんです。」
そう言いながら、張子の寅は、うまい具合に首を、振っています。
馬の張り子「その猫石、石なんじゃよ、大きい、ただの石、名前がついとったんじゃ“猫石”って言う名前、それが、動いたんじゃ。」
猿の張り子「猫石が、ゴットンゴットン歩くんじゃ・・・」
馬の張り子「ゴットンゴットン歩いて、猫啼温泉にドンブリつかるんじゃ・・・ウッキー恐ろしい!」

0